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2000年1月1日

「会計ビッグバン」とは?

 高校2年で既に物理の授業についていけなかった私は、「あきらめのよい」性格を理由にして、物理の授業中は他の科目の「自習」か睡眠という生活でした。最近は忙しく読む暇がないのですが、それ以来とんとご無沙汰していた物理の「サルでもわかる」系統の新書本などを買うことがあります。
 それによると、宇宙物理学の有力な仮説として、我々の住む地球も含めた宇宙が極少なものの爆発(ビッグバン)により始まったという理論があります。私のように想像力貧困な人間にはイメージを描くことも難しいことではあります。しかし、宇宙が存在しない状況から宇宙の生誕への大きな変革が、「ビッグバン」によりもたらされたということです。

 いきなり関係のない話になってしまいましたが、会計ビッグバンとは、会計制度の大きな変革を表現しています。誰が言ったか知りませんが、うまい言い方をするもんだな、と思います。別に今まで数値で表現されていたものが絵になるわけではありません。会計処理のルールの改訂や新たな決算書の作成、さらに会計の対象となる法人等の範囲の改訂が行われるのです。

1.会計ビッグバンの概要

(1)個別法人対象の決算書から法人グループ対象の決算書へ

 現代の大企業は、トヨタにしてもソニーにしても、本体の会計だけで活動しているわけではありません。諸外国の法制度、経済構造にあわせて現地法人を設立したり、多岐にわたる事業毎の経営管理を確立するために分社(子会社の設立)を行ったり、他の会社に資本参加することで、企業グループとしての発展を目指したりしています。

 つまり、大企業は、本体の1会社だけで方針を決め、活動しているのではなく、企業グループとして、統一的な方針を定め活動している訳です。

 そこで、そうした活動の結果である決算書について、その企業の経営状態を判定しようとするとき、本体の会社だけの決算書では正確な把握が困難であることになります。例えば、親会社は赤字だけれども、グループの中の1子会社が親会社の赤字をはるかに越える黒字を計上しているような場合、親会社だけの単体の決算書でその経営を判断できないことは明らかです。ソニー本体と、その子会社であるSCE(ゲーム機プレイステーションを製造している会社)とが、現状ではそうした関係にあります。(ただし、ソニー本体が赤字ではありません。念のため。)

 そのため、個別の法人をグループとして連結し、連結したグループの決算書により正確な経営評価を行おうと、今回の「会計ビッグバン」では連結決算書を決算書の中心に据えようとしています。従来日本の会計基準では、個別法人の決算書がメインで、連結決算書は付属資料的位置づけだったのですが、それを逆転しようというわけです。

 なお、法人税の計算の上でも、企業グループで課税所得を算定する方法=連結納税制度が検討されています。

(2)時価主義の導入

 現在の会計制度の基本的考え方として、「原価主義」というのがあります。これは持っている土地や建物、在庫商品、株式などを買ったときの値段を基にして、決算書に反映させようと言う考え方です。つまり、土地は買ったときの値段のまま、建物は買ったときの値段から使用した期間に応じて徐々に古くなるので、その部分を差し引いて(減価償却)決算書に反映させるというものです。

 この考え方は、誰が見ても明らかな値段に基づくし、実際にお金の支出という裏付けもあるので、勝手な判断をさせないと言う意味で会計上有効とされてきました。

 例えば、バブルの絶頂期に土地の値段が10倍になったから評価を10倍にする、あるいはバブルが崩壊して値段が1/2になったから半分で評価する、といったことでは決算書がむちゃくちゃになってしまうことは明らかでしょう。

 しかし、そうした問題はあるけれども、一方では昔の(買ったときの)値段での評価のままで、現時点の経営の判断ができるのか、という疑問もありました。

 例えば所有する証券取引所に上場している会社の株式については、毎日その時価が新聞に出ています。この値段で評価すればおおむね決算の時点での財産の評価が適切にできるというわけです。

 さらに、先物取引等のいわゆる金融商品は、通常の商品を仕入れる場合のようにものを買うわけではなく、手付け金(保証金)程度を支払うだけなので、取引開始時には大きな資金の動きはなく、終了時に多額の損益が発生することが特徴です。こうした金融商品の会計処理は、今までは、取引終了時に損益を発生させることとなっていたため、それ以前は多額の赤字が隠されていても決算書に出てこないことになっていました。特に金融商品の多くは取引の終了(手じまい)を任意に選択できたので、損失は多額になるまで隠されることがよくありました。大和銀行ニューヨーク支店の事件などは記憶に残っている方も多いと思います。

 こうした帳簿外にかくれていた損益についても、決算時点の時価で評価しようということになっています。

(3)退職引当金会計の改訂

 これも時価主義会計の一環といえますが、退職給与引当金の計上のルールも改定されました。

 従来は、役職員の決算時の自己都合要支給額(役職員全員が自己都合で退職すると仮定した場合の要支給額)の40%を計上していれば良いとされてきました。これは、日本の法人税法の損益限度額の基準がこうしたルールであったため、この処理で良いとされてきたのです。また、この「40%基準」は、「平均勤続年数12年、現在価値率8%」という想定のもとでは、適正な会計処理といえる、という理屈もありました。

 ところが、法人税法が98年に改訂され、従来の40%から20%に引き下げられることになってしまいました。20%では適正な退職引当金として少なすぎることは明らかで、20%しか計上していない決算書を適正とはとてもいえないということになりました。

 このため、本来の労働の対価として支払うべき退職金の決算時の時価を何らかの方法で算定しようということになりました。そして、ややこしい「年金数理計算」を決算時の未払の退職金を算定し、退職引当金を計上するということになっています。

 また、外部の生命保険会社等と契約し、毎月年金保険料を支払うことにより、退職金を法人が支給する代わりに、生保等が退職者に年金等で支払う方法、すなわち適格退職年金について、従来はその契約分は、法人として退職引当金を計上する必要はありませんでした。

 しかし、昨今の低金利の状況をうけて、そうした年金契約について予定の運用利益をあげられない状況となり、年金の源資が大幅に足りないこととなっています。そして、この不足分は、生保が補填するわけではなく、法人が保険料の追加として支払わなければなりません。この保険料の不足分(過去勤務債務)も退職引当金として計上することとなっています。

(4)キャッシュフローの重視

 キャッシュフローという言い方は、難しいイメージがありますが、要は現金預金等の資金の流れのことです。これを重視し、決算書の一つとして「キャッシュフロー計算書」を作成報告することとなりました。

 考えてみれば、法人の倒産等は資金の不足により生ずるのですから、それをきちっと報告するのは当たり前のことです。

2.会計ビッグバンをどう見るか

 こうした会計ビッグバンの動きをどう見るか、独占大企業の立場ではなく、民主的な経済の転換を目指す立場で考える必要があると思います。

(1)国際的な圧力、日本企業の安い「購入」の為に

 バブル崩壊後の日本経済の停滞、長期不況の中で、日本企業がその国際的地位を下げてきています。米国の大企業は、その資本増殖のために、日本の大企業を安く手に入れ、日本の市場に参入したいと考えています。最近では、多額の税金をつぎ込んだ日本長期信用銀行が欧米の金融機関に買収されましたが、こうした事例は、生保や製造業でもみられる通りです。

 では、日本の企業を安く買いたたくには、どういう方法がよいでしょうか。
 一つの有力な方法が、会計ビッグバンの導入です。企業の業績評価のルールを日本企業の業績にマイナスの方法にすれば、決算書上の業績は下がり、米国の格付け会社による格付けも下がり、株価も下がります。特にバブル崩壊後は、日本は土地や株式の値段が下がり続けており、会計ビッグバンにより、日本企業の値段はより「お買い得」になるわけです。

(2)多国籍企業の更なる増殖の為に

 一方、今回の会計ビッグバンは、「国際会計基準の導入」という形式をとっていますが、実質的には米国の会計基準の国際化ともいえる内容となっています。

 米国を中心とした多国籍企業の立場からは、国毎に会計や税法の基準が異なることは、その活動の障害となります。これらのルールを一本化することが、自由な(勝手な)企業展開のために必要なこととなります。

 また、ソニーやトヨタのような日本の多国籍企業の立場からは、よりスムーズな多国籍化のためには、米国の会計基準を日本及び世界各国に広げることのメリットがあるということになりましょう。

(3)大企業の的確な分析のために

 ただし、中味を見てみると、大企業の経営状況の正確な分析を行い、その動向を把握する上で有益な事項もあります。従来決算書にあらわれてこなかった資産負債の含み損が表面化する等のメリットもあるので、これらを活用することが期待されます。

 なお、今回の会計ビッグバンでも、隠し利益(含み益)について、特に土地等について十分な開示がされることにならないと思います。留意が必要です。

(4)民主経営での活用

 非営利協同の立場に立つ、いわゆる民主経営でも、キャッシュフローや退職引当金等適正な経営状況を示す上で、一定取り入れるべき内容も含まれています。その意義を十分把握した上で、参考としていくべきだと思います。

(根本 守)


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