不良資産会計
我が国の企業に沢山の不良資産が溜まり始めてもう10年以上が経過している。いまや銀行も生保も、ゼネコンも流通も、巨大な会社も、小さな企業にも不良資産が滞留し、いわば日本中が不良資産の山に埋もれている状況である。
我々「会計」を職の対象としているものにとっても極めてやっかいな状況が継続しているのである。今回は、この不良資産を巡る会計について論点整理を試みてみた。
果たてし整理されるのか、それとも混迷深き事態となるのか、自信はない。
1.健全企業
次の図は、会社の財産の状態を表す表で、難しい言葉で言うと「貸借対照表」であり、健全な企業を想定して要約したものである。
貸借対照表は、企業の決算日現在の財産の状況を報告する資料で、左側が+の財産で、そのうち800が土地の金額と報告されている。
右側は、資金調達状況を意味しており、負の財産すなわち負債たる借入金800と資本200とで構成されている。負債は「他人資本」と呼び、資本は「自己資本」と呼ばれる。
複式簿記では左と右は一致することとなるが左側の土地は、現在の処分価額時価を必ずしも意味していない。
近代の会計は、或いは我が国の会計は、土地などの帳簿上の金額は、購入したときの金額のまま据え置かれている。
この企業の所有土地が、実際には8,000の処分可能金額であるとしよう。その実態を上図同様に図解してみると次の通りとなる。
この企業が土地を処分すると7,200の処分利益が獲得され、借入金を全額弁済し税金を支払っても相当金額が手許に残る。
まったくの健全企業であり、金融機関も貸付金の回収等の心配はまったく不要という状態である。
日本中がこのような企業で大半を占められていさえすれば、平成の未曾有の不況がこんなに長引くこともなかったはずであり、国民の生活不安など生じようもなかったのである。
2.不良資産滞留会社
一般に「不健全企業」とは次のように図解される企業を言う。
このB社は、右の負債と資本の合計金額である13,000から、左側の資産10,000を差し引くと3,000余ってしまう。これが累積の赤字金額である。
ゼネコンや流通関係企業に限らず、我が国の多くの企業の相当数が赤字企業である今日、このような図は珍しくもない。
問題は、不良資産自身である。
A社では、土地は、帳簿金額より実勢価額が極めて高いという例であった。老舗の健全企業に多いケースと言える。
仮にB社の抱えている土地8,000がバブル最盛期に購入した土地であり、その後の下落を甘受した結果、実勢価格は1/10まで下がってしまっているとしよう。B社の実態の財産の表は次の通りとなる。
B社では、土地を処分しても、借入金の大半を返済できないことが明白である。
資金の貸し手の金融機関から見れば、貸付金の大半が回収できない現状であり、俗に言う「担保割れ」、「焦げ付き」状態であり、その貸付金の大半が「不良債権資産」ということが出来る。
B社が、本業でこの巨額の実態赤字を埋める利益を獲得して金融機関等への借入金弁済を実現することが出来れば問題は生ずることはないが、バブルに踊った企業らは本業の収益性とは関わらずに走り廻ったことから、とても日々の経営努力で弁済しうる借入金額ではない場合が圧倒的に多い。
3.減損会計
前節のB社のように、帳簿上、決算書上の土地等の数値が実態を表したものではなく、本当は「含み損失」が隠れている企業が無数に存在しているのが、今日の我が国の姿である。
大なり、小なり、我が国の多くの企業が抱えている土地、貸付金、子会社株式、海外投融資、上場株式・債権等々に問題の「含み損」が隠れている。この潜在的損失を明解に吐き出して世に問う必要がある。
近時、会計の分野で指摘され実践され始めた「減損会計」に他ならない。
文字通り、保有している資産の価額が下落ないし減少して損失を生じている場合に、当該損失を会計上認識する、すなわち損失計上処理すべし、という会計の取組である。広い意義での「時価会計」とも言える。
今や日本国中が減損会計大流行と言えよう。貸し手と借り手、親会社と子会社等々、この減損状態は、しばしば「連鎖」状態にある。
この負の連鎖の中心に金融機関が位置している。金融機関は貸付金が焦げ付き、親会社は子会社への投融資金が焦げ付き、子会社などは、価格が何分の一かに下落した土地等を抱えて身動きの取れない苦況に喘いでいるのである。これが我が国企業の多くの真実の実態である。
4.間接償却
この間、金融機関を中心に、不良・回収不能の債権の間接償却が進められてきた。
少々面倒な話であるが会計面から見てみると次のように理解できる。
事例 金融機関C社
資産のうちの不良債権額面 10,000
同 担保資産の評価回収金額 2,000
当該債権 破綻懸念債権
このケースで「間接償却前」のバランスが次の通りであるとする。
C社が貸付金について「間接償却」を施したあとのバランスは次の通りとなる。
C社では、10,000の貸付金のうち担保回収評価見込額2,000を差し引いた残額の8,000(無担保金額)の70%相当すなわち、5,600を貸倒引当金という間接的債権評価勘定に損失計上したのである。
このような処理を「間接償却」という。しかし、ここには論点が4つ存している。
一つは、担保資産の評価の幅である。
二番目は、無担保金額の70%の回収不能見込みの妥当性である。
三番目は、貸付金の元本を切り捨てているわけではないことである。
四番目は、税務上の費用性が認められるかは明解ではないことである。
金融機関の多くの不良貸付金は、このように貸付金元本を切り下げずに回収不能金額を貸倒引当金という資産のマイナス評価勘定を設定することにより多くの不良債権の処理を進めてきたのである。
5.直接償却
つい最近、声高に主張され始めた事柄に「直接償却」による不良資産整理処理方法がある。
前節の「間接償却」に対置される処理方法である。
「間接償却」が不良資産の損失を資産のマイナス的評価勘定を通じて処理する、やや軟弱な処理方法であるのに対して、「直接償却」は、貸付金元本そのものの全額ないしは何割かを法律上も消滅させてしまう方法である。
そうすれば先に挙げた論点のうち、損失は確定するし、このため税務上の処理も確定するし、論点もなくなることとなるのである。
先のC社の例で、直接償却後のバランスを図示すれば次の通りとなる。
この例の想定は、元本が概ね回収可能金額まで切り捨てられて残存している。
一般に「債権放棄」といわれる手法が基礎となる。
債権放棄は、債権の全額ないしは一部の放棄をするものであり、その切り捨てられた債権金額は法律上、復活することはない。
さらにこの債権放棄は、任意的債権放棄の処理の場合と、法的整理に基づく債権カットの場合とに分かれることとなる。
任意的債権放棄の処理方法は、一般に借り手たる企業の再建型処理であり、後者の法的整理は、再建・再生型を含むものの、破産等の企業消滅もあり得る方法と言える。
公的金融機関を含めて、我が国の金融機関や生保会社等は膨大な不良債権を間接償却方法で処理してきており、その処理が止まる気配ではなく、その枷が日本の経済再建の大きな障害となっていることも事実である。
バブルの演出家と舞台俳優たちの責任が明確に問われなければ国民は納得し得ないことである。
6.債務免除
債権放棄の裏側は、借り手の企業では「債務免除」という事態となる。
つまりは全部または一部の借金棒引きという姿に他ならない。
この間の多くのゼネコン等は、金融機関から債権放棄を受けて生き延びている。何らの制裁なしに借入金の一部を返さなくても良いこととされたのである。これが債務免除である。
債務免除は、企業のモラルハザードを引き起こすと言われている。
何らのけじめも責任も痛痒もなく、借金が棒引きされるのなら、多くの国民のローンもそうして貰いたい、と考えるのも至当と言えよう。
また債務免除は、損益計算書で通常、特別利益に計上することとなる。
法的整理等以外の債務免除利益は課税対象利益ともなりうる。借金を返さなくて良いこととなるのだから当然と言えば当然である。
しかしそれでは、税金負担で再び破綻してしまうことともなりかねない。何しろ債務免除利益は資金の入ってこない利益だからである。
最も、債務免除を受ける企業は、その年に、長年抱えてきた不良の資産や不良の債権等を一挙に処理することにより、膨大な損失を計上処理することでこの特別利益を相殺する方法を選択しているに違いない。
いずれにしろ、我が国の企業は、債権放棄、債務免除、減損会計、時価会計等々、複雑難解なる不良資産会計を当面継続することとなると見込まれる。圧倒的国民とは無縁の世界で泡にまみれた企業らは、その泡を吹き飛ばすために懸命にその技術の開発に東奔西走していると言っても過言ではない。
しかも本来、無縁であったはずの圧倒的国民は、その泡のとばっちりで、大きな負担を強いられようとしている。国民の怒り心頭状態は、一体いつまで続くのか!
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