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2002年1月1日

実査と立会!

 私たち会計集団協働は公認会計士の少数精鋭(?)事務所だが、その職業としての本職は「会計監査」にある。このごろは自分の担当する仕事が、監査なのか、調査なのか、管理システムの設計なのか、はたまた経営の様々な分野の相談事なのか、なかなかはっきりしない業務展開が多い。また、実際の稼働時間のかなりの部分が、講演、講義やら会議への出席やら「喋る」という業務形態の比重が増している。ある人は私のことを「赤字公認会計士」と呼んでみたり、「もはや貴方は会計士ではなく組織者なのだ」と言われてみたり、はたまた私の近時の風貌から「会計仙人」などと言われてみたり散々である。私自身はそれほどの変化も感じてはいないのだが、少なくとも上場企業等の大会社の会計監査の業務は担当していないことは事実である。私が、かつて勤務していた監査法人を辞めずに居続けていたとしても今や千人単位となった事務所では「管理職」となって、監査現場の緊張感やその喜怒哀楽とは無縁の日々を過ごしていたものと想定される。1971年からほぼ10年間、大手上場企業等の会計監査に従事していたが、本号ではそのころの新米会計士の監査現場の出来事から、現金実査と棚卸立会のエピソードを幾つか紹介しようと思う。会社名等は伏しているが、もう時効であろう。
 それにしても30年近い前のことを良く覚えていると自身で感心してしまう。

☆ 現金実査は、お手柔らかに!

 ある3月下旬、私立大学の事務局長から電話があった。「先生、来週は期末の現金実査や預金証書等の点検でよろしくお願いします。何とぞお手柔らかにお願いいたします。」
 会計監査では、年度末の現金の実査や保有する預金証書の点検などは決算日か、もしくはその近辺で実施をすることが重要な監査手続きとなっている。この私大の事務局長は銀行出身の小心な方で、当時、適用の始まった学校法人会計基準などをほとんど理解することなく、毎回の監査現場で叱られていたのだが、現金実査等でも再び叱られると錯覚して事前に「よしなに」という趣旨で電話を掛けてきたものと推定された。
 現金を数えるのに何の手心も加えるなどはないわけではあるが、電話を置いて思わず苦笑したことを思い出す。

 とは言え、現金実査も馬鹿には出来ない。あるゼネコンで百万円の束を20束ぐらい数えようとした際のこと。ほとんど銀行からおろし立ての帯封付きのものだったのだが、並べてみたところ二束だけ少し薄い感じだ。帯封を切らないように数えたらいずれも10枚足りない。担当者に調べさせたところ銀行のミスと判明した。帯封を切っていたら、私が疑われていたかもしれない。
 銀行の支店にはじめて監査に行った。現金実査を指示されて店舗の開く前の午前8時に支店に着き、早速現金を数えさせていただく。当時、今のようなカウンター機械はない。おぉっと、随分現金がある。当然だ。銀行では現金が商品なんだから。目の前で若い美人女子行員らが全員見守っている。当時、独身の私としては顔が紅潮してきた。この何千万円のキャッシュを1人で数えたら開店前に終わることもないし、一回で合う保証は全くない。しかし私には切り抜ける知恵が備わっていた。札束の中から皆に見えないように何枚か引き抜いたのだ。あとはベテラン女子行員に依頼して数えさせたのである。そして私が手許に抜いた数枚の万札を足してピタリ一致と相成ったのである。内心はどきどきだったが、かくして銀行監査の初回は無事終了した。

☆ 棚卸の立会

 原料や商品の在庫を持つ企業では、決算に際して実際に存在している在庫の数量をカウントする。これを「棚卸」と呼ぶ。商店で陳列棚から商品をおろして数えてみる、という作業から名付けられているが、私たち会計監査人の実施する法定監査ではこの「棚卸」の手続が正確に過不足ないように実施されているかどうかを点検する手続が重要な監査マニュアルの一つとされている。「棚卸の立会」と呼んでいる。新米会計士の私に上司がこう言ったのを覚えている。「よーく覚えておけよ、棚札は金券なんだ。まごまごしていると粉飾決算を見抜けないぞ!」

 勤務会計士だった時代には沢山の棚卸立会を行ったが、まず吃驚したのがデパートだった。小売業の最たるところであるが、他の事業と異なり、数量と売価を棚卸するのである。
 デパートの商品は売価還元原価法という難しい名前のやり方で、在庫のコスト総額を算定する仕組みとなっている。一般には仕入時点で値決めがされて値札が付されるが、しばらくして値下げを実施されたりしている場合があり、値札で棚卸をする必要があるのである。しかし、デパートの棚卸の立会は地下から屋上まで移動しながら社員総出の棚卸手続を監視していくが、部分的には監査人もカウントし、あとから提出される棚卸表と照合することとしているのである。だが、デパートの各階の商品はその全てがデパートの商品という訳ではない。それもそういった例は非常に多い。地下の食品等のほとんどはそうであるし、それらはデパートが各有名店などに場所貸ししているに過ぎないのである。また、売れたものだけ仕入れる、という形態の商品も少なくない。デパートの棚卸は思ったほど膨大ではないのである。

 地方のある金属製造工場の棚卸の立会にいった。3月決算であるが、実地棚卸の手続は2月末に行うので、厳寒のみぞれ混じりの港の傍らの工場で、震えながら金属の板のカウントを実施した。厚い木組みのパレットに1枚1トン程度の金属板がたくさん乗せられ、そのパレットが堆く積まれている。外から縦横と高さの枚数を勘定し総計何百枚などと計算したが、もし真ん中に空洞があったらえらいことだ。算盤を片手によじ登り、真ん中まで歩いて覗き込んだ。OKだ。帰ろうとしたら手から算盤が滑り落ちて僅かの隙間に落っこちてしまった。算盤がないと仕事にならない。8桁電卓が10万円もした時代だった。暗算のない算盤二級までクリヤーした私にとっては算盤は商売道具であり命でもある。
 工場の経理課長に何とかならないかというと、「この金属板が全部売れるまで無理ですね、多分1年先ぐらいではないでしょうか」、などと動揺させるのである。
 もっとも30分ぐらいしたら、私の算盤を手にしてやって来たではないか。「あれぇっ、どうやったんですか?」と聞くと、その経理課長が「うちの釣り名人に釣り竿で釣ってもらったんですよ!」という。釣り名人に感謝。

 野球場の棚卸の立会も行ったことがある。野球場の内外に直営の売店やレストラン等があり、その商品や原材料の棚卸手続に立ち会うのである。その球場会社は、半年決算法人で7月が一つの決算期であったが、棚卸日がナイター試合の日にぶつかると大変だった。何しろ試合が終わった後に始まるので、試合が長引いた日には棚卸の立会も午前様となる。うだるような暑さの中で外の売店の棚卸に立ち会ったかと思えば、飯店の冷凍庫の中でブルブルと中国産の古酒の瓶の数を勘定してみたり・・・。
 難関試験に合格したとはいえ、会計士も楽な商売ではないのである。

(坂根 利幸)


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