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個人の税金アラカルト(相続税・贈与税・所得税)
本季刊誌は非営利・協同の組織のクライアントが多いためでもあるが、比較的法人や団体の税金に関する記事が多い。
本号では、個人の税金の話をしよう。早いもので私が仕事を始めてから早30年が経過しているが、ここにご紹介する様々な個人の課税事例はすべて私が出会った実話である。もっとも関係者が生きているものもあり、多少ぼかしているものもある。たかが税金、それでも税金なのである。
1.遺贈
遺言による贈与を遺贈という。遺贈の相手は法定相続人でも第三者でも良い。遺言は前号法律コーナーで紹介したとおり、公正証書でも私文書でも良い。私文書による遺言書は家庭裁判所で検認手続きを要する。すなわち筆跡鑑定である。
都内に住むある夫婦は、近所に住んでいた身よりのないという老婦人を常日頃、さまざまに面倒を見ていた。
その老婦人が亡くなり、葬儀もこの夫婦が世話を行った。夫婦は、しばらく後に、亡くなった老婦人が預けていた風呂敷包みがあったのを思い出し、開けてみるとその中には株券などと共に「遺言書」が入っていたのである。この夫婦は弁護士に依頼し法定相続人の有無などを調べてもらうと共に、相続税申告等の相談を依頼してきた。
相続財産は居住用の土地建物の他、預貯金と有価証券類でおよそ2億円近い相続税評価額となった。当時のバブル前の時代の時価に換算すれば3億円以上となる。
一方、弁護士の調査では相続人は兄弟姉妹と甥、姪ら10人とされた。遺言書ではすべての財産をこの夫婦に贈与するというものであったが、相続人らの遺留分(相続財産の分与を受ける権利)が関係してくる。
配偶者や親、子供らの相続人には遺留分を請求する権利が法定されているので、通常なら訴訟を提起する事態となる。しかし兄弟姉妹には遺留分を請求する定めはなく、老婦人の相続財産はすべてこの近所に住んで面倒を見ていた夫婦のものとなったのである。
さらに相続税の算定をする場合、この兄弟姉妹10人は相続放棄をしているわけではないので、一人当たり今なら1千万円の基礎控除全額を活用することが出来るのである。この結果、当時でも、1億円を超える基礎控除を算定計上することにより、いわば他人から遺贈を受けた財産に対して、この夫婦が申告納付した相続税額はわずか2、3百万円で済んだのである。ボランティア精神の発揮は継続性が大切である。
2.15年前の贈与
ある芸術家は、叔父さんから土地の贈与を受けた。その芸術家はもらった土地の上に自力で家を建てたのである。
ところがその叔父さんは土地の名義を変えると莫大な贈与税をとられるので土地名義はそのままにしよう、としたのであった。
15年が経過し、その叔父さんが大往生で逝ってしまった。
今度こそ土地の名義を芸術家本人に変えようとしたが、今更、贈与による所有権移転登記は出来ない。
15年前に贈与証書を作っていないし、亡くなった人を相手では、これから作ることも不可能である。
名義は叔父さんであり、仕方なく相続という登記を行ってもらった。しかし実際は15年前の贈与であるから、相続税の申告納税はしなかった。当然に税務署から呼び出しがかかることとなる。
我が事務所に駆け込んできた芸術家は顔が青くなっている。私はもし相続税としての課税なら1千万円以上の課税となる旨を話した。売れっ子ではない芸術家に即支払える金額ではなく、顔がますます青ざめていく。
検討・奮闘・努力の結果、税務署には15年前の贈与であると認めさせたのである。しかも時効であるから贈与税を納めることもない。
決め手は3点であった。私は15年前に贈与したという何か証拠はないかと、問い質したのである。しばらくすると叔父さんがつけていた日記が出てきた。15年前の記載には、贈与をしたという記載はなかったが、「明日贈与する」、「昨日贈与した」という記述が見つかった。日記は連綿と続いており、私には判読できない昔風の書体であったが、これが重要な決め手の一つとなった。またこの15年間、本人が叔父さん宛に送達される「土地の固定資産税」をすべて芸術家自身の口座より振込支払いしていたとの事実もあり、贈与を受けて以降自分が使用していたことを立証するものであった。3点目が、15年前贈与を支持する相続人らの証言であった。
私は以上の証拠(とも思いにくいが仕方ない)を持参して何度か税務署に足を運んで説明した。最終的には前記の通り15年前贈与の事実が認められて相続登記に拘わらず何の税金も取られなかったのである。
しかしこのようなケースでは、非営利・協同の事務所としてはなかなか多額の請求をすることが困難なのである。概ね稼働した日当程度を請求することとなる。経済性で考えれば1千万円超の税金をゼロとしたのであるから、もう一工夫あるのかもしれないが。しかしだからこそ、この30年間、営業努力すなわちセールスを一切しないで仕事と生活を維持できてきたのだとも思われる。なお、この事件の教訓は日記であったが、なかなか私も真似できない。
3.物納と延納
所得税や法人税では災害の被害でもない限りは延納もできないし、税金を商品で納めたいと言っても認められない。
相続税では、相続財産に現金預金が少ない場合や、到底一括して納めきれない税金の場合もある。そこで物納や延納という制度がある。
物納は、現金預金で納付が出来ないときに相続財産を基礎として、土地や有価証券等で納税するものである。その納税評価額は相続財産評価額であるから、価格が下落した土地などがあれば都合がよいかもしれない。
また物納は国への譲渡であるが、納税のための譲渡であるから、譲渡所得としての所得税や地方住民税が課税されない利点がある。土地を売って支払うよりは全体として都合がよい。ただし物納が許可されるまでその手続きに相当の時間と労力を要するのが難点である。物納不能で却下されると当初の納税期限に遡って延滞税等が課税されてしまう。
一方、延納は例えば土地といっても住んでいる土地などでは物納も売って支払うことも不可能である。そのような場合10年とか15年とかの分割支払いを行う申請である。当然に支払計画と支払える可能性そして担保資産などが要請される。しかも通常の延滞税は取られないが、延納の利子税を支払うこととなる。
およそ数億円の相続税の支払いをすべき相続事案があったが、預金はそんなに無い。大半が土地であり、バブル破綻後の時期ともなれば簡単に捌けない。
それでも相続土地の一部に購入の引合があった。しかし相続開始(通常は被相続人の死亡)ののち、10ヶ月以内に申告納税しなければいけない。
そこでまず物納土地を特定して物納申請をした。この納税金額クラスの徴収事務は所轄税務署では行わず、国税局の徴収部門が担当する。
そうこうしているうちに、引合のあった土地を正式に売却しうることとなった。その売却予定土地は物納土地となっていたため、そのままでは売ることもできないし、物納を撤回しただけでは、当初に遡って莫大な延滞税を徴収されることなる。
事務所では頭を捻りつつ検討したが、結論は、物納撤回と同時に延納への切替申請、そして売却実行と延納相続税の一括弁済という煩雑な手続きの選択であった。
これらのことを相続人らに何度も説明し、国税局にも何度も足を運んで了解を取り付けた。少々の時間がかかったが概ね描いたとおりに履行が完了したときは事務所一同ほっと安堵したことをよく覚えている。
延納から物納への切り替えは出来ないが、物納から延納への切り替えは可能である。また延納は事情が許せば一括繰り上げ弁済もできる。大規模相続はしっかりした専門家に依頼すべきである。
4.パチンコ所得
ある日知り合いの紹介で二十代の青年とその母親が事務所に相談に来た。以下はその時の会話の再現である。もっもと10年以上前だから多少朧気であるが、私の記憶力は減退しつつも、まだ衰えてはいない。
私 「今日はどのような相談でしょうか?」
母 「実は息子のことなんです。今度家を新築するのですが・・・・」
私 「それはどうも、それで住宅取得控除なんかのご相談ですか?」
母 「いえ違うんです。ローンが付くくらいなら何の問題もないのです。この子のお金で建て替えるんですが、この子はこの間無職なんです。」
私 「君、定職がないの、フリーターかなんかかい?」
子 「それが何年か前に失業しちゃって。」
母 「そうなんです。会社が倒産して、それっきり、無職状態なんです。」
私 「ははぁー、判りました。新築資金は嫁さんの実家から出て、それで贈与税かなんかの相談ですか?」
母 「この子はまだ独身で・・・・・」
私 「うーん、見当尽きません。ズバリご相談されたいことをお聞かせ下さい。」
母 「家の新築資金はこの子が3千万円ほど出すことになっているのですが、この3年ほどで稼いだんです。でもまったく税金を支払っていないんです。」
私 「やっと理解できました。息子さんがこの3年間ほど商売をやって稼いだけれども、何の申告もしていない、その相談ということですか!」
母 「商売と言えるのかしらねぇ?」
子 「商売とは思っていないけど毎日稼いでいたことは事実だなぁ!」
私 「もうっ、降参です。息子さんは、一体何をやって、3年間で3千万円も稼いだんですか?」
母・息子 「パチンコです。」
私 「・・・・・・・・・・?」
母 「仕事がなくなってから毎日のようにパチンコ屋へ通って毎日のように勝って帰って来るんです。生活費は私のパートの収入でやっていましたからパチンコの稼ぎはほとんど手つかずで残ったんです。その資金で今度家を新築しようと思ったんですが、税務署から目を付けられるんではないかと思ってそれで相談に来ました。」
子 「よろしくお願いします。」
私 「やっと了解しました。が、びっくりしました。難問です。」
事態を理解した私は。即答的に答えていた。親子は満足げに帰っていった。もちろん私にとっては無料相談であったが、こんな相談は滅多にないことからよく覚えている。
一体何と答えたのかは、ご想像に任せるが、黙っていれば判らないなどと答えるわけはない。パチンコによる所得も課税されるし、大々的にやっていれば事業所得となるが通常は雑所得である。多くの人が申告なんかしていないし、大体通算して儲かっている人は、ほんの僅かのパチプロ達である。パチプロ達を集めて動かしている人は事業所得だろうが申告しているのかどうかは判らない。
パチンコでも、雑所得として収入を得るための必要経費があるのだろうか、それはそれであるのである。収入金額から必要経費を引き、所得控除を差し引いて税金を算定するのである。
もちろん過年度の申告をしたり、後から見つかったりすればペナルティを取られることとなる。私はこれらの事項を瞬時に描いて答えたのであるが、それっきりの相談者となったことから、家の新築も税金も私が話した通りに進めて何の課題も生じなかったものと推察している。
世の中には摩訶不思議なことが起こるのだが、一般の方はそんなことには関わらずに人生を全うする。私共には、長年の間、人や企業らのありとあらゆる出来事が持ち込まれてくる。中には関税を払わないで持ち込んだ数千万円の貴金属を売りたいがどうしようか、などという相談もある。それは、「密輸」というんですよ、と検事みたいに喋っていた自分を思い出す。
話は尽きないが、過去を振り返るようなことをし始めるということは、先が見えてきたことかもしれない。でも、まだ私もびっくりするような相談が舞い込んでくることもあるだろう。楽しみにしている。
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