労働者株式会社
お陰様で、我々「会計集団協働」の仕事は多数多岐に渡っているが、この90年代はとりわけ医療、福祉、障害者、労働組合、民主的経営や団体など、今風に言えば「非営利・協同」の経営や事業、会計や分析などの仕事が急増している。おそらく21世紀もこの傾向は増えこそすれ、減少することはないだろうと考えている。このため毎号とのお約束は出来ないが、「非営利・協同コーナー」を設けて、些かなりとも紙面交流を図ることとした。投稿なども掲載したいと考えている。
3月に「ウォッカにさそわれて」という旅行記を編集出版した。昨年9月に実施したロシア・ポーランド取材の旅、いわば非営利・協同の取材の旅の雑記録である。全体で1,000部の限定出版とし、好評(?)を拍している。
部数の関係で総ての関係者に行き渡らなかった点は紙面を借りてお詫び申し上げる。
また、本年も9月に、私としては3度目だが、スペインのバスクに展開するモンドラゴン協同組合複合体の取材に行くこととして準備を進めている。取材のコーディネートをお願いしている、モンドラゴンの研究では第一人者である石塚秀雄氏から、スペインのユニークな取組の話を聞いた。「労働者株式会社」である。
以前に書物で見かけたものの、あまり注目していなかったが、改めて考えると誠にユニークな法制度である。
モンドラゴンに代表される「労働者協同組合」は、今風に言えば社会的経済(EconomiaSocial)の典型であるが、スペインでは労働者株式会社という法制度がある。原語では、Sociedad Anonima Labolal(通称SAL)であり、石塚氏は、働く労働者の主体性を強調する意味で当該訳を付けている。現在このような会社がスペインでは数千法人、数万人が就労しているとのことである。
もちろん株式会社であるから、株式の論理が働くこととなるが、このような制度が全く存在していない我が国の実状からすれば考えられないほどユニークな考え方と仕組みと映るのである。非営利・協同セクターの中心や主流になるとは考えられないものの、その制度には頷けるものも少なくない。
1986年4月に公布された労働者株式会社法は、憲法と商法に基づく全21条から成る特別法である。
同法1条で、労働者が資本の51%を所有すること、と定めている。即ち株式の過半数は働く労働者のもの、これが労働者株式会社の定義である。また大株主を回避すべく1人の持てる最大持株割合は25%未満とされている。即ち5人以上の労働者が揃わないとスタートできない、ということである。株主たる自治体等では最大49%の所有が認められている。最低資本金は1,000万ペセタ(1,200万円)を目指している。
労働者株主と、非労働者株主との優劣制度、剰余金の10%積立強制、剰余金の50%積立実施の場合の優遇税制、などが創設されている。いずれも、「働く株主」を評価強調すると共に、各人への分配を制限すれば税金を安くする、というような意義である。
また、株式の非所有労働者の数の制限があり、いわば株式の持株比率と労働者の構成割合という2つの基準が労働者株式会社の存立要件とされている。
モデル内規では、株主の権利として、総会投票権、総会開催要求権、抗議権、指導部への非難権、会計書類等閲覧権等々が定められている。但し協同組合と違い、清算分割分配条項の規定もあり、その点では株式会社という枠組みを脱し切っているわけではない。給与格差最大1対3原則は、モンドラゴン等協同組合と似ている。
スペインの労働者株式会社に対する優遇税制は他に例を見ない。5年間は、減価償却自由、設立時の財産移転を含め、99%の税金割引制度など、我が国でそんな制度があったら如何様にも活用できるのに、と羨ましい部分もある。
しかし課題がないわけではない。悪用する資本家もいるかもしれない、潰れる会社も多数ある、とにかく学習と実践の試行錯誤が必要である。
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