非営利・協同とNPO法人
非営利分野の法人形態として、NPO(特定非営利活動法人)が注目されている。我々もいくつかの介護福祉分野でのNPOに関与している。その一方で、1998年にNPO法が成立して以降4年が経過しているが、税制等の支援策が少ないため、政府の予想ほど広がってはいないという見方もある。
ここでは、NPO法人の概要を紹介するとともに、非営利・協同と法人形態という視点から、若干の意見を述べたい。
1.非営利・協同と法人形態
(1)営利法人形態「万能」の世の中で
私事で恐縮だが、私は最近サッカー観戦を趣味としている。サッカーは世界的なスポーツで、多くの国にプロサッカークラブがあり、特にヨーロッパではプロリーグが盛んである。
プロサッカークラブの法人形態は、多くが株式会社形態で、その中でもビッグクラブと呼ばれるマンチェスターユナイテッド(英)、ラツィオ(伊)といったところは株式を上場している。サッカーのような地域に根ざしたスポーツの世界であっても、クラブの運営は、営利法人形態の株式会社組織によって多くが運営されている実情がある。日本でも、数年前にスポンサーの撤退により解散した横浜フリューゲルスが、ソシオと呼ばれる地域の会員制組織を基礎に横浜FCとして発足したが、内紛でうまくいかず、1年ちょっとで株式会社形態に変わっている。
これほどのように、株式会社形態が幅を利かす理由としては、証券市場等からの資金調達の利便性、大口スポンサーが株式会社等で営利追求を目的としていること、組織を運営する上での法制度等の整備状況、他に適当な法人形態がないこと等いろいろ考えられる。
しかし、サッカーの世界でも、今回のワールドカップでの観客無視のチケット問題に見られるとおり、ビジネス化、営利化が問題とされている。また、ヨーロッパでは、クラブ経営のために年間試合数が増加し、選手が疲弊していたことが、今回のワールドカップでの強豪国の敗退の主要原因と分析されている。やはり、例えプロであっても、スポーツのような分野に営利事業形態はなじまないのではないかと思われる。
サッカーのようなスポーツクラブの運営は、本来非営利の法人形態が適当だと思うし、他の分野でも同様のことが多くあると思われる。非営利・協同の事業や諸活動の前進の上では、法人形態のあり方はやはり重要である。
(2)非営利・協同とは何か
一方、非営利・協同を巡る議論の中で、その意義を法人形態だけで、あるいはそれを過度に重視して捉えることも疑問に思う。すなわち、株式会社、有限会社といった営利法人形態以外の法人形態=非営利・協同といったものであるが、こうした意見は、非営利・協同をそれ以外の営利・非協同とを区分する意味では明確である。しかし、実際にそうした法人の経営実務に関わる立場から考えると、それほど単純ではないと思われる。
例えば、この間世間を騒がした自治労問題を見ていると、本来非営利・協同であるべき労働組合が、子会社的に設立した関連会社を使って、私的な流用、右翼対策等やりたい放題のことを行ってきたことが明るみになった。また、政府お抱えの公益法人が、高級官僚の天下りの受け皿として強く批判されている。これほどひどい状況ではないが、非営利・協同の法人形態のところが、そうした実態を必ずしも備えていないと思われる状況を、業務の中で散見することがある。
一方で、株式会社、有限会社という営利法人形態であっても、非営利の事業目的を持ち、実践し、株式所有を多数に分散し、出資配当等株主への利益還元は行わないところもある。
それらは、実質上非営利・協同と捉えてよい場合もあると思われる。
要は、非営利・協同とは、単なる形式ではなく、努力、強化していくべき実質と捉えるべきだろうと思われる。
ただし、形式が実質を規定していくということはある。本来非営利・協同を指向した法人が、営利法人形態をとったために混乱を招くといったことは十分あり得ることだろうと思う。
2.NPO法人の概要
以上のような点を踏まえた上で、NPO法人の概要を説明したい。前述の通り、NPOだからといって自動的に非営利・協同となるといった安易な捉え方はできないと考えるが、非営利・協同の諸活動を進める上での有用となり得る法人形態の一つであることは間違いないであろう。
(1)NPO法人の意義
民法34条(公益法人の設立)の特別法たる「特定非営利活動促進法」に基づき設立される法人であり、以下12項目の非営利活動を「不特定かつ多数のもののために」行うことを目的として運営される社団である。
(1)保健、医療または福祉の増進を図る活動
(2)社会教育の推進を図る活動
(3)まちづくりの推進を図る活動
(4)文化、芸術またはスポーツの推進を図る活動
(5)環境の保全を図る活動
(6)災害救援活動
(7)地域安全活動
(8)人件の擁護または平和の推進を図る活動
(9)国際協力の活動
(10)男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
(11)こどもの健全育成をはかる活動
(12)前各号に掲げる活動を行う団体の運営または 活動に関する連絡、助言または援助の活動
一般に上記活動を法人化することにより、
・特定個人からの財産、債務、責任の分離
・社会的な信頼の獲得
・税制上の優遇の獲得(要件はかなり厳しい)
といったメリットがあるとされる。
(2)NPO法人の設立
A 設立の要件
・目的 上記内容に適合しているか。
・非営利 利益を構成員に分配しない。
・社員 10名以上、また、その加入・脱退が自由であること。
・役員 理事3名監事1名以上、また、役員の内報酬を受ける者の数は1/3以内。
B 所轄庁と認証手続
・所轄庁 同一県内法人は都道府県知事、複数県をまたがる法人は経済企画庁
・認証手続所轄庁は、上記要件に合致する場合には、申請受理後4ケ月以内(当初は1年以内)に認証しなければならない。(医療法人のような「認可」ではなく、所轄庁は一定期間内に認否を明らかにしなければならず、その裁量幅は狭い)
(3)NPO法人の運営
A 法人の機関
社員総会 年1回開催される最高議決機関
理事会 総会により任命委託される執行機関
監事(会)〃監査機関
B 組織概要
C 所轄庁の監督等
・定款違反行為等に対する監督
・事業報告書、決算書、役員名簿等の情報公開
(4)NPO法人の会計
NPO法人は、一般に公益法人の一部と考えられており、作成提出する会計書類も公益法人と同様である。
(1)作成すべき決算書等
・事業報告書
・貸借対照表
・財産目録
・収支報告書
(2)予算について
収支について、予算書を作成する。
(3)一般会計と特別会計(公益会計と収益事業会計)
医療法人等の場合決算書は基本的に法人一本であるが、NPO法人の場合活動の種類毎にそれぞれ決算書を作成する仕組みとなっている。
なお、やたら細分化した会計は煩雑であり明瞭さにかけるので、おおむね、法人税法上の課税対象事業の会計(収益事業会計)とそれ以外(公益会計)とに区分する。(ここでいう収益事業会計と公益会計とは、後述する法人税法上の区分を意味するものであり、特定非営利活動促進法によるそれとは異なる。)
(5)NPO法人の税務
(1)法人税法上の取り扱い
公益法人は営利法人(株式会社等)や医療法人と異なり、「基本的に法人税は非課税であるが、法人税法が定める「収益事業」33業種を営む場合に法人税を課税する」こととなっている。
NPO法人も基本的には、公益法人と同様に扱われる。(ただし、「収益事業」による所得の税率は普通の営利法人等と同じであり、収益事業会計から公益会計への寄付金の損金算入も認められない。)
出版業や興行業は法人税法上の「収益事業」に含まれており、その部分が課税対象となる。
ただし、「収益事業」分が赤字で課税所得が生じない状況にあれば、法人税を申告しないことでの実害は多くはない。
(2)消費税法上の取り扱い
法人税法上の「収益事業」分は、消費税法上の「課税売上」に基本的に該当する。また、法人税法上の「非収益事業」であっても、「課税売上」該当する場合があることに留意を要する。
EX.機関誌の有料での発行
ただし、「課税売上」が年3千万円未満であれば、免税事業者として納税義務はない。
(3)NPO法人への寄付金に対する課税問題
一定の要件(*)を満たしたNPO法人(認定NPO法人)に対する寄付金に限り、以下の税法上の有利な扱いがされる。
個人−所得の1/4を上限として、「寄付金−1万円」が所得控除される。
法人−一般寄付金とは別枠で、それと同額の寄付金が損金算入される。(ただし、出資金額や所得金額により限度が定められているので、民医連法人では、最大でも数百万円程度が上限)
相続−相続人等が相続財産を認定NPO法人に寄付した場合には、寄付部分は相続税の課税対象としない。
(*)・NPO法人の総収入額にしめる受入寄付金額(役員、社員分を除く)の割合が1/3以上
・特定市町村での活動が80%以下
・会員等の活動の占める割合が50%未満
・会計士監査を受ける 等
3.任意団体とNPOとの比較
任意団体(法人税法上の「人格なき社団」)とは、法人格を取得することなく、一定の目的に基づき組織、団体として活動を展開するものをいい、一般的には、PTA、町内会、法人格を取得していない労働組合等が該当する。
任意の団体であるから、基本的に法律等に規制されることは少なく、団体内で任意のルールを定め、それに基づき民主的運営がはかられればよい。
任意団体とNPOについての比較表の掲載したので参考にされたい。
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NPO法人
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任意団体
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目的
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前述の12項目を目的とする。 |
任意 |
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設立の要件
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目的、社員、役員等の要件がある。 |
特になし |
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認証の有無
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都道府県知事の認証を受ける。 |
必要ない |
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法人運営
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定款とNPO法にもとづき、各種機関を整備する必要がある。 |
任意。ただし、実際上はNPO法人並の運営をはかることになろう。 |
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対外的信用
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法人取得により高くなる。 |
NPOよりは落ちる。 |
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不動産取得
や銀行借入
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法人名義で行う。 |
形式上は法人代表者名義となる。 |
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会計
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特に基準はないが、公益法人に準ずることになろう。 |
任意 |
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決算書の
開示
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所轄庁に提出し、公表開示。 |
行政や外部への開示の必要はない。 |
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法人税
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「収益事業」部分につき普通税率課税 |
NPOと同様 |
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消費税
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「課税売上」3千万円以上は納税義務発生 |
NPOと同様 |
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「寄付金」の取り扱い
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「認定NPO」になれば、有利となる。 |
特に特典無し |
以上、NPO法人の概要をみてきたが、NPO法人が概ね「非営利」の事業体となり得ることはかなり明白といえる。しかし「非営利・協同」の事業体と設定し得るかは必ずしも明解ではない。要するに「協同」とは組織の民主主義であり、NPO法人で働く職員や職場の民主主義の課題である。
主張や目的に賛同する多くの職員労働者の協力協同の労働の結果とその民主主義的管理・運営の確立が不可欠である。すなわち、NPO法人のような非営利組織が「非営利・協同」の事業体となるためには、「協同の民主主義」の理解としくみが大前提となる。このことは実態によって判断されることといえるであろう。
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