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医療法人制度改正と非営利・公益
2005/06
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各分野の法人にかかる法制度の改定の議論と作業が急ピッチで進んでいる。自主、自由、自立、自己責任そして規制緩和と民営化、これらはその大半が「市場経済」化の御旗の下での取組に他ならない。この間、商法の会社に関する規定が次々と改定され、今その集大成的な改定が決まろうとしている。会社法の改定等の論点は、本HPでも別途取り上げることとしているが、今回は、これもまた我がHPで度々論じてきた「新非営利法人制度」と「新医療法人制度」を再度取り上げることとした。この両制度は当然ながら別々の所管庁で議論検討され法案化の準備が急ピッチで進んでいる。別々の法人法制度であるが、背景にある法人税制が未だ明確ではない点を含めて、奇妙に関連しているのである。私ども「協働」における多数の医療機関クライアントを念頭にしつつ、本論ではこれらの新法人制度の論点を探り、課題の提起を試みることとした。
1.多様な法人形態の医療機関
私ども「協働」は、この20年余の間に、まさに多数・多様な医療機関のクライアントの業務に従事してきた。その多くが経営側すなわち当該医療機関の理事会等経営執行部の依頼によるものであるが、中には労働組合や弁護士らからの経営分析等の依頼もある。多くが継続的な顧問契約や監査契約による業務となっているが、時にはスポット的な調査や経営の実態分析等の依頼も少なくない。私共が関わった医療機関の多様な組織形態を列挙すれば、次の通りとなる。
国立病院機構、大学病院(国立、私立学校法人)、自治体病院、赤十字病院、厚生連病院、社会保険病院、赤十字病院、済生会病院(社会福祉法人)、民法34条公益法人(社団法人、財団法人)、一般医療法人(持分ある社団、持分なき社団、財団)、特定医療法人(社団または財団)、特別医療法人、医療生活協同組合、法人格なき団体(社団または財団)、個人開業医。
医療保健業という共通的な事業を営む医療機関の法人組織形態は、ことほど左様に会社形態を除けば、我が国のほとんどの法人組織を見出すことが出来る。我が国の地域や各分野における医療の歴史と、各々の地域等の特色を反映し、また公的組織と民間組織の差が明解ではないこと、法人税等非課税組織から普通課税組織までを擁して、それぞれの法人組織形態が選択されて発展してきたものと言える。医療機関の数として最も多い法人組織形態は、一般医療法人であり、かつその大半が開業医である一人医療法人であることも、制度の整備や改訂が容易ではない現実となっている。
2.医療の非営利性と株式会社参入
医療法で設置される医療法人は、「非営利」であること、すなわち営利を目的として医療事業を行ってはならないことを定めており、利益の配当を禁止し、他の事業の兼業を禁止し、原則として他法人への出資参加も禁止されている。当然に株式会社による医療法人出資も禁止されている。この医療法人を設立する場合に、人的要素を前提とする社団組織形態と、設立時の相当財産を基礎として組成する財団組織形態とに分類される。前者の医療法人社団は持分ある社団と持分なき社団とに別れるが、医療法人の資本すなわち出資金を拠出する社団社員の権利が医療法人財産に及ぶのかどうかが「持分の有無」の論点である。
介護事業の開始で、各年度の剰余金の配当をしたい民間営利企業の参入を認めた我が国では、その民間参入議論の開始と共に、民間営利企業の医療分野への進出による市場経済の進展議論が重なって、株式会社の医療分野進出をという議論が少数規模ではあるが提起されてきた。
これに対して医療業界の大部分と厚労省の基本的スタンスは「医療の非営利性」を軸として反論を試みていたが、現実の医療法人の実態の中に「営利」と観られる部分の存在の指摘を受けて、そうではないと言えなくなっていた。
何のことか不明に映るが、医療法人の相当割合を占める開業医一人医療法人等では、各年度で確定した剰余金の利益配当はしないものの、持分ある社団では、出資社員の退団脱退時に事実上の財産分配(拠出出資金の額をはるかに超える)を実施したり、事実上の出資持分権の相当時価による売買が行われたりしているのである。これらは持分ある医療法人の財産について「財産分配請求権」があり、国税当局が出資持分の相続、贈与等で時価課税を実施していることによっても、「利益追求の実態」という指摘に拍車をかけているのが現実である。いずれにしても、医療法に基づく医療法人の「非営利性」の理念と現実実態の矛盾を長年に渡り放置してきたことの到達に違いないところである。
3.出資額医療法人制度の新設
持分ある医療法人社団は「非営利」とは言えないではないか、という指摘に窮した厚労省は医療法の法人制度の改革案の議論を開始し、既に最終段階に差しかかっている。さらに医療法の法人制度の改定は、後述する総務省による「非営利法人法」の創設にもその端を発しているのである。民法34条の公益法人の廃止と新非営利法人法の創設は、当然ながら「民法」の法人の定めの改定を含んでおり、民法法人規定の準用規定を多く含む医療法医療法人規定もまた、改定を余儀なくされているのである。
社団医療法人は、財産分配などあり得ない「財団」組織形態に変更する、すなわち医療法人はすべて財団という定めにすれば、出資社員という存在もなく、事実上の財産分配等もなくなるのであるが、厚労省は別の社団医療法人を想定している。後述の新非営利法人法の議論の経過にも現出していたが、営利・非営利は人の思想に基づくものであり、財産に思想はなく、とりわけ非営利性という要件を考えると社団組織が基本的前提となる、という論点が財団医療法人の拡大を否定したものと推定している。
結局、厚労省は医療法に新たに「出資額限度法人社団」という法人制度を新設することとして作業を進めている。来年すなわち平成18年度の通常国会に医療法改定案を提案するとしている。
この「出資額限度法人」たる医療法人は、出資社員脱退時にも出資額を限度としてしか払い戻しをしない、という意義であるため、相続や贈与にかかる出資額限度評価の取組を国税当局に措置してもらう必要があるほか、当該出資額限度法人への移行時にも所得税や法人税の課税を免れる措置が必要となることはいうまでもない。
現行税制では、持分ある医療法人社団が特定医療法人に移行する時ですら、膨大な資料を国税当局に提出して非課税の措置を受ける手続を必要としている事実が教示している。 また当該出資額限度法人が解散等するときは、その財産と事業は同種の法人か国等へ寄附されるものとした定款規定が必要となりうる。
厚労省は、既存の社団医療法人に対してすべて「出資額限度法人」への移行を提起することとしたのかもしれないが、これに対しては医師会等の「財産権への侵害である」、「憲法違反」などとの声が上がったことなどから、当面は既存医療法人制度すなわち持分財産請求権の存する医療法人社団の制度と併存的措置となるものと見込まれる。
しかしこの既存の「持分ある医療法人社団」と新出資額限度医療法人の併設的扱いは、相変わらず株式会社による医療分野進出の契機や口実となりうること、複数制度の存在による国税当局の課税制度整備の矛盾を与え兼ねないのである。
また出資額限度法人への移行を促進するためには、些かなりとも法人税制度等での優遇措置が望まれるところである。
非営利性という概念が、法人組織の枠組みの議論であることは理解される。医療法人の出資者らの非営利の思想と法人成立の仕組が重要という意義であるが、出資額限度法人だけでは、我が国で地域の必要な医療を広く深く押し進めている医療法人を想定した制度とはならなない。もちろん、現在設置されている特定医療法人制度があり、法人税率は協同組合と同率で設定されている。しかしこの特定医療法人ですら、その行う医療の内容要件は想定されていない。そこで、厚労省は、「非営利性」という仕組みの要件に加えて、当該医療法人の医療の質量などの内容を備えている法人制度すなわち「認定医療法人」制度の創設を決め、法案化の準備を進めているのである。非営利性と公益性、この重畳的理解
は、新非営利法人法の議論とほぼ同様と観ている。
4.認定医療法人制度
厚労省が考えている「認定医療法人」は、対象医療法人が位置する地域で、真に必要な医療、重要な医療、貴重な医療を担う医療法人であり、当然に出資持分はなく、当該医療法人の仕組みもより「公益的組織」としての要件を満たすものとしての想定である。
いわば「非営利性」に「公益性」を重ねる議論と言え、同時に、国、自治体病院すなわち公的セクターの医療機関が「公的財政負担軽減」の命題により抱えられない事態が現出したときに、その受け皿としての医療法人制度がないと行き場がなくなりうることからも、より公益性の高い「認定医療法人制度」の創設がどうしても必要な取組となるのである。 公的セクターに位置する医療機関は、消費税等を除いて法人税の申告納税はないことから、その受け皿的意義も兼ねる「認定医療法人」では、「限りなく法人税非課税」という措置が必要となりうる。
認定医療法人制度の論点は未だ詳細が明らかではないものの、次のような事柄が重要な論点であると思量される。
第一に想定される認定医療事業の規模であるが、極めて小規模の医療法人は別として、100床規模でも医療過疎地域で重要な位置を占めている医療法人も全国に観られることから、絶対的規模と地域における相対的規模等を加味した規模要件等の設置が望まれる。
第二に、医療事業の質量の認定要件を重要な部分とすれば、特定医療法人の認可が国税当局にあるのと異なり、地域における第三者機関による要件認定が望まれるのである。同時に単年度の質量だけではなく、例えば、過去3年間の平均的なデータによる要件認定や3年ごとの認定更新などの措置が望まれる。もちろん更新時に過年度要件が否定される場合の措置を行えば、想定外の実践も解消しうるのではないだろうか。
第三に、認定医療法人に対する法人税制は、文字通り限りなく非課税に近い措置を要望することが至当である。現時点で厚労省と財務省は刷り合わせが出来ていない模様であるが、財政負担を削減し税収を上げたい財務省が素直に応ずるとは思えず、世論等の強い後押しが必要である。診療報酬や薬価が低下し医療事業収益が減少する今日で、計上する剰余金減にもかかわらず、決算利益と乖離する課税所得金額の算定納税の取組は、地域になくてはならない医療機関の存在自体を否定することにつながる。厚労省の決意と底力の最大限の発揮が要請されている。
第四に、前記の通り医療法人以外の組織形態の医療機関が多数存しており、その大半が公益性の要件を満たしうる存在と想定されることから、認定医療法人の認定要件を他の法人組織形態にも拡大適用し、「認定医療機関」制度を新設し、該当医療機関については、認定医療法人と同様の非課税または低率の法人税課税制度の適用を強く求めるものである。そうでない場合には、現状の多様な医療機関の実態の矛盾がさらに拡大しうることを指摘しておく。
なお、公益性の要件のうち、組織の仕組みの要件としては、法人ガバナンス、情報公開の取組や外部監査の実施などの透明性確保、役員や医師の報酬制限、病院機能評価受診、などが想定されているが、十分な吟味と費用保障等の措置が必要である。
さらに既存の特定医療法人の制度等は、この認定医療法人制度の創設と関連して整備されるものと推定しているが、現行特定医療法人制度が残るのかどうかについては定かではない。
5.民法34条廃止と新非営利法人法
既に我がHPに情報を記載提起してきたが、再度論点を整理提起したい。前節までの記載で触れたように、民法の法人制度の改定の取組と議論は、医療法人制度の改定に大きな影響を及ぼしている。平成19年度法案化を期して最終盤となっていることは、この間のマスコミ報道(例えば6/16の『朝日新聞』朝刊)でも周知の通りである。
既存の公益法人の一部では、いまだ法改正の意義や方向性についての認識理解が不十分で、何らの検討も施していない法人も見受けられる。法人税制の在りようも不気味であり、充分な検討注視が必要であることを付言しておく。
論点の第一は、民法34条公益法人と中間法人法を一緒にする「新非営利法人法」は当初の予定であったNPO法人による異論の提起に対して、取りあえずこれを除外した点である。非営利の法人税制度を含めて複雑化しうる点も考慮すれば、近い将来にNPOを吸収する議論が再燃することが予想されるのである。
第二の論点は、当該非営利法人は、三区分に分別されるとしており、公益・共益・その他、とされている。そしてその評価判定は、第三者機関によるという議論展開であった。当然に当該非営利法人の行う事業の質と量における公益性と、それを担保するガバナンス機能等である組織と運営の仕組みの民主制・透明性等が要件となるものと推定されるが、法人税制との関係で、国税当局による形式的要件のみの判定制度とならないような措置を明解に設置することが必要である。
第三は、法人税制度である。新非営利法人については、公益認定=現行原則非課税措置の適用、共益認定=現行収益事業のみ課税、その他非営利法人=原則全部課税という議論展開である。事実そうであれば、現状の公益法人法人税制と大差はない。論点は、財務省国税当局が企図していることが、現行法人税制の援用ではなく、すなわち非営利法人法のための税制改革というよりも根本的な法人税制度の改定を企図しているように映る点にある。すなわち公益法人や法人格なき団体の法人税制度は、現行は、原則非課税・収益事業のみ課税というルールであるが、これを逆転させて原則課税・特定法人の特定事業等のみ非課税という制度にする気配が濃厚である。朝日新聞の記事でも、団体会費も原則課税とし、一定のものを非課税とするような報道であった。会費収益に法人税がかけられるということは消費税も課税されるということを意味する。いずれにも共通して「対価性ある事業収益」という視点に他ならない。非営利団体いや労働組合組合費なども同様な視点を適用されるとすれば極めて重大なる事柄ではないだろうか。
第四は、前節までの議論に関連して医療事業を営む公益法人が相当数存在していて、そのうちの半分程度が低額無料診療規模を主要要件としての法人税非課税措置の適用を受けている実態がある点である。仮に公益法人制度がなくなり、新非営利法人法の下での法人が医療事業を行うとすれば、全体の法人税制度改定の中でどのような取扱となるのか、今のところ不明である点である。先に述べた認定医療法人が限りなく非課税に近い措置となれば、公益法人医療機関は新たな非営利法人に移行するのではなく、むしろ認定医療法人への組織変更を検討することとなるのかもしれない。この場合も当該組織変更の際の簡略な手続きや税制度の支援が望まれよう。
不安と切迫の社会ではなく、安心と安全の社会を構築しようとすれば、利益を第一とする、利益を優先する市場経済営利企業ではなし得ない事業を分担し、かつ市場を監視チェックする非営利法人の存在は欠かせないに違いない。
我が国の各種の非営利法人制度は、その他の多くの事柄と同様に各省庁ごとの提起によるバラバラの法制度であり、その諸制度自体に多くの矛盾があることも指摘せざるを得ない。医療法人制度改革や公益法人制度廃止等については新たな情報等を把握次第、論点を整理しつつ課題を提起していくこととしている。
2005/06(坂根 利幸) |
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