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非営利・協同

非営利・協同と利益
2004/10



 「非営利・協同」論は、さまざまな角度から議論の対象となっている。もっと沢山の議論が提起されてしかるべきと考えている。
 ところで我が事務所の名称である「協働」を、インターネットで検索すると今や十数万件に達するほどである。協働と非営利・協同との関連をどのように理解するかは別の議論で提起したいが、少なくとも我が事務所「協働」の業務の大半が非営利・協同の組織であることだけは間違いはない。
 この非営利・協同の組織においても、「利益が必要である」という点についての理解は、現在は概ね定説となっているが、本論ではあらためて「非営利・協同と利益」について小論を掲載する。


1.営利と非営利

 営利とは「利益を追求する事業を営む」、と理解される。これに対して「非営利の組織」は「利益追求を第一の事業目的とはせず、組織や事業の理念等の追求・達成を第一の目的とし、獲得する利益はその理念等の達成手段である」と理解している。もちろんこのような理解は、筆者の言い方であり、論者によっての説明は相違しうるが、非営利・協同の組織における利益は「手段」である、という点では、それ程変わらないと思う。

 利益は事業にかかる決算書の損益計算書で算定され、貸借対照表に蓄積されていく。赤字についても同様である。損益計算書で、利益=事業収益−事業費用、として算定されるが、営利企業の損益計算書と、非営利組織の損益計算書で「利益の色」が違うなどはない。非営利組織では赤字決算が多いということは言えるかもしれないが、それは「損失」すなわち事業収益より事業費用の方が多かった、ということの表現であり、営利も非営利も黒字は黒字、赤字は赤字という点で同様である。損益計算書を見ているだけでは、営利企業なのか非営利組織なのかは明確には判断出来ないことも多い。


2.非営利の営利

 利益追求を第一義的な事業目的とはしない非営利の組織でも、営利が必要である。つまり利益の獲得が必要であり、その獲得利益は非営利事業組織の目的達成の手段である。
 この非営利の営利、という命題が、非営利組織の内外の理解を少し妨げている概念とも言える。

 例えば、我が協働が多数に関与している労働組合組織でも利益が必要であると説いているのである。労働組合が営利組織ではなく、非営利の組織であることは誰しも納得するであろうが、その非営利組織の典型期な組織でも、次年度以降の活動を保証するために利益が必要ということになる。
 もちろん、労働組合の収支計算書で「利益」という表現はしていない。多くが「収支差額」、「剰余金」、「繰越金」などとして表現されることとなるが、事業組織の利益と同様に、収入(収益)から支出(費用)を差し引いて算定する点はまったく同じである。
 企業のリストラや採用制限等で労働組合員が増加せずむしろ減る傾向にあり、あるいは正職員数と時間労働者数の増減とが反比例となり、さらには賃金水準の切り下げ、組織率の低下等で労働組合の組合費収益は減少し続けている。かつての比較的安定した収支構造の時に差額(剰余金)を蓄積してきた労働組合と費消してきた労働組合とでは、現局面での相違となって現れている。
 従前の組合活動を維持するための費用を賄う組合費収益が減少して、書記局を削減したり、機関紙発行回数を減らしたり、苦境に陥りつつある労働組合も目立ち始めている。これに対して、組合財政強化安定積立金などとして過去に組合の「利益」を蓄積してきた組織では、しばらくは活動の質量の減退を回避しながら、次の手を考える余裕がある。労働組合でも単年度収入を使い切ってしまう予算編成が好ましくない、と常々申し上げている理由の一端がここにある。

 いわば組合費や会費などの収益が中心である非営利組織でも「剰余金の確保・蓄積」は必要であり、ましてや商品供給やサービス提供活動を行う非営利事業組織では、さらに必要であることを意味している。
 非営利組織は、掲げる理念等に賛同して人々が集まり働いている。したがって働く職員らの思いを重視するのが、非営利組織の特徴でもあり、「協同」の意義でもある。営利企業の利益と非営利組織の利益の相違点のうち一点を次に考える。


3.「協同」の利益

 非営利・協同のうち、「協同」の意義や論点についてはいまだ定説を見出してはいない。非営利組織なのにワンマン支配のごとく映る、協同的な企業なのに利益追求を第一としているようだ、などと非営利・協同の実態はさまざまであり留意が必要である。他を蹴落としても自身が前に出る、という弱肉強食の市場経済の中心に位置している営利企業と異なり、非営利の組織は同種の組織と連帯的に協同的に連携的な活動を展開する例が多いのが特色の一つである。しかし非営利組織なら皆同じというわけでもないのである。

 「非営利」が組織の枠組みの議論であれば、「協同」は組織の運営の論点である。「協同」の論点からは、組織のあり方、組織の運営原則、執行部の選任手続、会議の持ち方と参加者の範囲、予算決算にかかる全役職員の参加、総括と方針への職場討議、利益計画と執行の協力協同、剰余金と配分への議論参加など、営利民間事業組織とは決定的に異なる取組が特色である。これらを総称すれば「民主的管理運営の徹底適用」であるとも言えるが、「協同」の論点は組織内部の運営に限らず、同種の組織との協力協同、地域(住民)らとの共生、組織のサポーターらとの協力協同などを包含する広い概念であると考えている。


図1 ○○組織 損益計算書
人件費   7,000

その他事業費用 12,000


事業収益   20,000
利益   1,000



図2 ○○組織 損益計算書
人件費   12,000
(ウチ、ボランティア 5,000)

その他事業費用 12,000

事業収益   20,000

ボランティア収益 5,000


利益   1,000



 上の図1は、架空の非営利・協同の組織の損益計算書である。金額単位はそれぞれに考えていただきたいが、事業収益20,000から、人件費7,000とその他の費用12,000を差し引いて、1,000の利益を計上したという内容である。黒字決算であり、収益に対する人件費率は35%と算定される。
 その下の図2は、同じ組織の同じ決算書である。実は、この架空組織では、組織の周辺に強力なサポーター軍団が控えており、いわば年間を通して無償または低額での活動支援を受けているのである。図2は、仮にそれらのボランティア活動を一定の時間単価で測定評価した場合の人件費相当額5,000を人件費に加算して表現したものであり、当然に支払われることはないのであるから同額をボランティア収益として収益計上してみたものである。こう表現してみると、人件費率も、利益率も、収益規模も大きく変わり、組織の経営実態と利益構造をよく表現できることが判る。このような決算書表現であれば、組織の内外の関係者の理解の促進にも繋がる。

 会計の理論や実践では、こんな決算書は見聞きしたことはなく、筆者の思考の偏屈さの産物かもしれない。しかも図2のような決算書を行政当局や税務署に提出するわけにはいかないが、内部の総括方針等の議論にとっては、大いに参考にはなる。
 筆者は、非営利組織において人件費を一時的にカットした場合の損益計算書の表現、無数のサポーターから無利息で資金協力していただいている場合の金利負担の表現、サポーターの皆さん方の人的資源すなわち人的資産の財産表現などについて、時折枯渇寸前の頭を絞りつつ思考している。その思考の果てに、非営利・協同の姿が、会計分野からも整理しうるのではないかと自己確信しているからである。理論化と実践の「とき」が早いか、自身の寿命の尽きるのが早いか、勝負になりつつある。
2004/10(坂根 利幸)

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