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コラム・エッセイ

初  詣
2006/01



 本日は元旦とやらで、我が家も朝から落ち着かない。落ち着いていないのは吾輩かもしれない。何しろ早朝からおいしそうな「におい」が漂い続けているのだ。1週間ほど前から、我が家族は吾輩に「来年はジョンの年だぞ」と、しきりに叫んでいた。漆黒のラブ犬である吾輩の「年」とは如何なることか、怪しい雰囲気だ。
 我がご主人との今朝の散歩は、いつもの通り道である靖国神社を避けて、迎賓館コースとなった。ご主人は「ジョン、靖国は今日はダメだ、早朝でも人波で埋まっているのだ。静謐を求めて四谷方面に行こう。」と言った。

◆ ◆ ◆

 いつもより30分遅い散歩は、ご主人が眠りについたのが1時頃だったせいである。布団の中には11時頃もぐり込んだのに、30分おきに起きてタバコを吸ったり、水を飲みに行ったり、トイレに立ったりしていた。訝しげに顔を見たら、「ジョン、年を越すのもあと何回か、そう思ったら目が冴えてきて眠れんのだ。」と言う。吾輩はご主人が過ぎ去りし日々の過ちなり反省なりを思い出して、その自責の念から目蓋が開き放しとなっているのだと推量していたが、そのうち吾輩の布団の中ですやすやと眠ってしまった。
 元旦というのは特別の場所を除いて早朝の人々の姿はない。いつも出会う、散歩やジョギングの人、同胞を連れた偉い人々、何れも影も形もない。お巡りだけが目立っている。大体、吾輩はお巡りにもキチンと挨拶するのだが、ご主人はなぜか、よそよそしく通り過ぎていくのだ。この前も麹町の交番前で張り番のお巡りに「立派なこの犬何て言うの?」と声をかけられたが、吾輩は頭を撫でさせる体制になっているのにご主人は「どーも」とか言って直ぐに立ち去ろうとするのだ。
 どうもご主人は、帽子を被っている人に弱いのだと思われる。何しろ最近は対抗するためらしいが、毎朝帽子を被っていくのだ。昨年、バスクとやらで入手してきた赤いベレー帽は、ご主人はまだ試していない。今年が被る年なのだ、と言っていたが、「いつ被るんだ?」と聞いたら、「ジョン、それは内緒なのだ、何しろレジスタンスそのものみたいな帽子だからな、父さんにとって被る日は特定されているのだ。」と言う。仕方ない、その日を待つこととしているが、そのときは、吾輩は地面を観つつ、しずしずと歩こうと考えている。

◆ ◆ ◆

 きのうの大晦日に吾輩の体はご主人によってきれいに洗濯された。ご主人は年越しのお清めだ、などと言っていたが、実のところは自分の髪を洗うのに専念していたのだ。ま、リンスの香りは吾輩も好きであり、今日の散歩もなるべく泥だらけにならないよう注意している。
 家に帰ると、母がご主人に、「テーブルの上を注意しててね!」と言っている。と、いうことは吾輩の大好きなご馳走類が一杯並んでいるに違いない。いつもの朝とは違う。これが吾輩の年ということなんだろうか。
 兄弟達が起きてきた。ご主人がぶつぶつ言いながら、お酒を注いで、「歳の祝いだ、おめでとう!」と叫んでいる。母が長姉に何か祝いの品を渡している。あれれ、ご主人も何か貰った。なんと今年は「戌年」といって、本当に吾輩の年らしい。しかし吾輩は12歳ではない。次の戌年には、吾輩は18歳となっている筈だ。なんだかよく判らないが、とにかく我が家には二人の戌年がいたのだ。
 ご主人は、「還暦ということは、振り返りをしろ、という意味だ。」などと言っては、お猪口を口に運び、雑煮をつまみにしている。母が、「ジョンにも、ほらおせちだよ!」と言いながら、頂き物のハムの切れ端を盛り沢山乗せて器を見せてくれる。一度にくれればよいのに、一切れずつ食べさせて貰った。

◆ ◆ ◆

 「ジョンの初詣は何時にしようかね?」と母が言う。市ヶ谷には犬にもキチンとお札やお守りをくれる神社があるという。松の内を過ぎ、人の波が静まった頃らしいが、吾輩はお守りより縁日の焼きそばとかお団子などが欲しいのだが、あと2ヶ月足らずで6歳となる吾輩の勇姿を、わが家族は「太りすぎ」だと言い、このところ好物を制限されている。とにかく吾輩は初詣とやらに行ったら、大好物を沢山恵まれるよう、しっかり祈念し、ついでに「ジョン、今年の父さんはさらに激務となるのだ、なにしろ世の中が還暦だからなどとは許してくれないからな!」と口走る父に対して、吾輩としっかり散歩しうる時間が保証されることも併せてお願いするつもりだ。

全国のみなさま。どうぞ本年も宜しくお願い申し上げます。
2006/01(ジョン&坂根)

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