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年金資産の運用
Q. 当法人では職員の退職金支出に備え、企業年金による運用をおこなっています。これまで全額を一般勘定で運用していましたが、昨今の市場金利の下落をうけ、一部特別勘定への切替を生命保険会社の担当者から提案されました。どのように対応すべきでしょうか。
A. 非営利の法人において年金資産を特別勘定で運用することは、株式等のリスク資産を保有することと同義であり、原則的に選択することは適当ではないと考えます。
解説
1. 企業年金の運用方法の概要
生命保険会社における資産運用の仕組として、一般勘定と特別勘定という区分があります。
(1) 一般勘定
元本と最低利率の保証があり、さらに運用状況に応じた配当が上乗せされる仕組です。元本と利率が保証された一般勘定による運用においては、資産価格の変動にともなうリスク負担は、生命保険会社側が負います。よって、元本保証であり、拠出元法人は運用資産の時価変動による損失を被りません。
(2) 特別勘定
受託した年金資産を一般勘定から分離して運用します。一般勘定と異なり、債券や株式などの価格変動に伴うリスクは、拠出元法人の負担です。よって、時価変動により損失が生じれば拠出元法人の年金資産が目減りすることになります。
2. 回答の根拠
(1) 元本割れのリスク
上述の通り、特別勘定での運用については、一般的に“安定収益確保”をうたっている場合が多いものの、説明資料を読み込んでみると、「経済情勢や運用成果のいかんにより高い収益を期待できる反面、元本(特別勘定に投入された保険料の合計額)の保証はなく、運用実績が元本を下回ることがあり、損失を生じる可能性がある」といった文面が記載されています。
この間、特別勘定で運用していたため、リーマンショック等により年金資産が大幅に目減りし、決算において退職給付引当金の自己引当分を多額に追加計上した法人もあるようです。当然ながら、非営利法人においてこうした時価変動による損失を被ることは理事会や労組等において大きな議論になるものです。
なお、これらの法人では随時特別勘定から一般勘定への切り替えをおこなっていますが、一般勘定は保険会社側の収益性が低いため、引き受けに難色を示される例も生じています。よって、今回特別勘定に切り替えた場合、将来的にまた一般勘定へ戻すことは難しい可能性も考慮しておく必要があります。
(2) 企業年金等掛金の性質
一般勘定を継続した場合、市場金利低下により年金資産の運用利回りが悪化し、企業年金等掛金が増加することはあり得ますが、その場合であっても、年金資産への拠出額は一般勘定で運用する限り最終的には元本が保証されたうえで年金資産として積み上がるものです。
つまり、拠出額が増加することにより単年度の資金負荷は上がりますが、いずれは一定の利率を乗じた金額が法人の退職者へ支払われるのであり、長期的に見れば拠出元法人の費用や損失を増加させているわけではないのです。
日銀のマイナス金利政策で、主な投資先となっていた国債の利回りが低迷し、生保各社による特別勘定での運用の提案は今後増加してくる可能性があります。当事務所としては上記のとおりと考えますが、仮に保険会社との協議のうえ特別勘定に切り替える場合には、元本割れのリスクがあることを理事会等で充分に議論・認識し、運用内容や損益状況を継続的にチェック・報告する仕組が必須であると考えます。