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確定拠出年金の福利厚生利用と注意点


 先日、当法人に対してある信託銀行から福利厚生制度としての確定拠出年金加入を勧められました。当該制度のメリット・デメリットを教えてください。


 2017年1月から、60歳未満の基本的にすべての人が個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入可能となりました。こうしたことも影響してか、信託銀行などから福利厚生制度としての企業型確定拠出年金への加入を勧める営業が増えているようです。
 メリットとしては、法人・職員ともに社会保険料負担軽減(職員は税負担も軽減)効果があります。一方で、デメリットとしては、法人側では加入人数によってはむしろ手数料負担が増加する可能性があること、職員にとっては掛金分の受取が原則60歳以降になることなどが挙げられます。また、加入するのであれば、非営利・協同組織として、ハイリスク・ハイリターン商品の運用で職員の将来の受取額が大きく目減りすることがないよう、職員に周知徹底を図っていくことも重要です。

解説
 最近でいえば「iDeCo(イデコ)」、ひと昔前でいえば「401k」という言葉を聞いた方も多いと思います。これらは「確定拠出年金」のことで、企業あるいは個人が信託銀行などへ掛金を拠出し、その資産を株式等で運用します。当該資産を将来の給付金として、一時金または年金として受け取ることができる制度です。運用方法は、給付を受け取る個人本人が選択・指定することができ、制度上、信託銀行などは必ず元本保証の商品を1つ以上選択肢に入れる必要があります。
 同じような名称の制度に「確定給付企業年金」がありますが、「確定給付企業年金」は運用リスクを企業が負うのに対して、「確定拠出年金」は加入者個人(職員)が運用リスクを負います。

 職員の退職金制度として「企業型確定拠出年金」を活用する場合がありますが、職員への福利厚生制度として活用することも可能です。職員にとっては、税金や社会保険料を軽減できるメリットがあります。以下に具体例を示します。

例) 従来の基本給が30万円で、確定拠出年金導入後の新給与制度で最大5.5万円(※)までの年金掛金拠出を職員が選択可能な制度とした場合。
  (※)制度上、1,000~55,000円までの選択が可能となっている。

 (加入選択者) 従来:基本給30万円 → 導入後:基本給24.5万円、年金掛金5.5万円
 (未加入者)  従来:基本給30万円 → 導入後:基本給24.5万円、〇〇手当5.5万円

 本例の場合、加入選択者は、従来は30万円が税金・社会保険料の算定ベースだったのに対して、導入後は年金掛金を除く、24.5万円が算定ベースとなります。よって、税金・社会保険料いずれも負担が軽くなります。なお、税負担等は軽減されますが、一定金額を年金掛金として拠出するので、当然ながらいわゆる手取金額は減少することになります。また、基本的に社会保険の標準報酬月額が下がりますので、もしもの時の傷病手当金や失業手当、あるいは将来受け取る厚生年金等が減少するといったデメリットもあるため注意が必要です。
 一方で、未加入を選択した職員は手当として5.5万円を受け取るので、支給総額は基本給と合わせて30万円となり、税金や社会保険料、手取金額は従来と変わらず、基本的に不利益は生じません。

 企業側からみれば、職員に対する支給金額はいずれの場合も合計30万円であるため、導入前後で支給金額そのものが変わることはありません。一方、通常、社会保険料は労使折半であるため、加入選択者が増えれば企業としても事業主分の社会保険料(法定福利費)負担を減少させることができます。
 ただし、注意点としては、企業型確定拠出年金制度を導入すれば、信託銀行等への手数料が発生するため、加入選択者が少なければむしろ費用負担が増加する可能性もあることをふまえておくことが必要です。

 このように理屈上は一定のメリットが見込める制度ではありますが、給与制度が変わることの是非も含めて、職員・労働組合などの意見をよく聞きながら検討することが必要でしょう。
 また、そもそも政府や信託銀行、証券会社等がこうした一定の優遇措置を設けてまで確定拠出年金を促進したがるのは、金融市場への資金拠出拡大を狙ったものです。非営利・協同の組織としては、職員が金融市場のマネーゲームに巻き込まれ、大切な退職後の資金を失うことがないように、運用リスク等に関する周知徹底を図っていくことが重要です。もちろん運用方法は個人の判断に拠ってしまいますが、組織が制度として導入する以上、「自己責任」だけでは済まされません。

 信託銀行等から勧められるメリットだけに目を奪われず、総合的に検討していくことが求められる制度であると考えます。

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