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リファイナンスの留意点
【Q】当法人は医療法人であり、昨今経営の厳しさが増してきており、資金繰りに苦労しています。そんな折、メインバンクから「リファイナンス」の提案が持ち込まれました。
「リファイナンス」の留意点を教えてください。
【A】提案されている内容は、長期借入金の年間返済額を下げるために、短期借入金残高を増加させるものであり、リスクを認識したうえで慎重に判断すべきです。短期借入金(当座貸越)には貸はがしリスクがあり、短期借入金の返済見通しがない限りは、安易にリファイナンスにのっかるのは経営を不安定にさせる可能性があります。
【解説】
1.リファイナンスとは
リファイナンスとは、広義では、資金調達方法の変更(例えば、社債から借入金への変更や短期借入から長期借入へ変更 等)を言い、狭義では、借入金の組み替え、借換えのことを言います。
通常の借換えは、取引金融機関が多岐にわたってそれぞれの金融機関との事務連絡作業が煩雑であったり、借換えにより借入条件が有利になる場合などに実施されます。
2.昨今の医療機関に対するリファイナンスの特徴
日銀の超低金利政策が長期化する中、金融機関の経営状況が悪化してきています。その影響もあって、当面の利ザヤを稼ぐべく短期借入金(当座貸越や手形貸付)で借入残高の固定化(塩漬けあるいは期日一括払い)による借入提案をしてきているようです。金融機関にとっては、貸し倒れリスクが少ない貸出先が増えない中、診療報酬債権の担保力がある医療機関は絶好の貸出先といえるでしょう。
リファイナンスの具体的提案内容は、当該医療法人の長期借入金の年間返済水準を下げるべく、長期借入金の一部あるいは全部を短期借入金に借換えさせて、当面の資金繰りの厳しさを軽減させる提案です。一見すると、年間返済額が減少して、余力があるときに短期借入金の残高を圧縮していけばいいと思われますが、短期借入金は貸はがしのリスクがあり、満期更新が確約されているわけではありません。その時々の金融機関の審査により貸出判断が変わることもあり得るため、不安定さが残る資金繰りとなります。実質的には、金融機関の管理下に置かれているといっても過言ではないでしょう。
3.短期借入金(当座貸越契約)とは
短期借入金は、手形借入や証書借入もありますが、印紙税の負担を考えれば、当座貸越契約の借入実行でなされるのが一般的です。
当座貸越契約とは、融資の限度額(極度額)を設定して、その極度までは自由に資金を借りることができる契約のことであり、一般当座貸越と専用当座貸越の2種類があります。一般当座貸越とは、当座預金の残高が不足した場合に自動的に貸越となる契約のことであり、専用当座貸越とは、当座貸越契約に基づき当座貸越枠を設けて、その範囲内で繰り返し借入と返済を可能にする契約のことです。一般的には短期運転資金として利用されます。
この当座貸越契約ですが、金融機関の審査基準は厳しく、業績の良いあるいは担保力のある法人(業種)向けです。また、当座貸越契約の契約期限は、通常1年(最長)であり、期限到来日には、金融機関で審査が行われ、経営実績や利用状況(返済状況)に問題がなければ契約が更新できますが、当然に自動的に更新されるわけではありません。
4.コミットメントラインとは(当座貸越契約との相違点)
当座貸越契約と似ている(よく間違えられる)ものとして、コミットメントラインがあります。コミットメントラインとは、金融機関と借入先が予め設定した期間・融資枠の範囲内で請求に基づいて融資を実行することを「約束する」契約のことをいいます。コミットメントラインは融資の有無にかかわらず、手数料を支払わなければなりません(当座貸越契約にはありません)。また、基本的には一定の条件のもとでは融資を断ることはできません(当座貸越は基本的には断ることも可能です)。
すなわち、コミットメントラインは、融資枠(借りる権利)は保持されますが、支払手数料が発生するのに対して、当座貸越契約は、支払手数料は発生しない反面、融資枠(借りる権利)は金融機関の一存に委ねられるのです。
5.まとめ(留意点)
長期借入金の年間返済水準を下げるために、安易に短期借入金(当座貸越)を増加させるのは、貸はがしリスクがあり注意が必要です。金融機関が貸しはがすことはありえないと思われるかもしれませんが、過去においても貸はがしによる黒字倒産事例は多々あり、金融機関にとっても金融庁の行政指導等が入れば自主的な判断ができなくなることもありますので、貸はがしリスクがないとは言えません。
いずれにしても、短期借入金の返済見通しがない限りは、現状が厳しいからと言って安易に短期借入金にシフトするのは、「後は野となれ山となれ」的と言わざるを得ません。
(公認会計士 田中淑寛)