協働 公認会計士共同事務所

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非営利・協同の監査

Q 
この度、ある社会福祉法人の監事に就任しました。法人の内部統制を良好な水準に保つためのポイントを教えてください。

A 
非営利・協同を志向する事業体では限られた人員体制の中での業務となっていることが多く、それが故の体制上の課題もあることでしょう。大局的な観点から、法人の規模に見合った仕組の整備を心掛けることが大切です。

解説
1.非営利・協同を志向する法人・事業所の一般的な課題

 非営利・協同を志す多くの法人やその事業所における人員体制上の課題としては概ね以下のような点が考えられます。

(1) 事務、管理部門の職員数が少ない
 大企業においては本社や本部の権限が強く、集中的かつ大規模に人員を配置して一元管理する手法が採用されていますが、民主的管理運営をおこなう組織においては本部にそこまで強大な権限を与えておらず、配置される人員も限られています。昨今の診療報酬改定や介護報酬改定の影響により、人員配置に関する基準のない事務職は必要最小限にせざるを得ません。
 こうした点が、いわゆる業務の属人化やシングル・チェックの体制を強いる一要因となっています。

(2) 職員の配置転換がおこないづらい
  大規模法人の場合、定期的に職員の配置転換をおこない、人材育成や職場間での交流による組織全体の活性化を図りやすいです。しかし非営利・協同の法人・事業所においてはそもそも事務職に限られた人員しかいないため、長期にわたって一部の「ベテラン」に業務を依拠せざるを得ない状況が生まれやすくなります。
  ゆえに、組織や業務が硬直化し、改善の機会が生まれにくくなります。また、「その人にしかわからない業務」が多くなり、急な引継ぎ等の際に困難を抱えることもしばしばです。

(3) トップ幹部が必ずしもマネジメントの専門家ではない
  現場業務を経て施設長に就任するケース等、トップ幹部が他職種から異動してくることも多く、必ずしも会計や経営に明るいわけではありません。むしろ苦手にしているケースも見られます。

2.内部統制を高めるためのポイント

 こういった課題を克服しながら業務プロセスに係る内部統制の水準を向上させるためのポイントは、「見る・見える・見せる」です。

(1) 見る(=業務に複数の目を入れる(ダブル・チェック))
 自らの業務を自らがチェックするシングル・チェックでは、業務の有効性・効率性を確かめるにも限界があり、誤謬(意図的でない虚偽)や不正(意図的な虚偽)も生じやすくなります。このことから内部統制の基本はダブル・チェックといわれます。
 非営利・協同の事業体においては人員体制が限られていることからすべての業務にダブル・チェックの体制を整備することは困難な場合もあります。チェックする資料を重要なものに絞ることや、合計ベースでのチェックなど、点検の対象やその方法には工夫が必要でしょう。
 また、ダブル・チェックは必ずしも担当者と上席者という関係にこだわる必要はありません。例えば経理現金の実査結果をチェックする場合、経理課担当者が当日作成した実査表を確認するのは常に上席者に限られるわけではなく、担当者同士でもよいですし、介護職等の他職種であっても問題はありません。1人の職員に任せきりにしない、という認識こそが重要です。

(2) 見える(=業務をルール化する)
 業務の「見える化」を進めることが内部統制を機能させるうえで重要です。例えば、職員の権限や責任を明確にすることで、自覚的なチェック機能の強化が期待できます。また、業務手順の「見える化」(マニュアル化)により、いわゆる「ムダ・ムラ・ムリ」の存在が明らかになり、担当者同士の業務の重複等が明らかになる場合もあります。こうした「見える化」により業務の属人化を防ぐことで、ベテラン職員以外にも担える業務が増え、引継ぎ等に要するコストの削減も期待できます。
 少人数体制であるからこそ、積極的に業務の「見える化」を進めて職員の自覚を高め、業務の有効性・効率性を高める取組を重視すべきでしょう。

(3) 見せる(=業務の記録を残す)
 業務に関する記録を残し、いつ、誰が、何をしたのかを追跡可能にすることも内部統制上大切です。人が手作業で業務をおこなう以上、ミスを0にすることはできません。こうした誤りが明らかになった時に、資料を用いて追跡可能にしておくことで、どの段階で内部統制が機能しなかったのかがわかるようになります。このことは不正行為に対する抑止力にもなります。
 内部で作成する書類(起案書・稟議書・集計表・各種資料等)に様式を定めるほか、受け取った書類(請求書や納品書)にチェックの証跡を残して保管することも重要です。

3.まとめ
 限られた人員体制であるからこそ、大切な職員を万が一にも失うことのないよう、職員が安心して業務に臨める仕組が求められます。理事者にその点を理解させ、そういう方針を持たせることも監事監査の大切な役割です。

以上

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