協働 公認会計士共同事務所

Q & A

Q&A > 財務・会計(Q&A)

医療法人の借入限度額について

Q

弊法人は財団たる社会医療法人です。毎年の定時評議員会において借入限度額に関する決議をおこなっていますが、この根拠法令や考え方について教えてください。

 

A

財団たる医療法人の場合、「借入金の借入れ」をする場合には評議員会の意見を聴かなければならないこととされています。さらに、社会医療法人は地域で特に必要な医療の提供を担うことや公的な運営を担保すること等を条件に税制上の優遇措置を受けられる公益性の高い医療法人ですから、その事業運営はより厳格になされる必要があります。そこで厚労省のモデル定款上は「評議員会の議決を経なければならない」ように示されているものと解されます。

 

【解説】

 以下では社団たる医療法人、財団たる医療法人のそれぞれにおける借入限度額に関する考え方について解説します。

1. 医療法人の種類

医療法人には社団たる医療法人と財団たる医療法人があります(医療法(以下、「法」)39条)。さらにそのそれぞれについて、都道府県知事の認可をうけた社会医療法人と、国税庁長官の承認を得た特定医療法人があります。

社会医療法人は①同一親族等関係者の制限、②救急医療等確保事業に係る業務の実施と基準、③公的な運営に関する要件、④解散時の残余財産の帰属先の制限の4つの要件を充足することで認可され、本来業務について法人税が非課税となる等の税制上の優遇措置を受けることができます。

 

2. それぞれの法人形態での条文規程

(1) 社団たる医療法人

社団たる医療法人については、法46条、47条、51条、54条、55条に社員総会の専決事項が列記されていますが、借入金の限度額に関してはこの中には挙げられていません。しかし、平成25年度に厚労省医政局委託として公表された「医療法人の適正な運営に関する調査研究」(以下「調査研究」)において、「社団医療法人における重要事項については、社員総会の議決を要するのが通常です。例えば、モデル定款等では、次の事項について社員総会の議決を要するものとされています。」とされ、この中に「借入金額の最高限度の決定」が含まれています。

社団は一定の目的のために集合した人の結合体ですので、その構成員たる社員の統一的な意思が事業活動の基盤になります。この点で、法人の運営を左右する重要な事項については社員総会の決議を経ることが必要となるのは当然のことと言えます。

 

(2) 財団たる医療法人

財団たる医療法人については、法46条の4の5において、「理事長は、医療法人が次に掲げる行為をするには、あらかじめ、評議員会の意見を聴かなければならない」旨が定められており、この中に、「借入金(当該会計年度内の収入をもつて償還する一時の借入金を除く)の借入れ」が挙げられています。また、同2項において「前項各号に掲げる事項については、評議員会の決議を要する旨を寄附行為で定めることができる」とされています。

財団たる医療法人において、評議員会は法人運営の重要事項に関する諮問機関であり、業務執行機関に対する監督機関として位置付けられています。このことから、評議員会は法人運営に関する重要事項について意見を述べることができ、理事長はそれらの事項について意見を聴かなければならない旨が規定されているのです。また、組織としてより慎重に意思決定をおこなう観点から、重要事項に関して「評議員会の意見を聴く」ことにとどまらず「評議員会の議決を要する」ように定めることも可能になっています。

 

(3) 社団・財団共通

法46条の7、第3項において、個々の借入れの執行は理事会決議で為し得ることが示されています。

 

3. モデル定款での取り扱い

(1) 社団たる医療法人

社団たる医療法人のモデル定款では、先述のとおり「借入金額の最高限度額の決定」については社員総会の議決を経なければならないこととされています。この条文については社会医療法人の場合でも変わりありません。

 

(2) 財団たる医療法人

① 社会医療法人でない財団法人

社会医療法人ではない財団法人においては、「借入金額の最高限度の決定」は「あらかじめ評議員会の意見を聴かなければならない」こととされています。

先に紹介した法46条の4の5「借入金(当該会計年度内の収入をもつて償還する一時の借入金を除く)の借入れ」を素直に読めば、長期の借入金を執行する都度評議員会の意見を聴かなければならないように思われますが、モデル定款上は「借入金額の最高限度の決定」についてのみ評議員会の意見を聴けばよいこととされています。これは後述の通りより機動的に事業を運営していくための取扱いであると思われます。

 

② 社会医療法人の財団法人

 社会医療法人の財団法人においては、「借入金額の最高限度の決定」は「評議員会の議決を経なければならない」こととされています。先述のように、社会医療法人は一定の要件を充足する必要のある、公益性の高い医療法人です。そのためモデル定款においては、単に「意見を聴く」だけでなく「決議を要する」とすることで、事業運営がより慎重かつ厳格になされるように意図しているものと考えられます。

 

(3) 社団・財団共通

社団・財団に共通の規定として、「理事会は、この定款(寄附行為)に別に定めるもののほか、次の職務を行う」という条文の中に「多額の借財の決定」が含まれています。

本来は社員総会や評議員会において事業運営に関する事項を網羅的に決議していければよいのですが、医療法人の業務は非常に多岐にわたるものであり、逐一これらの決議を待っていては事業運営に支障が出てしまうことも考えられます。一方で、借入金政策を理事会に一任するのみでは、無制限に借入残高が膨らみ、法人の事業が立ち行かなくなることにもなりかねません。そこで「借入金額の最高限度の決定」を社員総会(評議員会)で決議することにより牽制をかけつつ、その金額を超えない範囲での個々の借入れの執行は理事会決議で機動的に為し得ることとされているのです。

 

(4) 社会医療法人特有の規定

 さらに社会医療法人に特有の規定として、「借入金額の最高限度の決定」は社員総会・評議員会の決議の他に「理事会において特別の利害関係を有する理事を除く理事の3分の2以上の多数による議決を必要とする」旨の条文も設けられています。ここからも社会医療法人の事業運営がより厳格になされるべきであるという政策意図が読み取れます。

 

以上

トップへ戻る