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「賃上げ税制」の適用要件の概略

【Q】
 私は医療生協の経理課で法人税などの確定申告も担当しています。所得拡大税制についての質問です。
 17年度(平成30年3月末決算期)までは「所得拡大税制」の要件が満たせませんでした。基準年度は一定の賞与も支給できていましたが、その後の経営状況の悪化や世代交代もあって基準年度に対する給与等支給額の増加割合を満たせなかったことや、ベテラン医師の定年退職もあって平均の要件を満たせなかったことによります。
 18年度は経営状況も上向き、世代交代も一段落したので「所得拡大税制」の要件を満たせそうだと思っていたところ、税制が変わったようで調べていました。ネットなどを見ていると、「賃上げ税制」が新設されたとか、「所得拡大税制」が延長されたとか、いろいろ出てきてよく分からなくなっています。どちらかの制度を選択できるのでしょうか。
また、実務の準備もあるので要件の概略をおしえてください。

【A】
 平成30年度の税制改正で、従前の「所得拡大税制」の見直し改組が行われ、30年4月1日~33年3月31日に開始する事業年度での適用になります。
 租税特別措置法第42条の12の5(給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除)に定められており、1項に原則(以下“大法人向け”)と2項に特例(以下“中小企業者等向け”)が定められています。
 経産省のHPの税制改正パンフを見ると、“大法人向け”は「新設」とされ、“中小企業者等向け”は「拡充延長」とされていることもあって、制度の呼び名も現状では一定していないように思います。ここでは改正後の制度全体を「賃上げ税制」と呼ぶことにします。
 税務上の中小企業者等に該当すれば「賃上げ税制」の“中小企業者等向け”の適用対象となり、該当しなければ「賃上げ税制」の“大法人向け”の適用対象となります。この点は平成30年3月31日までに開始する事業年度までに適用される従前の「所得拡大税制」と同じです。2つの制度から選択できるようになったわけではありません。
ご質問からは出資金の額が判断できませんが、医療生協の場合は事業年度終了の時の出資金の額が1億円超であれば“大法人向け”の対象になり、1億円以下であれば“中小企業者等向け”の対象になります。
 改正後の「賃上げ税制」の適用要件の概略については下記の解説を参照してください。 一番大きな違いは、雇用者給与等支給額を基準年度と比較することが無くなったことです。
(控除税額の計算の基礎も、雇用者給与等支給額の基準年度との増加額ではなく、雇用者給与等支給額の前年度との増加額になっています。)
 詳しくは今後公表される予定の手引書をご覧ください。“大法人向け”は経済産業省から、“中小企業者等向け”は中小企業庁から公表されるようです。この間、猫の目的に税制が変わりますが、具体的な手引書等が出されるのが非常に遅くなっています。この傾向は税制改正に限りません。十分な準備と審議がなされない今日の国会の状況を反映しているものと思われます。

【解説】
 「賃上げ税制」の適用要件の概略について解説します。
 なお、“大法人向け”にも“中小企業者等向け”にも教育訓練費を増加させた場合等の税額控除率の上乗せが設けられていますが、これについては不明な点もあり、別の機会にさせていただきます。

<“中小企業者等向け”>
(1)前提要件
 当期(適用する事業年度)の雇用者給与等支給額が、前期の雇用者給与等支給額を超えていること。
 この要件は従前の「所得拡大税制」の要件にもありましたが、従前は前期以上が要件でしたが、改正後は前期以下を除くことになります。(1円の違いですが変わっています。)

(2)賃金要件
 当期の継続雇用者給与等支給額が前期より1.5%以上増加していること。
従前の平均給与等支給額の要件に相当する要件ですが、継続雇用者の範囲が絞られたことに大きな違いがあります。
 継続雇用者は、改正後の「賃上げ税制」では、当期及び前期の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者で一定のものとされました。「一定のもの」は従前と変わらず、賃金台帳に記載された雇用保険法の一般被保険者で、継続雇用制度対象者は含まれないようです。
 実務的には、アバウトに言って、前期中途入職者と当期退職者等は除外した、前期と当期の24ケ月間連続して給与等が支給された、2年目以上の常勤職員と一般被保険者である非常勤職員のリストを作成して、そのリストの前期と当期の給与等支給額の総額の増加割合で判定するイメージだと思われます。
 集計実務については月別集計等が不要になり、やや簡便になります。また、従前の平均給与等支給額ではベテランの退職による影響は大きかったと思われますが、その影響は排除されます。しかし、従前は平均が1円でも超えていれば要件を満たしていましたが、改正後の「賃上げ税制」では1.5%以上増加が要件となりますので、ハードルは上がったと思っております。

<“大法人向け”>
(1)前提要件
 “中小企業者等向け”と同じです。

(2)賃金要件
 仕組みは“中小企業者等向け”と同じですが、増加割合は3%以上が要件になります。
 ご質問の医療生協の場合は出資金が1億円超なら3%増が要件になります。私共の関与する範囲では、増加割合3%以上は非常に高いハードルだろうと思っております。

(3)設備投資要件
 “大法人向け”に加わった要件で、当期の国内設備投資額が当期の減価償却費の90%以上であることが必要です。
 内部留保が十二分にある資本集約型産業の大企業などは別でしょうが、営利を目的としない労働集約型産業の医療生協等にとっては厳しいハードルだと思っております。数年前に大規模な設備投資をした場合などでは、減価償却費が大きい一方で資金面から新規設備投資がしにくい状況になりがちですから、特に厳しいでしょう。

以上

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