個人事業者が収受する立退料の課税関係
Q 個人事業者としてこれまで飲食店を賃貸物件で営業してきましたが、賃貸物件のオーナーから当該物件の老朽化(オーナー都合)を理由に立ち退きを要請されました。立ち退きに伴い立退料が支払われることになりましたが、当該立退料の課税関係はどのようになるでしょうか。
A 個人事業者が支払を受ける課税関係については、立退料の性質によって区分し判断することになります。
区分する範囲としては
(1)借家権消滅の対価を有するもの
(2)移転による休業等に伴う収益の補填的性格を有するもの
(3)家屋の明け渡しのためにかかる実費補償的性格を有するもの
(4)損害賠償的な性格を有するもの
(5)その他の性格を有するもの
の5つに区分されます。
【解説】
1.所得税の取り扱い
(1)借家権消滅の対価を有するもの
対象物件が所在する地域において借家権の取引慣行がある場合、借家権の消滅の対価に相当する部分の金額は譲渡所得に該当することになります。ただし、この取引による譲渡所得の収入金額は借地権の取引とは異なり分離課税の対象ではなく、総合課税の対象となるので注意が必要です。すなわち、累進課税(税率:5%~40%)の対象となるということです。ちなみに借家権の取引慣行がない地域においては一時所得となります。
(2)移転による休業等に伴う収益の補填的性格を有するもの
対象物件の立ち退きの事由が生じたことにより、それまで営んでいた事業を廃業・休業等したことに係る逸失利益の補填がこの収入に該当します。内容としては立ち退き等がなければ得られるはずだった営業収入やその期間の従業員の方の給与等があげられます。この性格を有する収入は事業所得に該当することになります。
(3)家屋の明け渡しのためにかかる実費補償的性格を有するもの
立ち退きに伴う引越料や新規建物の契約に係る費用などが該当します。これらに係る収入は一時所得に該当しますが、実質的には収入に見合う金額が支出されますので、結果課税関係は生じないことになります。
(4)損害賠償的な性格を有するもの
所得税では、心身に加えられた損害について支払を受ける相当の見舞金については非課税とされており、立退料のうち当該見舞金と認められるものは非課税となり得ます。立ち退きに伴い精神的ストレスが生じ通院などの事実があれば一定認められるかもしれません。
(5)その他の性格を有するもの
上記のいずれにも該当しないものはその他の性格を有するものして、一時所得に該当することになります。
2.消費税の取り扱い
(1)借家権消滅の対価を有するもの
対象物件を明け渡すことによって消滅する権利の対価であり、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象外取引となります。
(2)移転による休業等に伴う収益の補填的性格を有するもの
逸失利益の補填(補償金)であり、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象外取引となります。
(3)家屋の明け渡しのためにかかる実費補償的性格を有するもの
実費補償金であり、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象外取引となります。
(4)損害賠償的な性格を有するもの
損害賠償金であり、資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象外取引となります。
(5)その他の性格を有するもの
どのような性格の収入であっても資産の譲渡等には該当しないため、消費税の課税対象外取引となります。
要するに消費税はどの性格のものであっても課されないということです。
先に説明したとおり立退料は様々な性格を有するものから構成されています。税金計算は合理的な根拠に基づき所得を区分し計算することになりますので、申告者の恣意性の介入等のリスクを避けるためにも、立ち退きの際は双方の合意に基づく合意書等に立退料の内容を区分しておくことが適当でしょう。