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平成28年度与党税制改正大綱の留意点 

Q 私どもは医療福祉介護の分野の事業協同組合です。組合員は医療法人、生協法人、社会福祉法人、一般社団法人、NPO法人、株式会社など法人形態も経営規模も多様ですが非営利・協同の法人等です。

 先日、与党の税制改正大綱が発表されましたが、非営利・協同の法人等が実務上留意すべき点について教えてください。

 

A 平成27年12月16日付で自民公明の平成28年度税制改正大綱が発表されました。国会審議等を経て修正もあり得ますので、今回の大綱の範囲で非営利・協同の法人等に関わる実務上の留意点について以下の解説に記載します。

 

 しかし、実務に関わる具体的な項目の前に、大綱の「基本的考え方」を読んでいただきたいと思います。

 

 「基本的考え方」では、“企業収益の拡大が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資の増加に結び付くという経済の「好循環」が生まれ始めている”といった現実と乖離した手前味噌の評価のもとに、“成長志向の法人税改革を更に大胆に推進”するとして3年連続の法人税減税と消費税増税を打ち出しています。

 

 法人税減税については、“「稼ぐ力」のある企業等の税負担を軽減する”として、大企業本位の減税であることを露骨に打ち出しています。大企業減税の穴埋めは、欠損金繰越控除の縮小や外形標準課税の拡大等によって赤字に苦しむ中堅企業等の税負担に求めています。

 

 今回の大綱では、中小法人課税、協同組合等課税、公益法人等課税についての抜本改悪は織り込まれていませんが、「中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の損金算入の特例」の適用対象法人から従業員1,000人超の法人を除外するとしており、非営利・協同の組織等への課税強化は準備中と考えるべきでしょう。

 

 消費税増税については平成29年4月から10%増税と平成33年4月からインボイス制度導入を打ち出しています。食料品等一部品目を8%に据え置くのは“痛税感の緩和を実感できる利点がある”からとしており、逆進性の緩和でも低所得者の負担軽減でもありません。

 

 医療福祉介護の分野では控除対象外消費税の負担(いわゆる「損税」)による経営困難が進行しており、その解消が喫緊の課題になっていますが、大綱では「検討事項」の位置づけで、平成29年度改正に際して考えると言っているだけです。中小法人税制、協同組合等税制、公益法人等税制の見直しは「基本的考え方」で述べられており、明らかに位置づけが異なります。

 

 大綱で“大胆に推進”すると言っている“成長志向の法人税改革”は、「法人税の改革について(政府税調H26年6月)」で打ち出されていますが、儲かる産業分野を国内に残して、外国企業からの投資を呼び込み、国内産業の新陳代謝を促すというもので、その最低条件が恒久的な法人税率の引き下げだとしています。また、税制だけではダメで、TPP促進、労働市場改革、原発推進、規制緩和などの政策とワンパッケージで行う必要があるとしています。

 

 経済的強者が更に強くなり、経済的弱者は強者からの「したたり落ち(トリクルダウン)」を待ち続け新陳代謝されるという考え方の根本を問い直し、アベ政治の全体像のなかで今回の大綱を押さえる必要があると思います。

 

 

【解説】

 

 平成28年度税制改正の与党大綱の範囲で、非営利・協同の法人等の日常実務に関わる主要項目の留意点について列挙します。なお、消費税増税と複数税率及び法人税率と外形標準課税の問題などは別の機会とさせていただきます。

 

 

【「公益法人等に寄付をした場合の所得税の税額控除制度」の適用対象となるために、法人に求められる要件を緩和する】

 

 現状の認定申請の要件の一つにある「3,000円以上の寄付者が年平均100人いること」が、事業規模が小さな場合(公益目的事業費用が1億円未満)には一定緩和されます。

寄付者の人数要件を「100人×公益目的事業費用÷1億円」に緩和しつつ、当該寄付者に係る寄付金額が年平均30万円以上であることを要件に追加するということです。

 公益法人や社会福祉法人にとって寄付金収入の重要性は高まっていると思われますので留意してください。

 

 

【通勤手当の非課税限度額を月15万円に引き上げる】

 

 平成28年1月1日以後に受けるべき通勤手当から、現状10万円の上限を15万円に引き上げるとされています。今後成立すれば平成26年10月のマイカー通勤の限度額改正と同様に遡及適用になると思われます。施行前に限度超過分について源泉徴収している場合は年末調整で精算するなど実務面に留意してください。

 

 

【学資金の非課税所得の範囲の拡大】

 

 学資に充てるため給付される金品は基本的に非課税所得ですが、現状では「給与その他対価性を有するもの」は非課税所得から除外されています。平成28年4月1日以後は「給与所得を有する者がその使用者から通常の給与に加算して受けるもの」は役員等を除いて非課税所得とするということです。これまでの国税当局の見解と大きく異なりますので、今後の議論で修正等もあり得ると思われますが注目されるところです。医療法人等が医学生等に貸与した奨学金を契約に基づいて就職後に勤務期間に応じて返済免除するといったことが該当すると思われます。

 

 

【建物付属設備及び構築物の減価償却方法は定額法のみにする】

 

 現状は建物について定額法に限定されていますが、平成28年4月1日以後の取得分から、建物付属設備と構築物についても定率法を廃止して定額法のみに限定するということです。会計処理基準としての減価償却方法のあり方の議論と符合する面もありますが、手っ取り早い増税策として織り込まれたものと思います。

 

 

【「中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の損金算入の特例」の適用対象法人から従業員1,000人超の法人を除外する】

 

 この特例制度をはじめとして「中小企業者等」に該当する法人の税負担を軽減する施策がとられています。現状でも資本又は出資を有しない法人(出資持分の無い医療法人など)で従業員1,000人超の法人は「中小企業者等」の範囲から除外されており、医療福祉介護といった労働集約型の業種においては、経営の実質が中小企業者等でありながら従業員の規模によって施策から排除されるという不合理があります。今回の大綱では、この特例制度(30万円未満の特例)については従業員1,000人超の法人を一律除外するものとしています。

 大綱の「基本的考え方」は、中小法人課税、協同組合等課税、公益法人等課税について、法人の性質や資本規模で一律に取り扱う仕組みを「見直す」スタンスです。今回の一律除外は課税強化の先兵として見ておく必要があると思います。

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