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職員紹介制度導入における留意点と税務上の取扱について

(Q) 当法人は、医療・介護事業をおこなっている医療生活協同組合です。昨今の人材不足から「職員紹介制度」を導入し、採用に結び付いた場合には一定の対価(報奨金)を支払う仕組みを検討しています。その際の留意点と税務上の取り扱いを教えてください。

 

(A) 職業安定法(以下、職安法という)第40条では、労働者の募集をおこなう者に対して、一定の場合を除き報酬を与えてはならないと定めています。この一定の場合とは、①自社の被用者である職員が紹介した際に、その対価が賃金、給与その他これらに準ずるものの支払いである場合、②職安法36条に定める厚生労働大臣の認可を受けている者(いわゆる「人材紹介会社」)である場合です。よって、病院内の掲示板やホームページ等で職員紹介を患者や生協組合員など広く一般に通知し、それに対して報奨金等を支払うことは、職安法に抵触する可能性が高いと考えられます。

  一方で、貴生協の被用者である職員が、知人・友人などに対して勧誘をおこない、採用に結び付いた場合に支払う報奨金であって、それがあらかじめ労働契約や賃金規程等に定められていれば賃金・手当となるため、上記①のとおり、職安法40条の規制対象外と考えることができます。その際の税務上の取り扱いは、あくまで職員に対する賃金等の支払いであるため、支給を受ける側も当然に給与所得となります。

 

(解説)

 

①医療・介護業界における深刻な人材不足と多額にのぼる人材紹介料負担の実態

 

現在、医療・介護業界では、度重なる診療報酬および介護報酬の引き下げなどによる経営困難なども影響し、深刻な人材不足となっています。そこを狙ったように、医療機関や介護事業所に対して人材紹介業者による人材紹介が増加していますが、その対価として支払う多額の人材紹介料が問題視されています。2019年12月に公表された厚生労働省の「「医療・介護分野における職業紹介に関するアンケート調査」では、紹介手数料が経営の負担となっていると回答した事業者は、医療分野で69.2%、介護分野で70.4%にものぼっています。また、職種別にみる紹介手数料の平均額は、医師276.6万円、看護師91.8万円、リハビリ専門職86.2万円、介護職員50.1万円などと非常に高額となっており、こうした高額な紹介手数料を支払って入職したにも関わらず、すぐに退職してしまったという回答も、医療分野で29.2%、介護分野で18.7%にも及んでいます。

少し古い統計ですが、2015 年度統計によると、医療機関が紹介事業者に支払った紹介手数料総額は年間約 600 億円にものぼるという調査もあり、税金と社会保険料という公的資金からなる診療・介護報酬が人材紹介業者に多額に流れている矛盾が生じています。

こうした多額の人材紹介料による経営負担を少しでも回避するため、法人内の「職員紹介制度」導入を検討・実施している法人が一定数生じています。

 

②職安法40条の内容詳細と解説

 

 人材紹介における紹介料(報酬)について、職安法40条では以下のように定めています。

 

『労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。』

 

したがって、病院内の掲示板やホームページなどで不特定多数に対して職員紹介を広く呼び掛けて報奨金を支払うことは職安法に抵触する可能性が高いと考えられます。生協広報紙などで生協組合員に限定したとしても、組合員は被用者ではありませんので、紹介の対価として報奨金を支払う場合には問題になり得ると考えます。なお、実際の事例として、紹介の対価が金銭ではなく、金券等であっても労働局から職安法に抵触すると指摘された事例もあるため注意が必要です。

 

一方で、職員による紹介であって「賃金、給料その他これらに準ずるもの」を支払う場合は「除く」とありますから、こうした整備を図れば職安法の規制対象外と捉えることができます。この場合、あくまで職員に対する「報酬」ではなく、手当などの賃金等と整理することが必要となるため、賃金規程にどのように組み込むかが一番のポイントになります。

 

ただし、職員紹介制度については、厚生労働省と各都道府県労働局によっても見解が異なるという報告も受けています。統一的な取り扱いをおこなってもらいたいところですが、実務上は管轄当局の指導等によることになると思われます。その場合も、管轄当局に対して職安法に照らして指導根拠を明確にさせ、反論すべき点があれば適切に主張することが必要です。

 

③職員紹介に対する報奨金の税務上の取り扱い

 

職員紹介を受けた場合の現職員に対する報奨金の税務上の取り扱いは、雇用契約のある職員に対する賃金なので、当然に「給与所得」として源泉徴収が必要となります。それ以外の処理は、職安法と矛盾してしまいます。

また、紹介を受けて入職した者に対しても一定の報奨金等の支払いをおこなうような制度の場合、雇用契約後の支払いになりますので、同様に「給与所得」になります。

 

 

以上、法的な取り扱いについてはみてきたとおりですが、本来的には「仲間」としての労働者を迎え入れるための取り組みであり、当然「報奨金ありき」では、民主的かつ自覚的な人材が入職し、育っていくことは困難です。人材不足や紹介会社への多額な紹介料に抗するために工夫をおこなった制度ではあると思いますが、経済的インセンティブが先行し、本来の目的が逆転するようなことがないように、制度のあり方を組織的にきちんと確認していくことが望まれます。

 

(公認会計士 千葉啓)

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