協働 公認会計士共同事務所

Q & A

Q&A > Q&A,税 務(Q&A)

【2020年(令和2年)分の年末調整の留意事項~ひとり親控除の新設、寡婦(夫)控除の改正】

【Q】

 総務課で給与計算等を担当しています。税制が変わるたび、年末調整も複雑になって職員への説明も大変です。国からは報酬も払ってもらえないのに(`ヘ´)。

 今年(2020年分)の年末調整は色々変わるので混乱しています。特に、ひとり親控除と寡婦(夫)控除の関係が分かりにくいので教えてください。

 

【A】

 2020年分の年末調整の実務は、12月支給分まで改正前の“寡婦控除”と“寡夫控除”で処理したものを、改正後の「ひとり親控除」と「寡婦控除」に適用を修正して再計算するイメージです。

 継続して働かれている職員について、改正前からどのように変わるかに着目して、留意事項の概略を整理してみます。用語の細かな定義等については省略させていただきますので、国税庁のFAQなどを参照してください。

 ところで、近年の源泉徴収実務の煩雑化は目に余ると考えています。憲法の原則は自主的申告納税制度です。本来的には負わされる必要の無い税法上の義務を、徴税の効率性・確実性の観点から法人に負わせることが憲法上容認されるのは、法人にとって過度な負担や不合理にならない、必要最小限の「分かりやすい」範囲だけだと考えるべきでしょう。制度が煩雑になりすぎ、現場の皆さんの労働負荷も法人の費用負担も、容認できる限度を超えているのではないでしょうか。現場からの声を国政に届ける必要があると思います。

 

【解説】

 

1.対象者別の変更点

 

(1)改正前の“特別の寡婦”として35万円控除に該当していた方。

死別・離婚した後再婚していない方で、扶養親族である子があり、かつ合計所得金額が500万円以下の方。

⇒「ひとり親控除」35万円(新設)の適用に変わります。控除額は変わりません。

 

(2)改正前の“一般の寡婦”として27万円控除に該当していた方。

 ①死別・離婚した後再婚していない方で、扶養親族がある方。

⇒扶養親族の要件があり、所得制限はなかった制度ですが、所得制限が持ち込まれました。合計所得金額が500万円(給与支払額が約677万7千円)を超える場合、2020年分の年末調整で「寡婦控除」を適用できません。合計所得金額が500万円以下であれば、「寡婦控除」27万円を適用します。

 

 ②死別した後再婚していない方で、合計所得金額が500万円以下の方。

離婚された方には適用がなく、所得制限があり、扶養親族の要件がない制度です。

⇒改正前と要件は変わらず、「寡婦控除」27万円を適用します。

 

(3)改正前の“寡夫”として27万円控除に該当していた方。

死別・離婚した後再婚していない方で、扶養親族である子があり、かつ合計所得金額が500万円以下の方。

⇒2020年分の年末調整から、「ひとり親控除」35万円(新設)の適用に変わります。

控除額が8万円増えます。

 

(4)職員本人がいわゆる“未婚のひとり親”の場合 (新設)

現に婚姻をしていない方(男女共)で、扶養親族である子があり、かつ合計所得金額が500万円以下の方。

⇒2020年分の年末調整から、「ひとり親控除」35万円の適用になります。

 なお、年の中途で配偶者(控除対象)と死別した方が「ひとり親控除」に該当する場合、配偶者控除と重複して適用になります。

 

2.上記各控除に共通した留意点

 

(1)いわゆる事実婚と認められる(住民票に記載がある)場合は適用できない

 改正後の「寡婦控除」、新設の「ひとり親控除」は、事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないことが要件になります。具体的には、住民票の続柄に“未届の夫(妻)”の記載がある場合には適用できません。

 この点について、総務省事務連絡が出されており、市区町村に対して続柄確認を行い是正し、その情報を国税庁と共有するものとされています。従って、年末調整で扶養控除申告書に基づいて控除を適用したが、後日税務署から法人が更正されるケースも生じる可能性があるということです。

 年末調整で住民票の提示を受ける等の対応も考えられますが、実際問題として職員のプライバシー保護や負担の関係で適当かどうかは疑問です。市区町村で必ずチェックされる旨の周知にとどまるように思われます。今後何らかの指針が示されると思われますので留意してください。

 

(2)異動内容の申告等の留意点

 年末調整において、次の場合に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」で異動内容の申告が必要になります。

①いわゆる“未婚のひとり親”が「ひとり親控除」に該当する場合

    ※2020年分の申告書には「ひとり親控除」の欄が設けられていないため、

“特別の寡婦”の欄を「ひとり親」に書き換えてもらう方法が例示されています。

②“一般の寡婦”が「ひとり親控除」に該当することになった場合

③“未届の夫(妻)”の住民票記載又は所得制限によって控除に該当しなくなった場合

 

 なお、“寡夫”の方に異動がなく、そのまま「ひとり親控除」に該当する場合は、異動内容の申告が不要とされていることに留意が必要です。申告がなくても、年末調整の実務では「ひとり親控除」として27万円から35万円に控除額を変更しなければなりません。異動内容の申告を頼りに実務が進められていると思われますので、モレが無いように工夫する必要があるでしょう。

 

(3)年末調整で初めて適用することになるので、ゆとりを持った周知期間が必要 

 毎月支給する給与の源泉徴収では改正前の控除が適用され、年末調整で初めて改正後の控除を適用することになります。

 “未届の夫(妻)”の住民票記載又は所得制限によって、控除が受けられなくなる場合があります。ゆとりを持って説明するなど、職員には丁寧な対応が必要だと思われます。

 

(4)給与ソフトのチェックなど入念な準備が必要

 ソフトウェアを使用している法人が圧倒的に多いと思いますが、登録操作等の変更点に注意して十分に習熟する必要があるでしょう。また、年末調整での計算が毎月の計算と異なる改正なので、ソフトウェアのロジックも複雑になるように想像されます。

 ソフトウェアを過信せず、テーブルやマスターの設定変更等に十分注意して、検算を入念にするなど慎重にする必要があるでしょう。短期決戦型の業務ですから、秋には入念な準備ができるようなスケジュールを立てたいところです。

 

【おわりに】

 「男女差を無くし弱者に手厚く」といった触れ込みでした。新設された「ひとり親控除」に性別による差が設けられなかったことは当然でしょう。しかし、解消された差は、女性に所得制限を持ち込んだこと(増税)だけです。「ひとり親控除」の財源の穴埋めに、弱者である“寡婦”に所得制限を持ち込んだわけです。また、扶養親族の要件の差は残されたままで、扶養親族である子がある場合の他では、男性に控除がなく、女性は所得制限付きで「寡婦控除」がある状況です。

 詐欺的な手法でごまかすのではなく、大企業や超富裕層への優遇税制を改めて、税金を負担する能力に応じた税制、男女差を無くし弱者に手厚い税制に舵を切れる政治を求めるべきではないでしょうか。

以上

 

トップへ戻る