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消費税簡易課税制度について

Q 当法人は、過去に「消費税簡易課税事業者選択届出書」を提出しています。ここ数年間は基準期間の課税売上高が5千万円を超えていたので原則課税で申告していましたが、2事業年度前(基準期間)の課税売上高が5千万円を下回りました。原則課税で計算した方が消費税の納付額が少なくなりますが、任意で原則課税を選択することは可能でしょうか。なお、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は提出していません。

 

A 「消費税簡易課税事業者選択届出書」を提出している場合、基準期間の課税売上高によって簡易課税の適用・不適用が判定されます。したがって、基準期間の課税売上高が5千万円を超えているのであれば簡易課税は適用できず原則課税となりますし、逆に下回っている場合は必然的に簡易課税となります。納付税額による有利判定はできません。簡易課税よりも原則課税で申告した方が有利になると判断される場合には、簡易課税を止めようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。

 

解説

 

①簡易課税制度の概要とメリット

 

 簡易課税とは、課税売上高にみなし仕入率という一定率を乗じて、納付する消費税額を計算する方式です。このみなし仕入率は業種ごとに率が決まっています。簡易課税のメリットは、課税仕入れを集計する必要がなく、課税売上高の集計だけで済むことから実務上簡便であることが挙げられます。特に、中小規模事業者は人員体制などの理由から消費税計算の実務負荷がより重くなりがちなので、基準期間の課税売上高が5千万円以下の事業者については「消費税簡易課税事業者選択届出書」を税務署へ提出することにより、簡易課税制度を選択することができます。

また、一般的には、原則課税に比べて簡易課税の方が税務署へ納付する税額から控除できる消費税(仕入控除税額)が増加する場合が多いことから、納税計算上、有利となるケースが多く見受けられます。特に、(詳細は省略しますが)売上高全体に対して非課税売上高が占める割合が高い事業者は、消費税納付税額の計算上、ほぼ確実に有利となります。

 

②簡易課税制度を選択した場合の留意点

 

 実務上の簡便性や納付税額の面で、簡易課税は基本的に有利になる場合が多いですが、原則課税の方が納税額が少なくなる(あるいは還付になる)ケースが考えられます。その代表格が、建物の建設や高額な備品購入など大きな設備投資があったことにより、課税仕入れが大きく膨らんだ場合です。消費税は、簡単に言えば課税売上高に対する預り消費税から、課税仕入れにかかる支払った仮払消費税を差し引きして納付するので、課税仕入れの方が高額の場合は還付を受けることができます(課税売上割合は考慮していません)。一方、簡易課税は課税売上高に一定率を乗じて納付税額を計算しますから、還付となることは絶対にありません。

 解答に記載したとおり、「消費税簡易課税事業者選択届出書」を提出している限りは、基準期間の課税売上高で簡易課税の適否が自動的に決まるため、こうした高額な設備投資等が予定されており、消費税の還付が受けられる見込みがある場合は、事前(事業年度開始前)に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しておく必要があります。また、簡易課税はいったん選択すると、その後2年間は原則課税に変更できないため、その点も注意が必要です。

 なお、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で被害を受け、税務署長の承認があった場合は、その被害を受けた課税期間から簡易課税制度の適用を受ける(あるいはやめる)ことができます。具体的な事例としては、新型コロナウイルス感染症の被害により、(1)通常の業務体制維持が難しく事務所理事能力が低下したため簡易課税に変更したい、(2)感染拡大防止のため緊急の課税仕入れが生じたため原則課税に変更したい、場合などが例示されています。該当事例がある場合は検討してみてください。

 

③消費税に関して2年間継続適用が求められるもの

 

 消費税では、簡易課税の選択同様に2年間の継続適用が求められている事項がいくつかあります。今回はそれぞれの詳細は解説しませんが、該当する事項があった場合には注意が必要です。

 

(1)「消費税課税事業者選択届出書」

 消費税課税事業者に該当するか否かは、基本的に基準期間の課税売上高が1千万円を超えているか否かで判定されます。1千万円以下である場合は、免税事業者となります。一方で、こうした免税事業者においても上記のような設備投資などにより消費税が還付される場合も考えられます。このような場合、免税事業者が、事前(事業年度開始前)に自ら「消費税課税事業者選択届出書」を税務署へ提出することで課税事業者となることができます。ただし、その場合、事業年度開始から2年間は免税事業者に戻ることはできないため、注意が必要です。

 なお、これに関しても新型コロナウイルス感染症の影響で、売上高が50%以上減少している場合などの特例が設けられています。該当するケースはあまりないと思われますが、売上高が激減した免税事業者で、感染症対策のためなど予定外に多額の設備投資をおこなった場合は消費税分の還付を受けられる可能性もあるため検討してみてください。

 

(2) 「消費税課税期間特例選択・変更届出書」

 消費税の課税期間(消費税を計算する期間)は原則として1年ですが、「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を提出することにより、3ヶ月または1ヶ月に短縮することができます。申告・納税の回数も増えますので、当然実務負担が増えますが、輸出業など常時消費税の還付を受けられる事業者は早く還付を受けられるため有利になります。なお、課税期間を短縮し、短縮した課税期間の前日までに「消費税簡易課税事業者選択届出書」「消費税課税事業者選択届出書」等を提出することで、年度途中でも簡易課税制度や課税事業者を選択することも可能となります。これも一度短縮の適用を受けると2年間の継続適用が必要となります。

 

(3)原則課税における「一括比例配分方式」

 課税期間の課税売上高が5億円超あるいは課税売上割合が95%未満の事業者については、課税仕入れにかかる消費税額全額を控除できず、課税売上高に対応する部分のみが控除できるため、その調整計算をおこないます。その調整計算の方法として、一括比例配分方式と個別対応方式の2つがあります。一括比例配分方式を選択した場合は、2年間以上継続適用した後でないと、個別対応方式に変更することはできません。

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