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続 種子法について

 昨年夏に「種子法廃止について」というコラムを掲載しました。
 マスコミにもほとんど取り上げられず、参院で5時間という審議時間で決議がなされたことをお伝えし、本年4月1日でいよいよ廃止となりました。あまり報道されない、この法律廃止がどのように私たちの生活に関わってくるのか、あらためて考えてみたいと思います。

【種子法の成立】

 種子法(主要農産物種子法)が制定された経緯は、1952年5月、サンフランシスコ講和条約により主権を取り戻した直後。戦時中の食糧不足を経験し、食料を確保するためには種子が大事だ、ということから制定されたものと考えられます。
 種子法は、安定した食料を供給するため、都道府県に「主要農作物の優良な品種を決定するため必要な試験を行わなければならない」義務を定めています。そして「奨励品種」と言われる種子を作り、穀物生産の安定供給を図ってきました。

【種子はどのように作られるのか】
 実際にはどのように種子は作られているのでしょうか。
 前述の「奨励品種」の種子は都道府県の農業試験場などの研究機関と、農協、採種農家が連携して生産されています。
 種子事業は大まかに以下の3段階となっています。

  (1)新品種育成
    いくつかの品種を交配し、希望する形質を持つものの選抜、固定し、「品種候補」をつくる。
  (2)奨励品種決定調査
   「品種候補」を調査し、優良な品種(奨励品種)を選定するデータの蓄積をする。
  (3)種子生産
   「原原種栽培」→「原種栽培」→「種子栽培」という過程を経て種子採りを繰り返し、種子(種籾)を一般農家へ供給し「一般栽培」となる。

  「原原種栽培」:都道府県の農業試験場などで行われる
  「原種栽培」:「農業振興公社」などの公的機関で栽培
  「種子栽培」:採種農家(農協等で組織)で増産


 つまり、各地域にあった、天候不順や病気に強い種子を見つけるための事業なのです。各々の過程が大変に時間労力のかかるもので、たとえば3年かけても「奨励品種」とならないことも多いそうで、また調査に7年かけても、1つでも弱点が見つかれば、断念せざるを得ないという例もあったそうです。
 同様に種子栽培の過程も雑草や異株の除去など、手作業で行われることが多く、形質の優れた株にするまでに相当の手間暇がかかります。

 このような公的な種子事業によって、各地域毎に特色のある品種が、安価で安定的に供給されてきています。

 種子法廃止後、直ちに公的種子事業が無くなるというわけではない、と言われていますが、今後の動きは要注意です。 

【何故、廃止なのか】

今回の廃止の理由として、政府が以下の3点を挙げました。
(1)種子生産者の技術向上により、種子の品質は安定している。都道府県に一律に種子生産・供給を義務づける必要性が低下している
(2)多様なニーズに対応するため民間の力を借りる必要がある
(3)種子法があるため、都道府県と民間企業の競争条件は対等になっておらず、公的機関大開発品種がほとんど占めている。
 将来的な目論見として、民間による遺伝子組み換え品種を導入することが想定されているのではないかとも言われています。
 また、同時に成立した「農業競争力強化支援法」では、「~独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」となっています。都道府県により苦労して得た情報が民間へと渡り、民間企業の思惑に支配された農業となりかねないという危惧があります。

【民間、バイオメジャーの存在】
 すでに諸外国では、種子の独占化が進んでいます。
 多国籍企業は、投資ファンドや各国政府へのロビー活動をすすめ、UPOV1991年条約(植物の新品種を育成者権という「知的財産権」として育種者(新品種の開発者)の権利を保護するためのもの)を作り上げました。
 この条約を批准した国は育種者の権利を守るために国内法を整備しなければならなくなりました。
 もともと農薬・化学企業のモンサントらの多国籍企業が、遺伝組み替え(GM)技術をもつベンチャー企業を買収し、GM種子を開発・販売するアグロバイオ企業となります。これら条約等を背景に中南米やアフリカに手を伸ばし、種子を売るだけでなく、同時に農薬・化学肥料もセットで販売することで莫大な利益を得ています。
 2014年に世界の商品種子市場は上位7社で約7割を占めていたそうですが、その中で、2016年にモンサントとバイエルが合併し、2017年にデュポンとダウが合併したことで、この2つだけで市場の50%以上を占める状況となっています。

 一方で、こうした多国籍企業の横暴に抵抗する動きも見られます。ブラジルでは、政府の政策により種子法を改正し、農民が伝統的に育てている種子に関して持つ権利を明記したり、「非遺伝子組み換え大豆」の供給をバックアップする取り組みがなされています。

 世界では、多国籍企業の横暴に抗して、農民や政府が取り組みを進めている一方、日本政府の種子法廃止の動きは、ますます多国籍企業のための施策に思えてきます。
アメリカでは、小麦の2/3は自家採種、1/3は州立農業試験場などの公的種子が中心だそうです。カナダでも約8割は自家採種で、残り2割の大半は公共品種のようです。
今こそ公的種子事業を守る取り組みがますます重要になっています。

【現在の取り組み】

 日本国内でも少しずつ取り組みが進んでいるようです。
 昨年7月に農業関係者や生協、市民団体等で結成された「日本の種子(タネ)を守る会」などは、種子法廃止を受けて声明を発し、日本の種子(タネ)を守る運動を呼びかけています。
 そこには、農民の種子採種の権利を守り、多国籍企業の種子独占からの防衛が述べられています。また、公共品種を守る新たな法律の制定を求めています。
 4月19日には6野党・会派(日本共産党、立憲民主党、希望の党、無所属の会、自由党、社民党)が「主要農産物種子法復活法案」を衆議院に共同提出し、6月6日には農林水産委員会にて審議が開始されました。
 また、公的種子事業を守るために、優良品種の認定や種子の生産を継続するための条例制定などに取り組む自治体や住民の活動も聞こえてきています。
 国民の食を守る点で、種子法廃止の狙いを明らかにし、巨大多国籍企業の横暴に屈しない、国民の共同が求められると考えます。

(田中 淳)

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