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非営利・協同論の系譜

 非営利・協同論は日本においては旧ソ連崩壊後の1990年代からスタートした議論であり、まだ明確な定義等は定まっていないように思われる。そもそも非営利・協同組織が現代社会の中で営利市場経済に対抗し、実践を積み重ねていく中で、徐々にその理論も深まっていく性格のものではないかと思うのである。

 ここでは、非営利・協同論の系譜を「かけ足」でたどり、私見も交えて、今後の議論や実践の方向について考えてみたい。

(1)非営利・協同の意義

(いのちとくらし研究所報NO60 富沢賢治「非営利・協同の理念とナショナルセンターづくりの課題」p2、富沢賢治著「非営利・協同入門」p12~13を参考にしている)

 非営利・協同論を提起した主要研究者の一人が、富沢賢治氏(一橋大学名誉教授、非営利・協同総研いのちとくらし顧問)である。富沢氏は以下のように非営利・協同という用語を提起した当時を振り返っている。
 「「非営利・協同」という表現は、日本の労働者協同組合運動の中から登場したように思われーーーすでに1990年代によく用いていた。」「1998年にーーー国際シンポジウム「ポスト福祉国家における非営利・協同の役割」が東京で開かれーーー討論の共通用語として「非営利・協同」というコンセプトを用いることを提案した。」
 そして、「非営利・協同の担い手である組織は、協同組合、共済組織、NPOなどの種々の民間非営利組織」であるとした上で、非営利・協同組織の特徴として以下のように述べている。
 「非営利・協同組織とは「営利目的でなく社会的目的を実現するために人びとが協同して活動する組織」だということです。ーーー。非営利・協同組織の特徴はつぎの四点にあります。
  a 開放性(開かれた組織、自発性に基づく加入・脱退の自由)
  b 自律性(政府その他の権力の直接的な統制下にない自治組織)
  c 民主制(一人一票制を原則として民主主義と参加という価値に基づいて運営される組織)
  d 非営利性(利潤極大化ではなく社会的目的の実現を第一義として運営される組織)」

 富沢氏はこの特徴点を、後で述べるヨーロッパにおける社会的経済憲章、ICA(国際協同組合連盟)のアイデンティティに関する声明等を踏まえて提起したものと思われる。

(2)ヨーロッパにおける社会的経済、第三セクター

ア 社会的経済(富沢賢治、川口清史編「非営利・協同セクターの理論と現実p16~17を参考にしている)

 ヨーロッパでは、1970年代から議論と実践が進められ、当時のEC(ヨーロッパ共同体)及び多くのEC内各国で法的にも位置付けられている。しかし、非営利・協同という用語は一般的でなく、おおむね社会的経済(SOCIAL ECONOMY)と呼ばれている。
 それが公的に使用された例は、フランスのミッテラン社会党政権下でCNLAMCA(共済組合、協同組合、アソシエーションの活動についての全国連絡委員会)により定められた社会的経済憲章(1980年)である。この憲章では社会的経済について、以下のように定義している。
  a 社会的経済の企業は民主的に運営される。
  b 社会的経済の企業のメンバーは、それぞれが選択した活動形態(協同組合、共済組合、アソシエーション)に従って、企業活動に責任を持つ。
  c すべての組合員が生産手段の所有者という資格を持つ社会的経済の企業は、教育・情報活動により、内部に新しい社会関係を創造するように努める。
  d 社会的経済の企業は、各企業の機会平等を要求する。また、その活動の自由を重視して発展の権利を認める。
  e 事業の剰余金は企業の発展と組合員へのよりよいサービスにのみ用いられる。
  f 社会的経済の企業は、個人と集団の向上を目指して、社会の調和ある発展に参加するように努める。
  g 社会的経済の企業は人間への奉仕を目的とする。 

 さらに、ECにおいて、1994年に欧州委員会が発表した「ECにおける協同組合、共済組織、アソシエーション、財団のための3か年行動計画」では以下のように述べている。

 社会的経済の組織は経済民主主義の諸原則にもとづいて組織され運営される。これらの組織は、社会的目的を持ち、参加の原則(とくに一人一票原則)と連帯の原則(メンバー間の連帯、組織間の連帯、生産者と消費者との連帯など)を基礎に組織され運営される。これらの組織の特質は、とりわけ下記の原則の協調にみられる。a資本よりも人間を優先させる。b訓練と教育による人間発達を重視する。c自由意思による結合。d民主的運営。e自立とシティズンシップという価値を重視する。 

イ 第三セクター(富沢賢治著「非営利・協同入門」p14~15を参考にしている)

 また、ヨーロッパでは非営利・協同組織の活動する分野のことを第三セクターともいう。日本においては、国、地方自治体が民間との共同出資により運営する事業体のことをそう呼ぶが、ヨーロッパではそれとは異なり、富沢氏は以下のような分野のこと示していると述べている。
 「民間非営利組織の集合体は、国際的には「第三セクター」といういい方で理解されております。「非営利・協同セクター」にせよ「第三セクター」にせよ、ここで言う「セクター」という意味は、「分野」とか「領域」とか「部門」とか言ってもいいものです。ーーー。現代社会には幾つかの異なった経済原理によって運営されている社会的構成領域があります。「第三セクター」は、その構成領域の一つであり、しかも二一世紀を見据えた時にますます重要になってくる社会領域です。ーーー。
 社会は、国家や地方自治体などの公共領域(第一セクター)と営利を目的とする民間の市場領域(第二セクター)の二つによって構成されると認識されてきました。しかし、---公共経済でもなく、私的経済でもない、民間の非営利経済が第三のセクターとして実際に存在するのではないか、ということです。」                                                                  

(3)アメリカにおける非営利組織

(富沢賢治、川口清史編「非営利・協同セクターの理論と現実p42~54を参考にしている)

 アメリカは、世界一の資本主義国として営利企業中心の経済活動が行われてきたが、一方で非営利組織による事業や諸活動も盛んであり、非営利組織に対する研究も進められている。
背景としては、アメリカの富裕層が営利活動によって蓄積した富を、巨額の資金を寄付したりする形で非営利組織を設立運営するような「文化」あるいは「風土」があることがあげられている。
 ここでいう非営利組織とは、研究者であるレスター・サラモン等によれば、以下のような6つの特徴点で定義されている。
a 公式に設立され、ある程度公共組織化されたもの。
b 制度的に政府から独立している、民間組織であること。
c 利益を生み、蓄積できるけれど、それは組織の活動に再投資されねばならず、組織の構成員に分配されないこと。
d 自主管理
e 組織の活動やマネジメントに何らかのボランティアの参加があること。
f 公共の利益のためのもの

 日本の非営利・協同組織、ヨーロッパの社会的経済企業と類似する点は当然あるが、注意すべきことは、上記の通り構成員に対する非分配を非営利組織の要件とすることで、相互扶助組織としての協同組合、共済組合は一般に除外されていることである。アメリカにおいては、協同組合等は基本的に営利組織とされており、非営利・協同の立場からは違和感のある分類といえる。
 また、非営利組織の経済的存在意義については、新古典派経済理論に基づき説明されている。すなわち、準公共財(教育、医療、福祉サービスなど)については供給者と需要者の間での「情報の非対称性」が存在するため、私的財を扱う営利市場のように供給者の利益追求=需要者の効用最大化を図る仕組みが機能しない、よって、供給者側での利潤分配を規制する非営利組織に担わせることで供給者の動機を利潤以外のサービス供給に専念させる、という訳である。
 なお、日本における法人法制、税制も、アメリカでの営利、非営利の分類の影響で同様の考え方に基づいていると思われる点も注意を要する。我々の専門分野である事業税などでは、協同組合は基本的に営利法人と同列に取り扱われている。

(4)ICA(国際協同組合同盟)による協同組合のビジョン 

 ICAは、第二次大戦後のおける世界の協同組合運動の動向を踏まえて、1980年に協同組合の中長期的ビジョンを提案にした。「西暦2000年における協同組合」がそれであり、提案者の名前を付け、「レイドロー報告」と呼ばれている。
 そこでは、将来のビジョンとして以下のようなことが述べられている。

「(将来のための示唆)
a 協同組合運動にとって、その基盤となる概念、思想、および道徳的な主張を明らかにし、知らせることは重要であり、また実際に必要不可欠なことである。
b 協同組合原則は、運営原則ではなく基本的な指針の表明として定式化され、すべてのタイプの協同組合に適用される最低必要条項として設定されなければならない。
c 将来は、特に地域社会レヴェルにおける多目的タイプの協同組合に重点をおいて、すべての規模の多種多様な協同組合が要求されるだろう。
d 協同組合の民主的性格は、協同組合組織のすべての点について、またすべてのレヴェルにおいて確保されなければならない。
e 経済的に効率がいいばかりでなく、社会的に影響力を持った協同組合が、新しい時代にもっともよく受け容れられることになろう。
f 協同組合と国家の間の相互作用は、見通しうる将来においては大きく増大し強まるだろう。
g 協同組合組織の将来の発展は、各国の経済における結合力のあるセクターの建設を通じてのみ保証されうる。
h 将来の全世界的な協同組合運動においては、より広範な諸思想を許容する余地が存在しなければならない。

(将来の選択)
第一優先分野 世界の飢えを満たす協同組合
第二優先分野 生産的労働のための協同組合
第三優先分野 保全者社会(よりよい生活や社会を守る)のための協同組合
第四優先分野 協同組合地域社会の建設」

 さらに、ICA100周年を記念して、1995年に「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」が発表された。

「(定義)
 協同組合は、人々の自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人々が、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じて、共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえることを目的とする。
(価値)
 協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たちの伝統を受け継ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、他人への配慮という倫理的価値を信条とする。
(原則)
  協同組合原則は、協同組合がその価値を実現するための指針である。
 <第一原則>自発的で開かれた組合員制
 <第二原則>組合員による民主的管理
 <第三原則>組合員の経済的参加
 <第四原則>自治と自立
 <第五原則>教育、研修および広報
 <第六原則>協同組合間の協同
 <第七原則>地域社会への関与 」

 その内容は多岐にわたるが、共通する特徴は、協同組合が自立して民主的に管理されるべきこと、また、利潤追求ではなく地域社会に開かれた活動を展開すべきこと、を強調している点にあると思われる。
 なお、ICA声明の中にある「自助」「自己責任」とは、安倍政権が唱えているような国民の福祉等に対して実質上政府を免責する方便としての意味ではなく、市民一人ひとりの自主的判断と主体的努力を尊重し、協同組合の発展に対し組合員一人一人が責任を負うことを意味している。

(5)いわゆる民主経営論からの批判

(有田光雄著「民主経営の管理と労働」p51~58、「非営利組織と民主経営論」p35~37を参考にしている)

 日本においては、非営利・協同論以前に、いわゆる民主経営を巡る議論が存在していた。この立場から、非営利・協同論に対する批判を行ったのが、有田光男氏である。
 まず、有田氏は民主経営の条件として、以下4点を挙げた。

「民主経営の条件
 1、「資本」の集団的・民主的協同所有
 2、民主的・科学的な羅針盤(目標)
 3、科学的な管理と民主的な運営
 4、階級的・民主的な労働組合 」

 ここでいう1、3、については、字句通りであまり説明は必要ないと思われるが、2、4、につき若干解説する。

2、民主的・科学的な羅針盤(目標)
 ここでいう民主的とは、営利を追求せず、経済民主主義の実現に寄与するという意義であり、科学的とはその活動による社会改革の法則的な方向を指し示すということと思われる。つまり、民主経営は、その目標として、非営利かつ経済的な民主主義を志向し、それを通じての社会改革を展望する、といったことと理解される。

4、階級的・民主的な労働組合
 日本における労働者協同組合について、労働者が協同組合の所有者であり原理的にいわゆる労使対立が生じないことを理由に、協同組合内では労働組合は不要であることを唱える議論が存在する。これに対する有田氏からの批判であり、例え民主経営であっても、経営とは別個に労働者としての固有の要求は存在し、それに基づく労働組合が必要との立場を明らかにしている。 

 次に、有田氏は、富沢賢治氏が述べた非営利・協同の特徴点(開放性、自律性、民主制、非営利性)についての批判を行っている。
 第一に、この特徴点だけでは、政党、教会、労働組合なども含まれてしまい、無限定であるとの批判である。
 第二に、生産手段の所有関係が明確でなく、誰が所有しているかという観点が欠落しているという批判である。
 第三に、非営利・協同の運動も階級闘争の一環であり、労働者階級の存在と役割が欠落しているという批判である。

これらの批判点については、次の私見の中で意見を述べる。

(6)私見

 当事務所の創立者であった故坂根利幸氏は、非営利・協同総合研究所いのちとくらしの発足にあたって執筆した論文「市場経済と非営利・協同(研究所報2002/10/13)」の中で、非営利・協同の意義について、4点にわたって述べている。ここでは、それを紹介した上で、前述の議論に関する私見を述べたい。

a 営利と非営利

 「医療法人も生活協同組合も、事業協同組合も、民法34条公益法人も、社会福祉法人も労働組合も、そして近時設立相次ぐNPO法人もみな、その規制する法律で営利目的を否定されている。---。すなわちこれらの法人の行う事業活動は営利目的ではなく、非営利の目的であるとされている。---。利益追求は非営利の法人または活動の目的達成のための「手段」と見ることができる。」

 坂根氏は、非営利・協同組織について、その事業活動目的が営利ではなく非営利であることを第一にあげている。富沢氏が「非営利性(社会的目的の実現)」をその特徴としてあげ、ヨーロッパでの社会的経済に関する定義や原則が「人間への奉仕を目的とする(社会的経済憲章)」「資本よりも人間を優先させる(ECにおける3か年行動計画)」と述べていることと同様の趣旨である。
 ただし、坂根氏は、非営利・協同組織が利益追求することを否定してはいない。「否営利」ではなく「非営利」であるとして、非営利の目的の達成のための手段として、言い換えれば、非営利・協同組織が継続的に非営利目的の事業活動を遂行するための基盤として適切な利益の確保を求めており、非営利・協同組織が倒産するような事態を招くようなことを戒めている。この点は、実践的な課題として重要と考える。
 なお、有田氏は、その民主経営論の立場から行っている批判の中で「非営利・協同組織の無限定性」として、非営利というだけでは政党、教会、労働組合も含まれてしまうと述べている。確かに、アメリカでの非営利組織の議論では、そうした団体も含めているようである。しかし、ヨーロッパや日本では、ボランティア組織を含めて一般に事業活動(継続的な経済活動)を行う組織をその対象としており、教会や労働組合が教育機関、病院、共済組織等の非営利・協同組織の設立母体となっている事例は数多くみられるとしても、教会等自体を非営利・協同組織としてとらえているわけではないと思われる。

b 非営利組織の所有と配当

 「所有という形式がないか(財団または社会福祉法人)、---文字通り多数の人々の「非営利の資金」の出資などのように、民間営利企業の所有という概念とは明らかに異なる所有形態をその組織実態としている。」
 「なるべく少額均等、多数の人々の利益追求目的ではない資金の協同であり原則として配当はしない。」

 坂根氏は、非営利・協同組織の所有関係につき、所有という形式がない組織を含めて、多数の人々の共同所有であるべきことを強調した。そのことは、非営利・協同組織の意思決定が特定者によることなく、働く労働者、生産者、利用者等の集団的協議によるべきことを意味し、さらに株式配当のように出資者に利益還元することを原則として禁止し、せいぜい金利程度にとどめるべきという主張につながる。
 この点につき、富沢氏は「民主制(一人一票性を原則とした民主主義と参加)」という特徴点として説明しているように思われる。また、ヨーロッパの社会的経済論では「すべての組合員が生産手段の所有者(社会的経済憲章)」「剰余金は企業の発展と組合員へのより良いサービスにのみ用いられる(社会的経済憲章)」「民主的運営(ECにおける3か年行動計画)」と述べていることに関連してくるであろう。しかし、これに対し、有田氏は、「生産手段の所有関係が明確でなく、所有者の観点が欠落している」と批判している。
 マルクスは、非営利・協同組織の一員である19世紀当時の協同組合を高く評価したが、その理由として、生産活動において資本家が不要であることを示す組織であること、資本主義変革の諸力の一つであり変化の可能性を実際に示すこと、をあげている。(当ホームページ掲載の「現代社会での非営利・協同事業組織の存在意義」を参照されたい。)ここで資本主義とは生産手段の私的所有を基礎とした社会を、資本家とは生産手段の私的所有者を意味しており、マルクスが協同組合を生産手段を私的に所有していない組織、労働者をはじめとした集団的共同所有による組織としてとらえていたことは明白である。マルクスは、資本家がいない組織だからこそ、協同組合を高く評価し、社会変革をもたらす組織と位置付けたのである。
 私も、非営利・協同組織について、現代資本主義社会のオルタナティブ(新しい選択肢)としてとらえる観点から、その所有のあり方については集団的共同所有であること、少なくとも一部特定者による所有関係を発生させないことは、非常に重要と考える。実際の経験でも、非営利・協同組織の内部において、その所有関係が不明確であったが故に、組織内の不団結を生んだ事例は散見されるし、特定者による恣意的運営により非営利・協同組織から転落するような事態もありうると考える。現在の非営利・協同論について、有田氏のいうように必ずしも「所有者の観点が欠落している」訳ではないと思うが、この点をより明確にしていく方向が適切と考える。非営利・協同の議論、非営利・協同組織の実践の中で、そうした方向に進んでいくことを願っている。

c 「協同」の意義と本質

 「非営利組織だから非営利・協同であるとはいえない。」
 「当該非営利組織の基本構成員らの間での協力・協同、事業にかかわる役職員・労働組合等の間での協力・協同、当該組織のサポーターとの協力・協同、そして他の非営利・協同組織らとの協力・協同、さらには組織の位置する地域住民らとの協力・協同、これらの「協同」を積極果敢に追及するという意義である。」

 坂根氏は、出資社員等の組織の基本構成員、役職員、労働組合、サポーター、さらには地域住民との協同という意義であること、また、必ずしも完成形ではなく、目指すべき目標としてあることを主張している。
 この点につき、富沢氏は「民主性(民主主義と参加という価値に基づき運営される」と述べ、ヨーロッパでは「個人と集団の向上を目指して、社会の調和ある発展に参加する(社会的経済憲章)」「自立とシチズンシップという価値を重視する(ECにおける3か年行動計画)」と述べている。
 また、坂根氏は、非営利と協同との関係について、「あいだの・が重要である」と述べていた。非営利と協同とはその意義が異なることからそれぞれ区別して認識すべきであり、また、非営利と協同の両方の意義を備えている、あるいは、目標として追求していることが「非営利・協同」の要件であると考えていたと思われる。非営利と協同との関係については、「非営利もしくは協同」という理解から「非営利かつ協同」という理解まで幅がありうるが、私見では、「非営利かつ協同」の立場をとる。非営利のみあるいは協同のみといった組織は、短期的にはありうるとしても中長期的には成り立たず、存続できないか営利(非協同)組織に変質あるいは従属せざるを得なくなると考えるからである。
 ところで、坂根氏は、スペインのモンドラゴン労働者協同組合グループに注目し何度も視察調査に訪れたが、その注目点の一つが「労働の優越」であった。同グループ内の「エロスキ」という消費生協では、職員労働者が出資金、総代会議決権、理事構成の1/2をもち、圧倒的多数の利用者は残りの1/2を持つにすぎない。この点で、協同の中でも、そこで働く労働者との協同を最も重視していたのではないかと考える。
 有田氏は、非営利・協同論への批判として「労働者階級の存在と役割が欠落している」と述べているが、現代資本主義社会が世界的大企業や大富豪に牛耳られ、労働者だけでなくその他の生産者、中小企業、消費者、地域住民、発展途上国等にその被害が及んでいる中で、その変革を求める主体として労働者階級のみにそれを求めるのはいささか偏狭と思われ、理論的にも「ウイングを広げていく」ことは重要と考える。ただし、協同すべき主体の中で「労働の優越」を適切に位置づけることは、非営利・協同論の中での重要な探求課題ではないかと考える。

d 非営利・協同と管理

 「非営利・協同の組織では、---民主的管理運営を徹底して追求し、集団的指導部の形成とリーダーシップの発揮、職場を基礎としての民主的すなわち自主的、創造的、連帯的管理に徹することとなる。」

 坂根氏は、会計士としての実践、実務を通じて、非営利・協同組織での管理に注目し、非営利・協同組織であってもその組織の発展、適切な運営のためには管理が必要であること、ただし、営利組織のトップダウン型管理とは異なり、民主的管理を目指すべきことを主張した。
 我々協働は、会計士、税理士の集団として、非営利・協同組織の適切な管理に対する支援を行っている。非営利・協同組織は現時点で必ずしも十分な到達にあるとは言えず、逆にトップダウンではないことの弱点が表面化する事例も数多いが、職員が自分が働く職場を基礎にして自主管理を行う仕組み=全職員参加型の管理システムの構築が、非営利・協同組織における重要なキーワードだと考えている。今後創造的な取り組みとして発展していくことを期待する。

根本 守

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