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非営利事業体における消費税計算上の不利益

 2014年4月1日から消費税率が8%に引き上げられた。その後、政府は2015年に10月に消費税率を10%に引き上げる予定を2017年4月に延期し、更に2019年10月へと延期したことは皆さんの記憶に新しいところだろう。消費税率の引き上げは、国民生活に大きな負担を強いるものであり、各界でも様々な議論のあるところである。
 ここでは、消費税の納税計算の仕組みは非営利事業体にとっても不利益が生じるものとなっていることに焦点をあてたいと思う。すなわち、消費税の増税は国民生活のみならず、非営利事業体の経営・財政の負担を増加するものであるということである。

1.消費税課税の仕組み

 消費税はその名称のとおり、消費者が最終的な負担者となる税金である。しかし、消費者がものを買う時にそのつど国等へ税金を納付するわけではない。事業者が、物品販売や役務提供をおこなった際に、その販売代金とともに消費税を預かることにより、事業者から国等へ消費税が納税される。ここで、事業者は売上に対する預かった消費税から、仕入や経費といった費用に対してかかった支払い消費税(一般的に「仮払消費税」という)を差し引いて納税をおこなうことになる。
 つまり、事業者は単に預かった消費税と支払った消費税の差額を税務署に申告し、納税するに過ぎず、税金の負担は最終的には消費者に転嫁されていくというのが基本的な仕組みとなっている。
 もちろん、これは理屈上の話であって、中小企業が消費税率アップ分を販売価格に上乗せできず、実質的にはこうした中小企業自身に負担増が強いられている点も消費税の矛盾として挙げられる。

2.消費税の課税対象取引とは?

 非営利事業体の消費税負担を考える前に、消費税の課税対象となる取引についてみておきたい。消費税の課税対象となるのは、日本国内において事業者が対価を得ておこなう「資産の譲渡等」である。「資産の譲渡等」とは、簡単にいうと物品販売や貸付、サービスの提供などのことを指している。ここでのポイントは、対価を得ておこなうものであるから、営利を目的としていない会費収入や寄附金などは消費税の課税対象とはならないという点である。
 したがって、消費税の判定をおこなううえでの第1段階は、課税の対象取引とそもそも課税対象とならない取引(=不課税取引)でまず大きく区別されることになる。

3.消費税の非課税取引と免税取引

 消費税の課税対象取引のなかには、非課税取引と免税取引がある。上記の不課税取引も含めて、この3つは実質的にいずれも消費税が課されないという点では共通である。消費税計算を複雑とさせる仕組みであり、実務上も非常にわかりにくい煩雑な制度となっている。
 まず、2でみたとおり、不課税取引はそもそも消費税の課税対象とはならない取引であるから、消費税が課されないのは当然のことである。一方で、非課税取引や免税取引は、本来的には消費税の課税対象とされる取引、すなわち「対価を得ておこなう資産の譲渡等」に該当するという点で大きく異なる。
 非課税取引とは、課税の対象となる取引ではあるが、政策的な配慮や消費という性格になじまないものを消費税法で限定列挙して課税しないこととされている取引のことをいう。前者の代表的なものは社会保険診療報酬や保険料(共済掛金も含む)収入が該当し、後者には土地の譲渡や貸付が該当する。これらの取引の内容をみてわかるとおり、いずれも対価を得てサービスの提供や資産の売買・貸付をおこなっているが、こうした限定列挙された取引は消費税が課されない非課税の扱いとなる。
 また、免税取引とは、基本的には輸出取引のことである。免税取引も、非課税取引と同様に消費税は課税されないのだが、事業者の納税額から控除できる消費税、つまり仕入等にかかる事業者が支払った消費税の取り扱いにつき、大きく異なっているのである。
 この非課税取引と免税取引の取り扱いの違いが、非営利事業体にとっては消費税の負担増加となり、逆に輸出大企業等にとっては非常に優遇された制度となっている根本的な要因であるといえる。

4.非営利事業体における消費税負担

1)非課税売上高に対する取り扱い

 消費税は、預かった消費税から支払った消費税を控除して納税するが、この支払った消費税のうち非課税売上に対応するものは控除できないこととされている。例えば、課税売上高が100、非課税売上高が900であったとすると、消費税の納税計算上は支払った消費税のうち90%が控除できないものとなる。では、この控除できない消費税を誰が負担するのかというと、それは事業者自身ということになるのである。
 これによる影響を大きく受けている代表的なものは医療機関である。社会保険診療にかかる消費税が非課税とされていることにより、当然ながら医療機関における収益の大部分は非課税売上高となる。したがって、費用にかかる支払った消費税の多くが消費税の納税計算において控除できず、医療機関自身が消費税を負担することになってしまうのである。規模にもよるが、数億円単位の消費税負担を強いられている医療機関も存在する。
 これについて、国は診療報酬上で消費税分を手当てしているという主張であるが、営利を目的としない非営利の医療機関の多くで経営的困難を抱えている状況に鑑みれば、こうした国の主張は正当性のないものといえる。消費税増税は、ほとんどの医療機関で消費税の負担が増大し、経営的にも深刻な事態に陥るおそれもある。また、これに対応して一定の診療報酬引き上げ議論があり、実際に2014年の増税時には一定の診療報酬の引き上げがあったが、患者の一部負担が必要な現状の保険診療制度では、それはそれで経済的に困難な患者への負担を強いる点で大きな問題がある。
 一方で、輸出大企業等における輸出取引は免税という扱いになっており、これはいわゆる「ゼロ税率」というものである。つまり、輸出売上に関しては0%の消費税が課税されているという考え方であり、非課税売上とは違い、支払った消費税は全額控除可能となる。この仕組みによって、輸出売上を中心とする大企業等には多額の消費税が還付されている現状がある。
 このように「医療は消費税非課税」という一見正当のようにみえる扱いも、医療機関や患者へ負担を強いる仕組みとなっているという点を注意深くみる必要がある。本当の意味で「非課税」といえるのは、免税=ゼロ税率が適用される場合のみであり、国民および非営利事業体の消費税負担を回避するためにも、少なくとも国民生活に必要な「医療」や「住まい」などは免税取引へと改めることが求められる。

2)不課税取引に対する取り扱い

 非課税売上以外にも、非営利事業体自身が消費税の最終負担者となる仕組みが存在する。それが「特定収入」という仕組みである。
 特定収入とは、消費税の課税対象外である寄附金や会費、補助金といった一定の不課税収入のことをいう。本来、これらは不課税なのであるから、消費税計算においてはまったく関係ない事項のように思われる。しかし、不合理なことに非課税売上の考え方と基本的には同様で、こうした特定収入に対応する支払い消費税は納税計算上控除できないものとされているのである。なお、実務上の具体的な計算方法は、当事務所ホームページの「消費税法別表第三に掲げる法人及び人格のない社団等に対する消費税の特例(リンクを貼る)」を参照していただきたい。
 この計算が必要となるのは、法人格のない団体および公益法人や社会福祉法人、労働組合などであり、NPO法人などもこれに該当する法人とみなされる。つまり、ほとんどの非営利事業体の組織形態がこれに該当することになるというわけである。
 こうした非営利の組織では、直接的に営利を目的としているわけではないため、収益事業等の収益だけでは財政基盤がつくれず、寄附金や会費などの収入により活動の財源を確保していることが一般的である。したがって、こうした特定収入に対応する消費税が控除できないとなれば、非課税売上でみたのと同様に、非営利事業体自身が消費税を負担することになるということである。この制度も、非営利事業体に対する消費税負担を重くするものであるといえる。

 以上のように非営利事業体は、「事業者」であるにも関わらず、自らが消費税の最終負担者となってしまうという矛盾が現行制度にはある。確かに、非営利事業体の多くは消費税の課税対象となる収入そのものが多額ではないため、消費税の申告・納税義務が免除される免税事業者であったり、上記のような調整計算が不要となる簡易課税の適用を受ける組織が多いと考えられる。
 しかし、制度上はこうした矛盾があることが明らかであり、消費税は圧倒的多数の国民や営利を目的としていない非営利事業体に対して負担を強いるものとなっている。
 税金の使いみちをしっかりと見直すと同時に、こうした消費税の制度上の矛盾の解消を求め、国民や非営利事業体に負担を強いる消費税の増税撤回・廃止の世論を大きく広げていくことが非常に重要となっている。

 

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