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収支相償基準の検討課題
1.概要公益法人制度は、2008年12月に施行され、2013年11月に旧制度からの移行期間が終了し、本格的な運用がはじまって、早や8年が経過したところである。この間、公益認定等委員会の下で公益法人の会計に関する研究会が開催され、「公益法人の会計に関する諸課題の検討」がなされ、一定の見直し検討がされたものの、収支相償基準については、会計理論上の根本的な矛盾が存在し、かつ、実務上、当該基準が桎梏となるケースもあり得るため、再検討(もしくは、個別の事情を勘案して総合的に判断するという視点)が必要であるとの見解を示すものである。 2.収支相償基準とは 収支相償とは、公益目的事業について、「事業に係る収入はその事業に要する適正な費用を償う額を超えない」(公益認定法5条6号)とするものであり、換言すれば収支トントンということである。 3.収支相償の計算(判定) 収支相償の計算においては、原則として事業年度毎に収支が均衡することが求められるが、そもそも事業は年度により収支に変動があり、また長期的な視野に立った事業運営が求められるため、ある事業年度で収入過剰になった(剰余金が発生した)場合でも、公益目的事業拡充等に充てるための特定費用準備資金として計画的に積み立てる等で、中長期的に収支が均衡することが確認されれば、収支相償の基準は充たすものと判断される。 4.個別の事情について上述の(4)その他、個別の事情については、各公益法人の特殊事情や事業概況及び経営状況を総合的に勘案して、事業継続に支障が出ることがないよう柔軟に判断されるべきと考えるが、FAQV-2-(5)の但書には、「基本的に、過去に生じた赤字の補てん、借入金の返済等については、剰余金の解消方策として認められません。」とあり、この記載が実務上の障害になりかねない。以下に事例を挙げながら問題点等を説明をする。 5.事例1 そもそも、収支相償は正味財産増減計算書を基に計算し、損益上の均衡であり資金繰り上の均衡ではないため、減価償却費などの非資金費用の自己金融効果(減価償却費などの非資金費用は支出を伴わない費用であり、資金の流出がなくその分だけ手元に資金が残る効果のこと)だけでは、借入金の返済が賄えず、資金繰りが悪化するケースがあり、公益法人の存続基盤が危ぶまれる可能性がありうる。 (事例)公益目的事業に必要な建物(病院)を銀行借入で取得した
(耐用年数に見合った返済期間にした場合:非現実的)
(現実的な返済期間にした場合)
(収入を増やさない限り資金繰りが成り立たない)
↓ 6.事例2 剰余金が発生した翌年度(あるいは翌々年度)に損失が発生する見込みがある場合には、適切な説明を施したうえで、剰余金を繰り越すことが認められている。すなわち、黒字が先に出て後で赤字が出る場合には、赤字の補てんが容認されているのである。他方、赤字が先に出て後で黒字が出る場合には、過去の赤字の補てんは認めないとされている。同じ赤字の補てんであり、中期的に収支相償を充たしているのであれば、後先関係なく認めるべきであり、過去の赤字の補てんは認めないとするのは、論理薄弱である。 7.まとめ 公益認定等ガイドラインでは、「事業の性質上特に必要がある場合には、個別の事情について案件毎に判断する」とされており、FAQにおいて具体的な方策を例示しているが、事例検討したように、FAQの「基本的に、過去に生じた赤字の補てん、借入金の返済等については、剰余金の解消方策として認められません。」を形式的に捉えるのは適切ではなく、あくまでも「個別の事情」を総合的に勘案して判断されるべきである。 公認会計士 田中淑寛
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