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社会福祉法人の会計監査と専門家による支援等について

 2017年4月1日より(一部は2016年4月1日より)施行された新社会福祉法においては「経営組織のガバナンスの強化」や「事業運営の透明性の向上」、「財務規律の強化」等が前面に打ち出され、評議員会が必置となる等全国の社会福祉法人で一定の対応を要している。
 この新社会福祉法の制定過程においては、「非営利」に対する十分な理解がなされぬまま議論が進められた側面や、一部根拠の不明瞭な主張が展開された側面が認められるものである。また、その内容についても相当な事務的・経済的負担を社会福祉法人に強いるものであると考えられる。
 本稿では上記「経営組織のガバナンスの強化」に位置づけられた「一定規模以上の法人への会計監査人の導入」について、厚生労働省より2017年4月27日に公開された「会計監査及び専門家による支援等について」を中心に据え、制定の背景もふまえつつ批判的に概略を述べる。

1.社会福祉法人制度の概略と「改正」の背景

 1951年に社会福祉法人制度は創設される。その主要な役割は、「措置制度」(行政が利用者の使う事業者を指定する制度)を担う公共的な性格を有する法人として機能することであった。しかし、1970年代後半以降、人口構造の高齢化、家族や地域社会の変容が進むにつれて多様化する福祉ニーズへの対応が重要な政策課題となっていく。
 そのような中、2000年には介護保険法が施行され、サービス利用の仕組が「措置から契約」へと転換された。これにより株式会社やNPOなどの多様な供給主体が介護・福祉分野へと参入してくることとなった。これに伴って起こったのが、いわゆる「イコールフッティング」の考え方である。すなわち、「さまざまな事業者が利用者の立場に立ってサービスの質や多様性を競い、豊富な福祉サービスが提供されるよう、経営主体間のイコールフッティング(条件の同一化)を確立すべきである」という考え方であり、具体的には株式会社等の参入規制や社会福祉法人への補助金・税制上の優遇措置を問題視したのである。
 この動きが2001年4月から2006年9月まで続く小泉政権の時代と合致することは言わずもがなである。「出資持分なし」・「剰余金の配当禁止」を基本理念とする「非営利」と「営利」の相違についての十分な議論・理解が得られないままに、社会福祉法人を新自由主義に基づく市場経済に放り込むための議論が進められたのである。
 また、特に2011年以降、いわゆる「内部留保問題」を契機として社会福祉法人へのバッシングがおこる。「黒字をためこみすぎ」、「貸借の一致しない財務諸表が多い」、「情報公開が不十分」等の根拠が不明確で一方的かつ政治的な指摘が国会議論の中で取り上げられたのである(一部の社会福祉法人の不正事例が過熱気味に報道されたことも、こうした議論に拍車をかけることとなった)。
 我々の関与する社会福祉法人にとっての累積剰余金は、現在と将来の施設建設のためのものであって、余裕資金とは全く異なるものであり、こうした指摘は当たらないものである。この点は過去に当HPでも解説しているところであり(社会福祉法人は「利益」をため込みすぎているのか?)、参照されたい。
 以上、今回の社会福祉法人への締め付けの背景にはこうした不十分な議論や誤った主張があることをまずは指摘しておく。

2.会計監査および専門家の支援について

(1) 会計監査
 社会福祉法人の会計監査については、「会計監査人による監査」と「会計監査人による監査に準ずる監査」が規定されているが、両者の違いは「会計監査人を設置しているか否か」のみであり、監査対象となる計算関係書類等や、公認会計士または監査法人から「独立監査人の監査報告書」、「監査実施概要及び監査結果の説明書」を入手しなければならない点に相違はない。
 ここで、「会計監査人による監査」は「会計監査人設置義務を負う法人においておこなわれる会計監査」、または「定款の定めにより会計監査人を設置しておこなわれる会計監査」をいう。会計監査人の設置義務については、以下の通り段階的に範囲を拡大していくことが予定されている。

・2017年度、2018年度は、収益30億円を超える法人又は負債60億円を超える法人
・2019年度、2020年度は、収益20億円を超える法人又は負債40億円を超える法人
・2021年度以降は、収益10億円を超える法人又は負債20億円を超える法人

 ただし、段階施行の具体的な時期及び基準については、2017年度以降の会計監査の実施状況等を踏まえ、必要に応じて見直しを検討することとされている。

(2) 専門家による支援
 上記の「会計監査」のほかに「専門家による支援」が新たに位置づけられた。
 「専門家による支援」は、「会計監査を受けない場合において、法人の事業規模や財務会計に係る事務体制等に即して、必要に応じて行われるものであり、毎年度、財務会計に関する内部統制の向上に対する支援(※1)又は財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援(※2)を受けるものである」とされている。会計監査を受けない法人においては、専門家による支援を活用することが望ましいこととされ、特に上述の監査人設置義務の段階的な拡大により将来的に会計監査人設置義務法人となることが見込まれる法人(収益10億円超又は負債20億円超)が実施することが望まれるとされている。

※1 実施主体は公認会計士又は監査法人
※2 実施主体は公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人

3.指導監査と会計監査・専門家による支援との関係

 指導監査と会計監査・専門家による支援との関係として、以下の通り所轄庁のおこなう指導監査のうち一般監査の実施周期の延長および指導監査事項の省略を受けられる点があげられる。

(1) 一般監査の実施周期の延長
 「社会福祉法人指導監査実施要項」によれば、所轄庁における指導監査は「一般監査」(原則として3年に一度実施する)と「特別監査」(重大な問題を有する法人を対象に随時実施する)にわけられ、このうちの「一般監査」の周期を以下のように延長できる、というものである。

・会計監査を受け、会計監査報告に「無限定適正意見」又は「除外事項を付した限定付適正意見」(除外事項について改善されたことが確認できる場合に限る)が記載されている場合
 →5年に一度
・会計監査に準ずる監査を受け、会計監査報告に「無限定適正意見」又は「除外事項を付した限定付適正意見」(除外事項について改善されたことが確認できる場合に限る)が記載されている場合
 →5年に一度
・専門家による支援を受け、一定の書類の提出をうけた場合
→4年に一度

(2) 指導監査事項の省略
 会計監査人を設置している法人および会計監査人による監査に準ずる監査を実施している法人、専門家による支援を受けている法人については、指導監査事項のうち「会計管理」に掲げる監査事項を省略することができる。また、「組織運営」に関する監査事項に関しては、会計監査や専門家による支援を踏まえて作成する書類を活用し、効率的に実施することとされている。

4.実務的な対応

 会計監査については、日本公認会計士協会がまとめた「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」において、「一般目的の財務報告の枠組みであり、適正表示の枠組みである」ことが明示されている。適正性監査と準拠性監査について詳しくは本ホームページQ&A「適正性監査と準拠性監査について」を参照されたいが、結論だけをいえば、監査意見の形成にあたり、適用される財務諸表の枠組みにおいて要求される表示に関する規定が順守されていることのみならず、財務諸表が適正に表示されているかの俯瞰的な評価を必要とする、いわば上場企業の監査と同様の枠組みによる監査であるということである。
 また、専門家による支援についても、「財務会計に関する内部統制に対する支援項目リスト」および「財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援項目リスト」に挙げられた項目は以下に示す通り非常に多岐細目にわたっており、その一つ一つに対応していくためには相当な事務的・経済的負担を要するものと思われる。

<財務会計に関する内部統制に対する支援項目リスト>(抜粋)

法人全般の統制
1-1ガバナンス体制について(理事会、評議員会、監事等)
○支援の視点
□定款の作成・変更手続について
□内部管理体制の整備状況について
□評議員及び評議員会について
・評議員の選任手続について
・評議員会の開催(招集手続、出席状況、決議(定足数の充足等)、開催頻度、議事録の作成、等)について
□理事及び理事会について
・理事の選任手続について
・理事会の開催(招集手続、出席状況、決議(定足数の充足等)、開催頻度、議事録の作成、等)について
□監事及び監事監査について
・監事の選任手続について
・監事の監査実施概要について
・監事と内部監査人との連携状況について
□役員及び評議員に対する報酬等の決定手続について
□理事長・施設長による会議の開催(位置づけ、会議規程の有無、構成員、開催頻度、招集手続、会議と決裁の手順、議事録の作成、等)について
□法人本部機能運営(法人本部設置の有無、役割、本部の職務分掌・職務権限等)について
□その他(業務実施者が必要と認めた事項)

1-2各種規程・業務手順書の整備について
(中略)
1-11情報公開

各種事業の統制
2-1収益認識
(中略)
2-6在庫管理

決算の統制
3-1決算・財務報告に関する規定の整備
(中略)
3-7内部取引の把握と相殺消去

<財務会計に関する事務処理体制に係る支援項目リスト>
1予算
(中略)
25社会福祉法人会計基準で示されていない会計処理の方法がおこなわれている場合の妥当性

5.まとめ

 先述の通り、今回の社会福祉法の「改正」は、「非営利」分野に対する露骨な「新自由主義」の導入のひとつのあらわれである。「経営組織のガバナンスの強化」や「事業運営の透明性の向上」、「財務規律の強化」等については本来的には行政が責任を持って推進していくべき事柄であり、社会福祉法人制度の歴史からしても社会福祉法人自らの経営資源(ヒト・モノ・カネ)をもってこれを賄わせることは本質的に誤っているものであると考える。仮に会計監査や専門家による支援を受けることとなった場合には、単なる形式的なチェックとしてとらえるのではなく、実務の実りある改善へと結び付けていく必要があろう。
 当面の制度への対応は考慮しつつも、「非営利・協同」の組織を守るためのたたかいを引き続き強めていく必要を感じる次第である。

(参考資料)
会計監査及び専門家による支援等について(厚生労働省)
社会福祉法人指導監査実施要項の制定について(厚生労働省)
社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例(日本公認会計士協会)


(田岡 歩)

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