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出向(=在籍出向)と転籍(=移籍出向)

 世間一般にも出向という言葉は広く知られており、私どもが関与するクライアントにおいても人事交流等、出向を積極的に活用している。ただし、出向には注意すべき法的規制も存在し、また、転籍や労働者派遣等混同しやすい契約も存在する。そこで、今回は出向に関し他の契約と比較しつ概要をまとめる。

1.出向(=在籍出向)と転籍(=移籍出向)の意義

 出向は大きく分類すると、在籍出向と転籍(=移籍出向)に分けられる。以下、本文においては「在籍出向」を「出向」、「移籍出向」を「転籍」と表現する。
 出向とは一般的に、「命令により、自社の使用人の身分上の地位・雇用関係を継続(具体的には休職)したまま、相当期間にわたって他の企業(主に子会社・関連会社等)に派遣し、その企業の指揮命令の下に業務に従事させること」をいう。出向する労働者は出向元及び出向先双方との間に労働契約関係を結び、二重の労働契約関係が生じることとなる。
 一方で転籍とは、「会社との労働契約関係を解消し、新たに他の会社との間で労働契約を締結させること」をいう。転籍元との労働契約関係を終了させる点で、出向とは大きく異なる。転籍元との労働契約関係は終了し、転籍先との間にのみ労働契約関係が生じる。
 ポイントは、労働契約関係が出向(転籍)元との間で存在しているかである。

2.出向と労働者派遣、労働者供給との関係

 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してすることを含まないもの」をいう。
 出向は、労働者を出向先に雇用させることを約しておこなわれており、労働者派遣に該当しない。該当の有無の判断は、出向、派遣の名目にとらわれることなく出向先と労働者との間の実態によりおこなわれる。
 また、出向の形態は労働者供給に該当するため、出向が「業としておこなわれる」(※1)と、職業安定法第44条(※2)に違反し労働供給者事業に該当する場合があるため注意が必要である。ただし、以下のような目的をもっておこなわれる出向については、「業としておこなわれる」と判断されるものは少ないと考えられる。

(1)企業グループ内の人事交流の一環としておこなう
・出向先との結びつきを深める
・経営の多角化の一貫として新会社を設立したため
(2)経営指導、技術指導の実施
・出向先の経営指導や技術指導のため
(3)労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
・自社の役職ポスト不足を防ぐため
・賃金負担を軽減するため
・定年後の雇用機会を提供するため
・不況による雇用調整のため
(4)職業能力開発の一環としておこなう
・出向によって本人の能力を向上させるため

3.給与の取扱い

 出向する労働者への給与の支払いに際し、出向元・出向先のいずれかもしくは両者で分担して給与を支払うかは出向元・出向先・出向する労働者の三者間で原則として取り決めることとなり、給与を含む労働条件について出向する労働者に説明する。どちらが実際に支給するのかは流動的であるが、出向は前述のとおり二重の雇用関係が生じるため、出向元と出向先の双方で労働者名簿及び賃金台帳を作成・保管する必要があり、また出向する労働者の給与をどう負担するかは税務上も問題が生じうる。
 出向する労働者に対する給与は、原則として役務提供を受けている出向先が負担すべきものと考えられ、出向先で全額負担していれば問題は生じないが、一部を出向元が負担するような場合には、負担割合に合理性が認められない限りは出向元から出向先への経済的利益の供与として出向元で寄付金の損金算入限度額の計算の対象となる。
 また、出向元が給与を支給しているが出向先が出向元に対し、出向する労働者に支払われている給与以上の負担金を支出しているような場合、その超過額(給与負担金として相当と認められる金額を超える部分)については、合理的な理由の有無により取扱いが異なる。出向者が特殊な技術等を有し出向先での技術指導に当たる等、合理的な理由が存在すれば出向先での損金とし、合理的な理由が認められない場合には寄付金の損金算入限度額の計算対象となる。

※1 「業としておこなう」の意義(昭和61年労働省告示第37号)
(1) 「業としておこなわれる」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意思をもっておこなえば事業性があるが、形式的に繰り返しおこなわれていたとしても、すべて受動的、偶発的行為が継続した結果であって反復継続の意思をもっておこなわれていなければ、事業性は認められない。
(2) 具体的には、一定の目的と計画に基づいて経営する経済的活動としておこなわれるか否かによって判断され、必ずしも営利を目的とする場合に限らず(例えば、社会事業団体や宗教団体がおこなう継続的活動も「事業」に該当することがある。)、また、他の事業と兼業しておこなわれるか否かを問わない。
(3) しかしながら、この判断も一般的な社会通念に則して個別のケースごとにおこなわれるものであり、営利を目的とするか否か、事業としての独立性があるか否かが反復継続の意思の判定の上で重要な要素となる。例えば、?労働者の派遣をおこなう旨宣伝、広告をしている場合、?店を構え、労働者派遣事業をおこなう旨看板を掲げている場合等については、原則として、事業性ありと判断されるものであること。

※2
(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

(労働者供給事業の許可)
第四十五条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。

(奥村 雄一郎)
 

 

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