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「持分なし医療法人」への移行
2006年の医療法改定以降、いわゆる「持分あり医療法人」は新設できないこととされた。ただし、それ以前に設立された医療法人では、いまだに出資持分のある医療法人が多く存在しているのが実情である。
厚生労働省は、経営安定性や事業継続性の問題から「持分なし医療法人」への移行を促進しており、2014年10月1日より3年間の期限を設け、「持分なし医療法人」への移行計画認定制度が導入したが、税制上の課題等もあり、移行はほとんど進んでいない。
2017年9月30日をもって当該期間は終了したが、事実上この認定制度は延長されることになり、要件もさらに緩和されている。今回は、2017年10月1日以降の取り扱いにつき、解説をおこないたい。
1.「持分あり医療法人」とは
社団医療法人のうち、定款で出資持分に関する定めをおいている医療法人のことをいう。一般的には、(1)社員の退社にともなう出資持分の払戻し、(2)医療法人の解散にともなう残余財産の分配に関する定めが該当する。つまり、医療法人であっても株式会社などと同様に出資した者が出資額に応じて財産権を有するということを意味しており、出資者の持分割合に相当する財産の払戻請求や解散時の残余財産の分配請求として行使されるのが典型例である。
出資持分は、定款の定めに反しない限り譲渡することも認められ、贈与税や相続税の課税対象ともなり得る。なお、医療法人の出資持分は、株式とは異なり、社員の地位と結合した概念ではない。
2.「持分なし医療法人」移行のための制度変遷等
(1)2014年10月1日以前
認定制度が設けられる以前は、一定の要件を満たさない限り、「持分なし医療法人」へ移行するためには贈与税を支払う必要があった。これは、相続税法第66条第4項、同施行令第33条3項の規定にもとづくものであり、医療法人を個人とみなして贈与税を課税するというものである。簡単にいえば、出資者が出資持分を放棄することで法人が経済的利益を得たのであるから、法人が当該利益に対する贈与税を負担すべきという、極めて矛盾した考え方によるものである。
また、これを回避するための一定要件について、理事や理事会等に関する厳格な定めなど法人運営の透明性確保についてのクリアは容易であったが、規模要件(医療計画への記載や病床数などの定め)は多くの小規模な診療所法人等においてはクリアすることが困難であった。
よって、厚生労働省が促進しても、わざわざ多額の贈与税を負担してまで「持分なし医療法人」へ移行する法人はほとんどないのが実情であった。
(2)移行計画の認定制度導入後 (2014年10月1日~2017年9月30日)
認定制度は、医療法人が「持分なし医療法人」への移行計画を策定・申請し、厚生労働省の認定を受けることで、移行計画期間中(最大3年間)は、出資者にかかる相続税や出資者間の贈与税の納税を猶予する制度である。また、計画認定から3年以内に実際に出資持分を放棄すれば、猶予された税額は免除されることになっており、これによって「持分なし医療法人」への移行を促進しようとする狙いである。
ただし、(1)でみた相続税法第66条第4項の規定による医療法人自体への贈与税課税の問題は残り、上記で述べた規模要件などの一定要件(解釈通知の非課税基準)にもとづく税務署の個別判断とされたことから、医療法人への贈与税は回避されず、やはり「持分なし医療法人」への移行は進まなかった。
(3)2017年10月1日以降の認定制度
基本的には、従前の認定制度が延長されたものであるため、「持分なし医療法人」への移行計画の策定・申請や厚生労働省の認定といった手続きは2017年10月以降も同様である。
一方で、移行に関して障害になっていた医療法人への贈与税課税について、以下のような法人運営が適正であることを要件に追加し、移行後も6年間に渡り要件を維持することで贈与税を非課税にするというものである。実質的な要件の緩和であり、非課税対象は大幅に拡大されるものと考えられる。
【主な運営の適正性要件】
・法人関係者に利益供与しないこと
・役員報酬について不当に高額にならないよう定めていること
・社会保険診療に係る収入が全体の80%以上 等
※医療計画への記載や役員数・親族要件などが削除され、要件が緩和された。
ただし、民間の医療機関の実態を考えれば、まだまだ「オーナー」型医療法人が圧倒的多数であり、厚生労働省等が意図するような「持分なし医療法人」への移行がどこまで進むかは甚だ疑問である。
一方で、私どもが関与するような非営利・協同をめざす医療法人を考えれば、所有持分の存在しない「持分なし医療法人」への変更を検討していくことが望まれる。こうした医療法人は、法人運営の透明性や適正性には問題ないと考えられるため、「医療計画への記載」等が削除された新要件は充分にクリア可能なものである。この制度を活用し、「持分なし医療法人」移行の検討や具体的手続きをぜひ進めていただきたい。
(公認会計士 千葉啓)