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収益認識に関する会計基準

 2018年3月、企業会計基準委員会から「収益認識に関する会計基準」が公表されました。従来、日本では企業会計原則の損益計算書原則に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準はありませんでした。国際会計基準や米国会計基準ではきっちりと明文化されており、日本でも数年がかりで策定されたものです。我々の関与先である非営利・協同の事業組織においては基本的に対象となることは想定されませんが、その内容を簡単に紹介したいと思います。詳細な内容は当該会計基準(以下、「会計基準」という。)や「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という。)を御確認ください。

 

1.適用範囲

 顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます。強制適用となるのは上場企業・会社法上の大会社等であり、中小企業等については任意適用となっています。

 

2.会計処理

 基本となる原則として、「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益の認識を行うことと」とされています。この基本原則に従って収益を認識するために、以下の5つのステップを適用します。

(1)契約の識別

(2)履行義務の識別

(3)取引価格の算定

(4)履行義務への取引価格の配分

(5)履行義務の充足による収益の認識

 大まかにまとめると、(1)と(2)で収益認識の単位を決定し、(3)と(4)で収益の計上金額を決め、(5)で収益をいつ・どのように計上するのかを決定するものです。ポイントとしては、「履行義務」が重要となると考えられます。「履行義務」とは上記原則でいうところの「財又はサービスの顧客へ移転する約束」のこととなります。

 

3.重要性等に関する代替的な取扱い

 会計基準の適用にあたり、一部の項目については従来行われてきた日本の実務等に配慮して、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いが認められています。詳細の記載は会計基準や適用指針を御確認ください。

 

4.ポイントの会計処理

 

 前述したように我々の関与する非営利・協同の事業組織において、今回の収益認識に関する会計基準が直接影響するものは考えにくいですが、例としてポイントの会計処理を考えてみます。

 従来、ポイントについては、将来交換されると見込まれる金額を引当金として計上する会計処理が一般的なものでした。しかし、今回の収益認識に関する会計基準では代替的な取扱等が設けられず、ポイント部分を履行義務として識別し、収益計上を繰り延べなければなりません。

 具体的な例で考えてみます。10,000円の商品を現金で売り上げて、100円分のポイントを付与したとします。従来は10,000円の売上げと、期末に100円分のポイントの内で過去の実績率等から将来利用されると合理的に見込まれる金額を引当金計上していました。

 これが今回の収益認識に関する会計基準ではどのように処理することとなるか5つのステップに沿って考えます。

(1)契約の識別

・10,000円の商品の販売

・100円分のポイントの付与 

(2)履行義務の識別

・10,000円の商品引き渡し

・ポイント使用時の商品引き渡し      

ポイントに関する履行義務も識別しなければなりません。

(3)取引価格の算定

・10,000円

(4)履行義務への取引価格の配分

取引価格10,000円を商品とポイントへ配分します。

商品「10,000×10,000/10,100=9,901円」

ポイント「100×10,000/10,100=99円」

(5)履行義務の充足による収益の認識

商品分9,901円については10,000円の商品引き渡し時に収益を認識しますが、ポイント分99円は契約負債として負債に計上します。その後ポイントの使用又は消滅時に収益を認識することとなります。

結果、会計処理としては

・商品売上時

現金 10,000 / 売上高 9,901

        契約負債  99

・ポイント使用時

契約負債 99 / 売上高   99

となります。

 なお、過去の実績率等からポイントの利用金額が見込まれる場合には、仮に70%だとすると上記の例では商品売上時に「10,000×10,000/10,070=9,930円」を売上高計上することとなります。

 このように、従来の処理とは大きく変わることとなりますので、該当する取引の存在する組織は事前に会計処理についてしっかりと理解しておくことが必要だと考えられます。

 

5.適用時期等

 収益認識に関する会計期君は原則として2021年4月1日以降に開始する事業年度の期首から適用します。また、早期適用については2018年4月1日以降に開始する事業年度から適用することが出来ます。

適用初年度については過去の期間の全てに遡及適用することとされており、一定の経過措置が設けられています。

なお、中小企業の会計処理については従来通り企業会計原則等による会計処理が認められています。

 

6.まとめ

 今回公表された収益認識に関する会計基準は企業会計原則に優先して適用される位置付けであり、履行義務という概念を用いて収益の計上単位や計上時期、計上金額を明確化しているものであり、国際財務報告基準(IFRS)で公表された「顧客との契約から生じる収益」に対応して日本で作られたものです。主に上場会社で国際財務報告基準の導入が進みつつある現状を踏まえると、中小企業等でもいずれ適用となることも十分に考えられます。「売上高」を重視するきらいのある日本においては株価に影響を与えかねないものであると考えられます。

 我々の関与する非営利・協同の事業組織である公益法人や医療法人、事業協同組合等では基本的に強制適用の対象外と考えられますが、今後様々な業種業態における本会計基準に応じた会計処理が明らかになってくると考えられ、その動向を注視していきたいと思います。

以上

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