レポート > 税 務
住民税の特別徴収
6月は個人住民税の税額通知が届き、新しい年度の住民税の納付が始まる月です。個人住民税は都道府県民税と市町村民税を合わせたものであり、地方税法に基づいてその年の1月1日現在で居住している市町村において課税される税金です。その徴収方法には普通徴収と特別徴収がありますが、近年各地の自治体において特別徴収を徹底する施策が進んでいます。ここでは、住民税の普通徴収と特別徴収について記載します。なお、住民税の税額計算等の詳細については記載を省略しますので、法令等を御確認ください。
1.普通徴収
毎年6月に、市町村・特別区から納税義務者に税額通知書(納付書)が送付され、この納付書により納税義務者が市区町村役場や金融機関、郵便局などの窓口で支払うか口座振替等によって支払います。 これが個人住民税の普通徴収です。納期は基本的に4期に分割されていますが、一括での支払いも可能です。現状では主に事業所得者が該当します。以前は公的年金所得者も普通徴収の対象でしたが、平成21年10月より支給される年金かから天引きされる制度が始まりました。(一定の所得条件等がありますが、ここでの記載は省略します)
2.特別徴収
個人住民税の特別徴収とは上記公的年金所得者に対する特別徴収を除けば、基本的に給与所得者を対象とするものであり、所得税の源泉徴収と同じように事業者(給与支払者)が毎月従業員(納税義務者)に支払う給与から個人住民税を天引きして、従業員に変わり市区町村に納付する制度であり、毎年6月から翌年の5月までの12ヶ月で特別徴収を行います。ただし、従業員が常時10人未満の事業所の場合は、市区町村に対して申請承認の上、年12回の納期を年2回にする納期の特例制度も利用できます。地方税法第321条の4第1項で、所得税の源泉徴収義務がある事業者は個人住民税の特別徴収を行う義務があるとされています。
3.この間の動向
冒頭でも触れましたが、この間住民税の特別徴収を徹底する動きが各地の自治体で取り組まれています。普通徴収による住民税の滞納が増加しているという指摘や、そもそも事業者が特別徴収していない状況は法令違反である、といった理屈からです。一見、至極まっとうな理由に見え、特別徴収の推進は適切であるようにも考えられます。本当にそうでしょうか?所得格差が広がり、経済的困窮者が増加している現状において、その解消が見えてこない中で税金は強制的に給与から天引きするというのは片手落ちとは言えないでしょうか。強制的に給与天引きすると言うのであれば、払いたくても払えない滞納者を減らすような取組が先ではないでしょうか。加えて、住民税の特別徴収を推し進めることは、中小企業の経理・労務業務において大きな負担となることも容易に想定されますが、事務の増加や経理担当者がいないといった理由で特別徴収を行わないことは、法令上認められないとされています。
また、平成29年分の住民税の特別徴税額収決定通知書にはマイナンバーを記載する欄が設けられており、自治体によっては実際に記載されている例もあるようです。送付された特別徴収税額決定通知書はマイナンバー担当者の管理の下、必要な保管・管理を実施することが求められます。この点でも、特別徴収義務者の事務的負担は増大すると言えます。さらに、昨今の報道ではマイナンバーの記載された特別徴収税額決定通知書の誤送付・誤配達によって、個人のマイナンバー・所得・税額等の情報が漏洩したという事件も散見されます。マイナンバー制度の是非を論ずるのは他の機会に譲りますが、その行く末が案じられるのは言うまでもありません。自治体が個人のマイナンバーを勝手に調べた上で記載して送付してくるなどという行為は無謀としか言いようがないでしょう。
納税義務者である人にとっても、特別徴収義務者である事業者にとってもよりよい住民税制度を確立するよう我々皆が声をあげ、知恵を出し、行動していかなければならないと考えます。
(坂根 哲也)