協働 公認会計士共同事務所

レポート

レポート > 税 務

医療法人の事業税(所得割)の所得計算の特例について

 法人事業税の所得割の課税所得(課税標準)は、各事業年度の益金の額から損金の額を控除したものとされており、特段の定めを除いて法人税の課税所得と同様です。
 その特段の定めの一つとして、医療法人又は公益法人等及び医療施設に係る事業を行う農業協同組合連合会等で、医療保健事業を行う場合は、社会保険診療に係る所得は非課税とされています。
 医療法人と変わらない医療事業を行う医療生協法人が行う社会保険診療は非課税とされておらず、税負担に違いが生じています。しかし、同じ地方税でも医療生協法人の所有する固定資産(土地・家屋・償却資産)には固定資産税がかかりません。医療法人は一定の減免等がありますが、原則的には固定資産税が課税されます。
 ここでは医療法人等の事業税等の非課税所得の計算方法を確認し、適用上の留意点をまとめてみます。

1.医療法人等の社会保険診療に係る所得の非課税

 医療法人等の事業税の課税所得は、法人税の課税所得から社会保険診療に係る所得を非課税として除外して算出されます。このことを定めた地方税法72条の23?を要約すると以下のとおりです。
 「所得割の各事業年度の所得を算定する場合は、医療法人等が社会保険診療につき支払を受けた金額は、益金の額に算入せず、また、当該社会保険診療に係る経費は損金の額に算入しない。」
 この条文どおりの計算(経費配分方式)により申告をする場合、実務上は、益金(収入)は区分できても、その益金に対応する損金(経費)を区分することは大変困難です。そのため、東京都などの大部分の自治体では、各事業年度の収入を社会保険診療に対する収入とそれ以外の収入に区別し、その比率により法人税の課税所得を按分して課税所得を算出すること(所得配分方式)ができます。最近では、経費配分方式のみを採用していた自治体も、経費配分方式と所得配分方式の選択適用ができるように変更していることから、いずれどの自治体においても計算が比較的容易な所得配分方式となるのではないでしょうか。(自治体からの制度変更のお知らせには注意して下さい。)
 
 所得配分方式と経費配分方式の計算方法をまとめると次のとおりです。
(1)所得配分方式(東京都など 収入区分による按分計算)
A) 社会保険診療収入額
B) その他の収入額
C) 法人税の課税所得 × A) /(A)+B))=非課税所得

(2)経費配分方式(法令通りの計算 例 山形県の手引きより)
A) 社会保険診療収入額
B) 社会保険診療経費額
  *社会保険診療経費額は、以下に区分して合計した金額。
   (a)社会保険診療専属経費
   (b)共通医療直接費×社会保険診療分の収入金額/総医療収入金額
   (c)共通一般管理費×社会保険診療分の収入金額/総収入額
C) A)-B)=非課税所得

2.社会保険診療にかかる収入額

 社会保険診療につき支払を受けた金額(社会保険診療収入額)の主なものは次のとおりです。(詳細は、各自治体の手引きを参照して下さい。)
 介護保険については、非課税と課税に区分する必要があります。介護保険改悪により介護保険法の適用除外となるサービスが増加したり、介護保険の対象であっても事業税が課税となるサービスがあったりと、今後も医療介護福祉を総合的に行う医療法人の税負担が増える傾向にあると思われます。

★社会保険診療となるもの(非課税)
 ・健康保険法 
 ・国民健康保険法 
 ・生活保護法
 ・公費
 ・介護保険法
(訪問看護・介護予防訪問介護・訪問リハ・居宅療養管理指導 等)
 ・その他
★その他のもの(課税)
 ・公害
 ・労働災害補償保険法
 ・自賠責
 ・自由診療
 ・健康診断
 ・嘱託収入
 ・介護保険法 
 (訪問介護・通所介護・福祉用具貸与・介護福祉施設サービス・地域密着型サービス 等)
 ・ケアプラン
 ・その他

3.法人税と事業税の繰越欠損金の違い

 上記2の非課税の所得の計算方法は、当該事業年度の法人税の課税所得がマイナス=繰越欠損金の場合においても同様です。事業税における翌期以降に繰越す欠損金は、非課税となる社会保険診療に相当する欠損金を除いたものとなります。そのため、法人税の繰越欠損金より事業税の繰越欠損金が当然少なくなります。  
 また、経費配分方式を採用している場合には、その事業年度において法人税の課税所得がマイナスであっても事業税の課税所得がプラスとなり、税負担が生じるようなことがあります。本来、赤字決算のため税負担がないにもかかわらず、事業税のみ課税されると言う点で矛盾が生じています。この矛盾を解消させるために所得配分方式との選択を可能とする変更が進んでいるものと思われます。
 最近ある医療法人の例ですが、翌事業年度に繰り越す法人税の欠損金があるのにもかかわらず、事業税では繰越欠損金を差し引いて課税所得が生じ、納税となるケースがありました。その理由としては、赤字経営から黒字経営への取組による医療構造の変化(病床閉鎖による社会保険収入の減少等)や介護保険の課税拡大などがあげられます。また、土地等の売却益等は按分計算から除外し、その利益(所得)が全額課税対象となるため、法人税より早く繰越欠損金が解消されることになり、事業税のみ納税することになりました。
 このように経営改善を進めている法人は、法人税の繰越欠損金が残っている場合でも事業税が課税となることがあります。年度末決算見通しを行う際、法人税等の計算においては留意が必要です。

(岡村 弘子)

トップへ戻る