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医療法人の吸収合併
医療法人における組織再編行為として吸収型および新設型の合併や分割がありますが、今回は吸収合併について紹介します。また、持ち分あり医療法人の新規の設立は認められないことから、持ち分なしの医療法人同士の吸収合併に限った説明とさせていただきます。法人税の課税関係、手続、会計処理について順に説明します。
1.法人税の課税関係
法人税の課税関係について適格合併と非適格合併の場合により取扱いが異なります。原則は非適格合併であり、特例として適格合併となります。これらは任意に選択できるものではなく、原則は非適格合併であり、決められた要件を満たすもののみが適格合併となるという関係です。
適格合併では消滅法人の資産負債を簿価で引き継ぎ、非適格合併では消滅法人の資産負債を時価で引き継いだものとされます。したがって、非適格合併では、消滅法人の資産負債の簿価と時価の差額が譲渡損益として認識されることになり、消滅法人で課税が生じえます。合併の前日までで所得を計算して申告しますが、消滅法人はなくなりますので実務上は存続法人が申告、納税をおこなうことになります。
一方で、存続法人では、適格合併では引き継ぎの資産負債を簿価で認識し課税関係は生じませんが、非適格合併では引き継ぎの資産負債を時価で認識し、資産調整勘定(もしくは差額負債調整勘定)が生じるため、5年にわたり均等償却することにより課税関係が生じます。また、存続法人が消滅法人から引き継いだ職員にかかる退職給付債務の引き受けをした場合には、退職給付引当金額を退職給与負債調整勘定として計上します。退職給与負債調整勘定は、引き受けの対象となった職員の退職給付支給時に取り崩し益金に算入していきます。
以下、適格合併となるための要件についてまとめます。
(1) 適格合併の要件(共同事業要件)
適格合併となるための要件として以下①~④を満たす必要があります。
①事業関連要件
消滅法人の主要な事業と存続法人の事業とが相互に関連するものであること。
②事業継続要件
消滅法人の合併前に営む主要な事業が、合併後に存続法人において引き続き営まれることが見込まれていること。
③従業者引継要件
消滅法人の直前の従業者のうち、概ね80%以上が合併後に存続法人の業務に従事することが見込まれていること。
④選択要件
下記、事業規模要件または経営参画要件のいずれか一方を満たすこと。
a)事業規模要件
存続法人と消滅法人の、売上高、従業者数、設立等積立金またはこれらに準ずるもの割合の差が、概ね5倍を超えないこと。
b)経営参画要件
合併前の、存続法人の特定役員のうち1名以上と、消滅法人の特定役員のうち1名以上とが、それぞれ合併後の存続法人の特定役員となることが見込まれていること。
医療法人同士の合併であれば①、②は通常満たすでしょうし、③についても特に問題はないかと思います。また、④についてもa)については極端に規模がかけ離れた法人間でない限り問題ないでしょう。仮に規模がかけ離れた法人間で合併をする際にはb)について合併前に両者で十分に検討する必要があるといえます。b)の特定役員とは、理事長、副理事長、専務理事等、またはこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者を指します。したがって、使用人兼務理事や平理事であっても経営の中枢に参画しているのであれば要件を満たすことになります。
なお、特定役員就任後、極端に短い期間で特定役員を退任したり、実際にはその職務を遂行していない場合などは共同事業をおこなうために特定役員を派遣するという税法の趣旨に反することになりえます。このような場合、実質的に要件を満たさないと判断され適格合併と認められない可能性もある点は注意が必要です。
以上、適格合併の要件となりますが、これら要件を満たした合併の場合、消滅法人に繰越欠損金があれば存続法人側で引き継ぐことができます。上述の譲渡損益課税とあわせて基本的には適格合併の方が税務上有利と考えられます。
2.手続
社団同士の合併であれば合併後の法人は社団、財団同士の合併であれば合併後の法人は財団となります。社団と財団の合併も認められており、その場合には合併後の法人は存続会社の形態となります。
大まかな流れとしては契約締結、認可申請、効力発生となります。
(1) 契約締結
存続法人の合併後2年間の事業計画またはその要旨および合併効力の生ずる日を定めた合併契約を締結します。その際、社団については総社員の同意、財団については寄附行為に合併できる旨の定めがあったうえで理事の2/3以上の同意が必要となります。
(2) 認可申請
合併には都道府県知事の認可が必要です。認可申請書とともに理由書、社員(理事)の同意を経たことを証する書類、契約書の写し、存続法人および消滅法人の定款(寄附行為)、存続法人および消滅法人の財産目録および貸借対照表、合併後存続法人の定款(寄附行為)、合併後存続法人の合併後2年間の事業計画および予算書、合併後新たに就任する役員の就任承諾書および履歴書等が必要です。
都道府県知事による合併の認可があったときには、債権者保護手続が必要となります。認可の通知があった日から2週間以内に一定の手続を実施しなければならず、合併の登記までの間その時点における財産目録および貸借対照表を主たる事務所に備え置き閲覧に供すること、債権者に対し2ヶ月以上の異議申し立ての公告かつ個別催告すること等です。
(3) 効力発生
合併は主たる事務所の所在地において登記することで効力が発生します。存続法人は変更登記であり、消滅法人は解散登記となります。登記をおこなったときは、遅滞なく都道府県知事に対し登記の年月日を届け出なければなりません。
3.会計処理
(借方)諸資産 ××× / (貸方)諸負債 ×××
(貸方)設立等積立金 ×××
合併後の法人が財団医療法人又は持分の定めのない社団医療法人の場合は、受け入れる資産と負債の差額は、寄附として捉える性格のものです。しかし、事業体としての活動ではなく、事業体そのものの結合であるため、当期純利益に算入するのは適当ではなく、「設立時積立金」に直接計上します。なお、資産、負債のすべてについて簿価をそのまま引き継ぐ場合には、純資産の部のすべてをそのまま引き継ぎます。
以上