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介護保険制度と消費税

1.はじめに

 国民健康保険法や健康保険法などにもとづく社会保険医療による診療報酬は、患者の一部負担金も含めて、消費税非課税取引となります。

 介護保険制度の導入により、私どもが関与する医療機関などを中心に、居宅介護サービスや福祉用具の貸与事業など、介護サービスを提供する法人や団体が増えています。この介護保険法の規定による介護サービスに対する消費税の取扱いは、前述した社会保険制度とは別に定められています。

 介護保険法にもとづいておこなわれる居宅や在宅の介護サービスについては、基本的には消費税は非課税となりますが、要介護者等の自己選定により一部が消費税課税対象となります。また、福祉用具の貸与および販売事業については、消費税の課税・非課税が混在しており、その管理と算定方法も含めて注意が必要となります。

 次項以降で、介護保険制度と消費税について、具体的にみていきたいと思います。

 

2.非課税となる「居宅・在宅介護サービス」の具体的な範囲

 消費税法に定められている非課税となる介護サービス(「非課税となる介護保険に係る資産の譲渡等」)の範囲は、大きくわけて次のようになっています(消費税法別表第一第7号イ)。

 

 ○ 介護保険法の規定に基づく居宅介護サービス

    ・ 要介護者の居宅において介護福祉士等がおこなう訪問看護

    ・ 要介護者を訪問し、浴槽を提供しておこなう訪問入浴介護

    ・ 要介護者の居宅において看護婦等がおこなう訪問介護

    ・ 要介護者の居宅においておこなう訪問リハビリテーション   など

 ○ 介護保険法の規定に基づく施設介護サービス

    ・ 特別養護老人ホームでおこなう介護福祉施設サービス

    ・ 都道府県知事の許可を受けた介護老人保健施設でおこなう介護保健施設サービス

    ・ 介護療養型医療施設でおこなう介護療養施設サービス     など

 

 上記は非課税となるもののうち一部ですが、これらに該当する介護サービスをおこなう場合は、要介護者が負担する介護サービス費用の1割相当額の負担金も含めて、消費税は非課税となります。

 また、通所系または入所系のサービスにおいて、その性質上、当然に付随して提供されることが予想される日常生活に要する費用(例えば、食材料費やおむつ代、理容代等)についても、居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービスに含まれ、消費税は非課税となります。

 ただし、要介護者が自らの希望により提供する特別な居室費や食事費、送迎費などは非課税の対象とはなりませんが、非営利・協同の事業者の分野ではこれらが多額にあるというケースは少ないと思われます。

 消費税の免税ラインが1,000万円に引き下げられ、これらの福祉・介護サービスをおこなう法人・団体にも、税務署から「消費税課税売上高のお尋ね」などが届いているようですが、あわてて対応する必要はまったくありませんので、上記を参照していただきご自分の法人・団体の課税売上をもう一度点検してみてください。

 

3.「福祉用具の貸与事業」にかかる消費税の取扱い

 介護保険法の規定にもとづく福祉用具の貸付は、消費税法で定められている「非課税となる介護保険に係る資産の譲渡等」には該当しないため、消費税の課税対象取引とされてしまいます。

 ただし、その福祉用具の貸付または販売が、「身体障害者用物品」の貸付または販売に該当する場合にのみ、消費税は非課税となります。

 これら「身体障害者用物品」の具体的な内容については次の項で説明しますが、「身体障害者用物品」は「物」によって特定されているため、「身体障害者用物品」を「誰」に貸付・販売したのかということとは関係なく、消費税は非課税となります。したがって、若干矛盾しているようにも思えますが、「身体障害者用物品」を貸す、または販売する相手が仮に障害者でなくても、あるいは相手方の障害の程度などは問わず、すべての取引が非課税となります。

 実務上は、膨大な福祉貸与資産等のなかから、その貸与、販売する資産が「身体障害者用物品」か、あるいはそれに該当しない福祉用具かをその都度判断するのは非常に困難かつ煩雑であり、担当者たちを悩ませています。

 もちろん本来的にはすべての福祉用具の貸与・販売を非課税とすべきとは思いますが、現状では各貸与資産ごとの台帳などを作成し、それによって管理し、課税・非課税等の区分をするなどの工夫が必要となります。また、このことは本来、福祉貸与資産等の在庫管理の観点からも重要な取り組みといえます。

 

4.「身体障害者用物品」とは?

 介護保険が適用となる福祉用具の範囲については、「厚生大臣が定める福祉用具貸与に係る福祉用具の種目(平成11年厚生省告示第93号)」に規定される車いすや特殊寝台などの12種目と、「厚生大臣が定める居宅介護福祉用具購入費等の支給に係る特定福祉用具の種目(同告示第94号)」に規定される腰掛便座や入浴補助用具などの5種目となっています。

 「身体者障害者用物品」とは、そのうち、身体障害者用として特殊な形状、構造または機能を有している物品のことを指します。具体的には、消費税法別表第一第10号などにおいて規定されており、これらの用具を貸与または販売する場合にのみ、消費税は非課税となるということです。

 非課税となる「身体障害者用物品」の代表的なものをいくつか表1に挙げておきますので参照してください。

 

<表1「身体障害者用物品」の例示>

義肢 義具 盲人安全つえ 義眼 点字器 補聴器 車いす 電動車いす 特殊寝台 など

 ※なお、上記に該当する物品の場合でも、「身体障害者用物品」となるための要件があるので注意が必要です。

 例えば、「特殊寝台」であっても「身体障害者用物品」となるのは、「身体に障害を有する者の頭部及び胸部の傾斜角度が調整できる機能を有する」寝台で、さらに「?本体の側板の外縁と側板外縁との幅が100cm以下のもの」「?サイドレールが取り付けてあるもの又は取付可能なもの」「?キャスターを装着していないもの」という3つの条件をすべて満たしているものに限るとされています。

 詳細については、消費税法別表第一第10号や平成3年厚生省告示第130号などを参照してください。

 

5.「住宅改修事業」にかかる消費税の取扱い

 在宅の要介護者が、階段等への手すりの取付け、床の段差などをなくす住宅改修工事をおこなった場合、介護保険制度により居在宅介護住宅改修費を支給することとなっています。

 住宅改修費の支給は、要介護者から支払った費用相当額のうち定められた割合を後日請求するする方法で支給されますが、これは消費税法上、非課税の対象となる介護保険の資産の譲渡等には該当しないため、その取引金額に対して消費税が課税されてしまいます。

(千葉 啓)

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