労働組合・非営利団体の収益事業課税と消費税
この間、労働組合や非営利・協同の団体などから、「税務署から『事業内容のお尋ね』という文書が送られてきたのですがどうしたらよいでしょうか?」というような相談が多く寄せられています。
この「事業内容のお尋ね」は、ここ何年間かの事業の収支や内容などを事細かに記載させ、税務署に提出するようにと要請している文書です。
近年、これら税務当局からの非営利・協同の労働組合や団体への徴税攻勢が強化されてきていることから、昨年は当事務所でも、大月書店から『労働組合・非営利団体の会計と税金Q&A』という書籍を発行しました。
今回は、労働組合等の収益事業課税や消費税の意義と、これら「事業内容のお尋ね」についての対応について考えてみたいと思います。
1.収益事業課税と消費税
労働組合や団体のおこなう事業は、現在は法人税は原則非課税となっています。ただし、これらが法人税法に規定される収益事業を営んでいる場合には、本来の労働組合等の活動にかかる事業の部分と収益事業の部分を会計的に区分することにより、その収益事業部分については法人税の申告をしなければならないとされています。
一方、消費税については、原則的に課税取引をおこなった場合は、消費税の申告・納税をおこなわなければなりません。ただし、消費税課税売上高が年間1,000万円以下である場合は、免税事業者として消費税の申告・納税が免除されています。この免税ラインの1,000万円が、2004年3月以前の事業年度分については3,000万円であったため、これまでは多くの労働組合・団体等では免税事業者となっていました。
2.「事業内容のお尋ね」
最近になって、税務当局から労働組合・団体等に「事業内容のお尋ね」などの照会文書が送られてきている背景には、次のような理由が考えられます。
(1)不況により税収が落ちこむ中で、少しでも税収を上げるために税務調査の範囲の拡大を画策していると思われること、(2)前述の消費税の免税ラインの引き下げにより、これまで申告の必要がなかった、これら労働組合や非営利団体の状況を牽制していること、(3)労働組合や非営利団体の活動が社会的にも経済的にも無視ができなくなっていること、(4)現在は、これら労働組合等は法人税原則非課税となっていますが、これを原則課税にしようという動きがあり、その実状を把握することが必要であること、などの理由が考えられます。
ただし、これらの照会文書については、法的な根拠は何もなく、提出の義務はありません。ましてや、税務当局から要請されている文書は、労働組合等の事業の収支や内容など詳細にわたっており、これに回答する時間的な手間だけ考えてもたいへんです。
労働組合や非営利団体はその名のとおり、営利を目的として活動しているわけではなく、収益事業といっても若干の書籍販売や手数料収入しかありません。労働組合等が非営利の存在であるため、これら若干の収益事業についても、採算計算をすれば当然ながら赤字となることは明らかです。また、長引く不況などの影響から、労働組合や非営利団体も組合費や会費等が減収し、資金的にも活動が困難になっているところが少なくありません。赤字となり法人税は納税の必要がなくても、申告書を提出することとなれば法人住民税の均等割については納税が必要となり、その厳しい財政の中から最低でも年間7万円の法人住民税を納税しなければなりません。法人住民税均等割についても、収益事業をおこなっていない、または実費弁償的な程度の書籍販売等があっても均等割の納税は免除されることとなっています。
したがって、「事業内容のお尋ね」には絶対に回答しなければならないというものではまったくなく、もし提出する場合でも、担当者が一人で判断するのではなく、組織的にきちんと議論・検討する必要があります。また、その様式も法定のものではないので、税務署からの文書様式にこだわる必要はなく、たとえば「報告すべき事業はありません」等の記載をして提出してもまったく問題はありません。
現在も労働組合や団体等の原則課税への動きや、消費税の免税ラインをなくしてしまおうという可能性もあります。今後も「事業内容のお尋ね」などを中心として、税務当局からの照会は増加すると思われますので、各組織ではしかるべき準備をしておくことが重要となります。
(千葉 啓)