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労働組合・非営利団体の消費税原則課税の実務

 ご存知のとおり、2004年4月1日以降開始事業年度より消費税の免税ラインが1,000万円(消費税の年間課税売上高)へ、また、簡易課税の選択できるラインが5,000万円へと下げられた。

 これにより当該事業年度より、当方で関与している労働組合や非営利団体、または中小事業者等の多くも消費税の申告・納税が必要となったり、これまでの簡易課税から原則課税へと変更することとなった団体等も数多くあった。今回は、消費税の原則課税方式による計算等の実務について概略を説明したい。

 

1.消費税原則課税の考え方

 消費税の基本的な考え方は、課税事業者が資産の譲渡や役務の提供などにより消費者から預った消費税から、課税事業者自身が仕入や費用の支払い、固定資産の購入などにより支払った消費税を差し引いて国に納付するというものである。

 簡易課税が、課税売上高に対して、製造業や小売業などといった業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じて預った消費税から控除できる消費税額を算出するのに対して、原則課税では、支払った消費税についても課税売上高の集計と同じように、支出項目の取引ひとつひとつについて消費税の課税対象となるか否か判定し、消費税額を計算しなければならない。 これは労働組合や非営利団体、中小事業者にとってたいへんな手間のかかる作業となるし、また、原則課税方式による消費税の納税額は、簡易課税に比べて大幅に上がることがしばしばである。この消費税法の改定は、労働組合や非営利団体および中小事業者にとっても大きな負担となっている。

 

2.原則課税方式による課税売上高

 消費税の課税売上高に関しては、原則課税でも簡易課税でも違いはない。労働組合や非営利団体で想定し得る具体的な課税売上となる取引については、生損保や労金などからの手数料収入や出版物等の販売収入、会館などの貸付による賃貸料収入などである。

 ただし、簡易課税の場合は、課税売上高にみなし仕入率を乗じて控除対象仕入税額を算出するだけで済むのに対して、原則課税では、控除対象仕入税額を算出するにあたって、後述する課税売上割合や特定収入割合を計算しなければならないため、非課税売上高や不課税売上高(特定収入)も集計することとなる。

 

3.消費税が非課税・不課税となる支出項目

 支出項目のうち、消費税が非課税または不課税となるものは、給与や役員手当および法定福利費などの社会保険関係を含めた人件費、租税公課、諸会費、保険料、寄付金支出、慶弔金、土地の賃借料などがある。また、備品などの固定資産に関しては取得した時点の課税仕入となるため、これらの減価償却費についても不課税となる。

 なお、一般会計や特別会計などの各会計間の繰出金支出(繰入金収入)は、資産の譲渡等によるものではないため、当然ながら不課税である。

 

4.課税売上割合と調整割合

 労働組合や非営利団体の場合、預った消費税から控除することができるのは、上記の支出項目に含まれる支払い消費税全額ではなく、そのうち課税売上に対応する部分のみが控除できることとなる。つまり、支払った消費税のなかに非課税売上や不課税売上に対応する部分があるのだから、それに対応する部分については預った消費税から控除はできなないという理屈である。

 労働組合や非営利団体において、原則課税となった場合に、その多くが消費税の納付税額が増えるというのは、この点が大きく関係している。

 

○課税売上割合

 課税売上割合とは、課税売上高と非課税売上高(ここでは免税売上高は考慮しない)の合計に占める課税売上高の割合である。その算式は以下のとおりとなる。この課税売上割合が95%以上であれば支払った消費税は全額控除でき、95%未満であれば支払った消費税に課税売上割合を乗じた金額が控除対象仕入税額となる。

 

【課税売上高】 ÷ 【課税売上高+非課税売上高】 = 課税売上割合

 

○特定収入割合と調整割合

 特定収入とは、労働組合や非営利団体など、一定の法人または団体における会費収入、補助金収入、寄付金収入などの収入である。これらは本来、資産の譲渡等の対価ではないため、消費税計算上には関係のない収入であるが、前述したとおり、消費税法上は支払った消費税のうちこれら特定収入に対応する部分は、支払った預り消費税から控除することができない。 なお、労働組合や非営利団体などにおいて総収入に占める特定収入の割合が5%を超える場合は、特定収入割合等による調整計算をおこなうこととなり、支払った消費税のうち特定収入に対応する部分は控除できないこととなる。

 

【特定収入】 ÷ 【課税売上高+非課税売上高+特定収入】 = 特定収入割合 ≒ 調整割合

※ 特定収入割合は、必ずしも調整割合と同義ではないが、労働組合等においては調整割合を算定するための対象となる収入はあまりなく、重要性が低いと思われるため、説明を割愛している。詳細が必要な場合は、消費税の解説書等を参照していただきたい。

 

 以下にいくつかのケースについて、簡単な設例を示してみる。(消費税5%のうち、国税分4%,地方税分1%であるが、設例では考慮していない。また、消費税の計算方法については簡略化している。)

 

〔設例1〕全額控除できる場合

<課税売上高 2,100、課税仕入 1,050(いずれも税込)、非課税売上高 100、特定収入 0>

2,100 × 100/105 ÷ (2,100 × 100/105 + 100) = 95.23% → 課税売上割合

2,100 × 5/105 - 1,050 × 5/105 = 50 → 納付税額

 

〔設例2〕課税売上割合が95%未満の場合

<課税売上高 2,100、課税仕入 1,050(いずれも税込)、非課税売上高 500、特定収入 0>

2,100 × 100/105 ÷ (2,100 × 100/105 + 500) = 80% → 課税売上割合

2,100 × 5/105 - 1,050 × 5/105 × 80% = 60 → 納付税額

 

〔設例3〕特定収入割合が5%を超える場合

<課税売上高 2,100、課税仕入 1,050(いずれも税込)、非課税売上高 100、特定収入 4,900>

2,100 × 100/105 ÷ (2,100 × 100/105 + 100) = 95.23% → 課税売上割合

4,900 ÷ (2,100 × 100/105 + 100 + 4,900) = 70% → 特定収入割合&調整割合

2,100 × 5/105 - (1,050 × 5/105 - 1,050 × 5/105 × 70%) = 85 → 納付税額

※ 特定収入は「課税仕入等に係る特定収入」ではないものとする。

(千葉 啓)

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