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寄付金拠出に対する税制

「日本には、寄付をして社会に役立てよう、という文化がない。マイクロソフト社長のビルゲイツなど数百万ドルの寄付を行っている。」などという、「文化人」の発言が新聞やテレビにのることがある。当方などは「文化がないのではなく、そうした寄付を社会的に奨励する制度が弱いからだ」「日本の金持ちの発想が貧困だからだ」などと思うが、いずれにしてもこの間非営利法人制度の導入や医療法人制度の見直し議論に関わって、個人や法人が支出する寄付金に関わる制度の一つである税制の見直しの動きがある。

 現状の制度をここで改めて紹介してみよう。

 

1.現状の寄付金支出に関わる税法上の取り扱い

(1) 個人

1) 所得税法上の取り扱い(寄付金控除)

 

 所得税法上個人が支出する寄付金については、特定寄付金について、下記計算式での所得控除ができる。

 

所得控除額=

*寄付金額-1万円

 

*ただし、所得(収入ではない)の30%(16年度までは1/4)が上限

 特定寄付金とは、大きく3つに分けられるが、簡単に言えば公益的な団体への寄付である。

 

 a 国、地方公共団体に対する寄付

 

 b 指定寄付金

 国立大学法人、学校法人、公益法人(民法34条法人)、共同募金会、日本赤十字社等に対する寄付金で、広く一般に募集され、公益の増進に寄与し、緊急に要するものとして充てられることが確実なものとして、財務大臣が指定したもの。

 ただし、公益法人の場合、指定を受けることが実際上難しく、当事務所で関与する公益法人でも、「指定」を得た事例はないのが実情である。

 

 c 特定公益増進法人への寄付金

 以下の法人に対する、法人の主目的に関する寄付金

独立行政法人

地方独立行政法人

日本赤十字社等

日本体育協会等の公益法人

公益増進に資するものとして、主務大臣の認定を受けた公益法人(期間は2~5年間)

学校法人の設立にあたるもの

社会福祉法人

更生保護法人

 d 政治活動に対する寄付金

政党及び政党への資金援助団体

議員の主催あるいは候補者を支援等する団体

 e 認定特定非営利活動法人(認定NPO)に対する寄付金

 

2) 相続税法上の取り扱い

 

 相続等で財産を取得した相続人が、その財産を、公益を目的とする事業を行う法人等に対する寄付をした場合、原則としてその財産に対する相続税は非課税となる。

 対象法人等は、1)aの国、地方公共団体、及び1)cで記載している公益増進法人である。

 資産家が、相続税を減らす対策として、生前あるいは遺言書で直接財産を美術館の設立等に拠出する場合の他、相続人がこうした形で相続財産の一部を寄贈する形で相続税を減少させる事例も見られる。

 

3) 土地等を法人に寄付した場合の取り扱い

 

 通常は、土地等含み益のある財産を法人に寄付した場合、土地の取得価額と寄付時の時価との差額は「みなし譲渡益課税」として所得税が課される。

 ただし、民法34条の公益法人その他公益を目的とする事業を営む法人に対して土地等を寄付した場合、国税庁長官の承認を受けたときは、みなし譲渡益課税は課さない。

 この「その他公益を目的とする事業を営む法人」の対象には、上記1)cの公益増進法人の他、出資持分を持たない等の公益性を持つ特定医療法人もその対象とされている。

 

 

(2) 法人

 法人税法上の寄付金の損金処理の限度額は以下の通りである。

 

 (注) 法人税法上の「公益法人等」については、以下の他に収益事業会計からの法人内寄付金損金処理枠がある。

 

1) 一般的な寄付金

 

損金限度額=

所得金額×2.5/100+(期末資本金額+期末資本積立金額)×2.5/1000

2

 ただし、法人税法上の寄付には、資産の低額譲渡等による時価との差額といった実質上の寄付金も含まれる。

 なお、各法人で計算してみるとわかるが、所得がさほど大きくなく、資本金額等も小さい非営利・協同の法人の場合、実際にはごくわずかしか損金処理できない。

 

2) 全額損金処理できる寄付金

国、地方公共団体に対する寄付金

指定寄付金((1)参照)

 なお、指定寄付金としての共同募金会へのものについては、同会を通じて別の社福法人を指定しての寄付が実質上可能なので、利用している法人が見られる。

 

3) 特定公益増進法人に対する寄付金((1)参照)

 

 1)の算定額と同額を、1)と別枠で損金処理できる。すなわち、この寄付金があれば、1)の2倍が損金処理可能となる。

 ただし、1)の一般寄付金損金限度そのものが少ないので、大きな節税効果は見込めないのが実情である。

 

 

2.寄付金税制の見直しの動き

 政府税制調査会では、公益法人の廃止と非営利法人制度の制定を背景に、全体として法人税原則非課税から原則課税への転換を図る方向であり、それへの「代替」として現状の寄付金についての税法上の所得控除等制度拡充を図る方向である。

 また、厚生労働省サイドでは、医療法人制度の見直し議論の中で、公益性のある医療法人制度として認定医療法人制度を検討しているが、これについても、認定医療法人への寄付金の所得控除等をすすめたい意向と聞いている。  

 

 制度の見直しの方向としては、主に以下のような点が検討対象となっている。

特定公益増進法人の対象の拡充、対象選定基準の明瞭化、統一ルール化(公益性ある非営利法人として第三者機関が認めたものは対象とする等)

認定NPO法人の要件見直し

寄付金控除限度額の拡充の可能性(所得税)

指定寄付金等の損金処理限度の拡充と一般寄付金の縮小(法人税)

 いずれにしても、税制全般における増税の流れの中で、一種の緩衝として「寄付金」控除制度を活用しようという当局の意図が透けて見える。基本的な税制に対する「増税反対」の立場を国民全体として主張するとともに、寄付金制度の動向を注視し、非営利・協同の組織として必要な提言をし、かつ活用していくことが望まれる。

(根本 守)

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