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何のための障害者自立支援法?

 小泉与党政権発足以来、市場経済の飽くなき進展を促進するために、民営化や自己責任などの名の下で、これまで築かれてきた、公的な制度や公的な負担の在りようが次々と崩されている。私共協働の業務の大半が「非営利・協同」の事業組織であり、各組織の役職員共々、過酷な取組をもたらしている。

 本稿では、今秋の特別国会で成立し(10/31 衆院可決)、来年4月に施行される「障害者自立支援法」を取り上げることとした。なにしろ当該テーマでインターネット検索をすれば14万件以上をヒットするという現下の重要テーマである。

 

1.障害者支援費制度の現状

 障害別の支援費制度が成立適用されてからまだ日が浅いが、支援費制度は、障害者が利用したい制度や施設を自己責任的に、自由に、自主的に選択し、施設の事業者らと個別に契約を結んで利用する制度である。

 もともと障害者の中でも、身体障害者と知的障害者にしか適用されず、精神障害者はかやの外とされている。また自由に選べると言っても、障害者の生活する周りに判断に迷うほどたくさんの施設が在るわけではない。選ぼうにもその機能の発揮は困難なのが実情と言える。制度の発足の時から成り立たない、と指摘する声もあった。

 さらに現支援費制度の経済性では、制度や施設の利用者の利用負担額については、本人又は扶養義務者の経済的負担能力に応じて定められている。これを俗に「応能負担」という。すなわち利用する障害者らの所得の水準に応じて負担するというものであり、僅かな年金程度しかない障害者の負担は大半がゼロという制度となっている。

 

2.新たな「障害者自立支援法」の意義

 前通常国会から提起されている「障害者自立支援法」について「改革のねらい」として、以下のように厚生労働省より公表されている。がしかし、これらはうたい文句でしかなく、とりわけ注視すべき項目は、?である。?のあとに「法案の概要」から抜粋引用した。

 

(1) 障害者の福祉サービスを「一元化」

 サービス提供主体を市町村に一元化。障害の種類(身体障害、知的障害、精神障害)にかかわらず障害者の自立支援を目的とした共通の福祉サービスは共通の制度により提供。

 

(2) 障害者がもっと「働ける社会」に

 一般就労へ移行することを目的とした事業を創設するなど、働く意欲と能力のある障害者が企業等で働けるよう、福祉側から支援。

 

(3) 地域の限られた社会資源を活用できるよう「規制緩和」

 市町村が地域の実情に応じて障害者福祉に取り組み、障害者が身近なところでサービスが利用できるよう、空き教室や空き店舗の活用も視野に入れて規制を緩和する。

 

(4) 公平なサービス利用のための「手続きや基準の透明化、明確化」

 支援の必要度合いに応じてサービスが公平に利用できるよう、利用に関する手続きや基準を透明化、明確化する。

 

(5) 拡大する福祉サービス等の費用を皆で負担し支え合う仕組みの強化

1) 利用したサービスの量や所得に応じた「公平な負担」

 障害者が福祉サービス等を利用した場合に、食費等の実費負担や利用したサービスの量等や所得に応じた公平な利用者負担を求める。この場合、適切な経過措置を設ける。

2) 国の「財政責任の明確化」

 福祉サービス等の費用について、これまで国が補助する仕組みであった在宅サービスも含め、国が義務的に負担する仕組みに改める。

 

法案の概要より  (3) 給付の手続き(抜粋)

 

・障害者等が障害福祉サービスを利用した場合に、市町村はその費用の100分の90を支給すること。

 (残りは利用者の負担。利用者が負担することとなる額については、所得等に応じて上限を設ける。)

 

3.新たな「障害者自立支援法」の本質

 精神障害者を差別していた現状の改善は認められるが、そもそも市町村自治体への一元化という課題が容易ではないだろう。担当者等の人的配置とその経済性など、現行自治体の財政現状等から諸手をあげて賛成などとなるはずもない。

 また障害者の就労課題にしても、現行制度ですら、罰金の方が安いとして就労拒否を行う企業らが後を絶たないという現状は、単なるスローガンとしての提起としか映らない。

 

 最大課題は、新制度で障害者が利用したサービスの量や所得に応じた「公平な負担」という内容である。障害者支援に関わる多くの組織や人々が異論を唱えている点でもあるが、現行の「応能負担」から、1割の「応益負担」への大転換に課題がある。所得の状況にかかわらず、利用料の1割とされる「応益負担」額の負担提起は、障害者と家族の実態からすれば余りにも過酷な提案ではないだろうか。公的負担の抑制という御旗の下で、経済的能力のほとんど無い障害者らに負担を求める法律はとても認められるものとは言えないだろう。

 

 自立の支援どころか、経済的な矛盾から障害者らが、支援それ自身を受けにくくする制度と言える。さらに、介護や医療サービスのように、食費やホテルコストの負担の要求等を伴うことも必定と見え、障害者らに対する社会の負担と責任は一体どこへ行ってしまったのだろうか。何かが狂っている、そうとしか言い切れない「障害者自立支援法」と指摘しよう。

(田中 淳)

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