新会社法の概要(2006年5月施行予定)
2005年6月29日に新「会社法」が成立し、2006年5月には施行される予定となっている。本稿ではこの「会社法」の概要について解説をおこなう。なお、前半では主に株式会社に関する変更ポイント等を解説し、後半では会社法の目玉のひとつともいえる合同会社という新しい会社形態について解説する。
1.株式会社設立の手続き
(1)最低資本金制度の廃止
これまでは株式会社1,000万円、有限会社の300万円等の会社設立にあたって最低限払い込まれなければならない資本金制度があった。この制度は今回の会社法により廃止され、1円でも会社を設立することが可能となった。なお、従来どおり出資者は1人から株式会社の設立ができる。ただし、1人あたりの最低出資金額は1円未満とすることはできないため、資本金1円というのは出資者が1人だけの株式会社ということを意味している。
なお、これは新設される株式会社のみに適用されるわけではなく、既存の会社についても減資の手続きをおこなえば、無制限(当然1円未満は不可)に資本金を減少することが可能となった。減資の手続きは、原則として株主総会の特別決議を必要とするが、定時株主総会の決議であり、かつ減資額がすべて欠損てん補にあてられる場合には、普通決議によることができる。また、減資について、債権者保護の手続きが必要であるのは従来どおりである。
(2)既存有限会社の扱い
会社法の施行により、旧有限会社法は廃止され、有限会社という会社類型は新たに設立することができなくなる。既存の有限会社は、会社法と同時に施行される整備法により、正式には「特例有限会社」と呼ばれることとなり、法的には株式会社とみなして扱うことになる。ただし、これら特例有限会社については、取締役の任期の定めの不要等、従来の有限会社に認められていた制度はそのまま踏襲されるため、実質的な運用は従来とかわらないことになる。
なお、これら特例有限会社を株式会社へ変更する場合は、商号の変更と登記申請等をおこなう必要がある。この整備法の期限は現在のところ定められていないため、株式会社への組織変更の必要性は実質的にないが、旧有限会社法が廃止されたことを考えると、大局的には多くの有限会社が組織変更する流れとなるだろうと想像される。
(3)その他の改定点
その他の改定点としては、定款の記載事項の若干の変更や現物出資等の際の調査手続きの一部緩和などがある。
ただし、これら会社法の施行に伴う登記の変更の大部分は、登記官の職権でおこなわれるため、多くの株式会社は新たに登記申請は不要となっている。
2.株式会社の機関について
(1)公開会社以外の中小株式会社
公開会社以外の中小株式会社の機関構成について、今回の新会社法において大きく変更されたのは、取締役会の非設置が可能となったこと、その場合において監査役を非設置とすることが可能となったこと、会計参与の新設などの3点となろう。
株式会社には必ず取締役を1名以上置くこと必要がある。また、現行法では株式会社においては取締役会(取締役3名以上により構成)の設置が必須だが、新会社法においては公開会社以外の株式会社は取締役会を設置しないことも可能になった。したがって、これらの株式会社では、取締役を1名または2名とすることも可能となる。なお、取締役の任期についても、公開会社以外の会社については定款の定めにより10年まで伸長できることになった。
また、監査役については、現行法では株式会社は必ず1名以上置かなければならなかったが、新会社法では、取締役会非設置会社における監査役の設置は任意となった。ただし、取締役会設置会社で、かつ会計参与を設置していない会社についてはこれまで同様、監査役または監査役会の設置が必要となっている。なお、監査役の任期は4年となっており、監査の独立性の確保などの観点からこれを短縮することはできない。
会計参与は、今回の新会社法により新たに新設された機関であり、取締役と共同して、会社の計算書類等の作成等にあたる機関である。会計参与は誰でも選任できるわけではなく、公認会計士および税理士の資格を有するもの(監査法人および税理士法人も含む)のみ選任することができる。会計参与はすべての株式会社で任意で設置することが可能となっている。
(2)公開会社および大会社
我々協働が関与するようなクライアントにおいて、公開会社および大会社はあまり想定し得ないため、これらの株式会社の機関構成については、ここでは省略させていただく。なお、これらについて関係すると思われる委員会制度について、若干解説をする。
委員会制度とは、取締役の業務執行の迅速化と職務執行の監督の強化を意図した制度である。すべての取締役会設置会社においてこの制度を適用することができるが、委員会設置会社となった会社は会計監査人の監査を受けなければならないため、基本的には大会社や公開会社を対象としている制度である。
委員会は、指名委員会・監査委員会・報酬委員会から成り、委員は3名以上の取締役により構成される。また、会社の業務執行は取締役会で選任された執行役がおこない、各委員会は役割に応じて、それぞれ執行役の指名・業務監査および会計監査・報酬決定をおこなう。したがって、委員会設置会社では、監査役・監査役会を置くことができず、委員会に属する取締役が相互に監督することになる。なお、委員会設置会社の取締役の任期については、公開会社か否かを問わず、1年(短縮のみ可)となっている。
3.株式会社の計算関係
株式会社の計算関係について、今回の会社法により大きく改定されたものは、基本的に会社財産の分配にかかる書類がその中心であり、われわれ協働が関与するような「配当を目的としない非営利・協同の組織」においてはほとんど影響のないものである。以下に変更された項目の概略について簡単に解説する。
(1)株式会社の計算書類(財務諸表)
これまでは株式会社やその他の会社形態における貸借対照表では、「資産の部」・「負債の部」・「資本の部」と区分されていた。新会社法では、このうち「資本の部」という名称は廃止して、これを「純資産の部」と呼ぶことになった。この「純資産の部」は、大きく株主資本とそれ以外の評価差額金等に分けられ、これらの増減明細を記載することになる。
したがって、株式会社については、貸借対照表・損益計算書・事業報告書および付属明細書といったこれまでの計算書類に加えて、「株主資本等変動計算書(仮称)」を作成しなければならないこととなる。なお、これまでの「利益処分計算書」は廃止される。この「株主資本等変動計算書」の記載方法等のひな型は、近く法務省令で定められ、公表される予定である。
株式会社における計算書類の改定は、他の法人形態の計算書類の表示方法にも影響を及ぼすことになるであろう。
(2)剰余金の配当
株主に対する利益配当や自己株式の有償取得などの、株主に対する財産分配に関する各制度を「剰余金の配当」として整理し、これらについて統一的な財源規制がかけられることになる。
会社法では、剰余金の配当ができる限度額を「分配可能額」というが、これについては現行法の実質から大きな変更はないものとなっている。ただし、資本金の額にかかわらず、純資産額が300百万円未満の株式会社においては、剰余金があっても株主にこれを分配することはできないこととなった。
4.合同会社(日本版LLC)の新設
(1)合同会社の概要と組織
新会社法の目玉のひとつとして、合同会社の創設がある。合同会社は出資者の有限責任が確保されながら、会社の内部関係については、原則として社員(以下、出資社員の意義)の全員一致で決定し、社員自らが会社の業務執行にあたるという組合的規律が適用される。
会社の内部関係とは、例えば社員の入社や持分の譲渡、定款変更などのことであるが、合同会社ではこれらの決定は原則的に総社員の一致によっておこなわれるということである。これは、株式会社が株式数を基礎として利益分配や議決権等が与えられているのとは違い、合同会社は基本的に一人一票原則であることを意味している。
また、株式会社が基本的に出資者=業務執行者ではないのに対して、合同会社の社員は、全員が会社の業務権限を有するものとされている。ただし、定款または総社員の同意があれば、社員のうち一部を業務執行社員として定めることもでき、この業務執行社員は、会社に対して株式会社の取締役と同様の義務を負うこととなる。合同会社においては、業務執行社員の責任の減免については、定款等の定めにより自由に設定することができる。
社員および業務執行社員は1名から合同会社を設立可能であり、法人が社員および業務執行社員となることもできるが、法人が合同会社の職務を執行することはできないため、その場合は法人から自然人1名を選任して職務執行者としなければならない。
(2)合同会社における計算(財務諸表)
合同会社の計算書類は、貸借対照表および損益計算書に加えて、「社員持分変動計算書(仮称)」の作成が義務付けられることになる。「社員持分変動計算書」とは、前記の株式会社の「株主資本等変動計算書(仮称)」の合同会社版といえるものであり、同様に法務省令においてひな型が明らかになるものと思われる。会社の債権者には、これら計算書類の閲覧または謄写の請求権が与えられる。
また、合同会社は有限責任とされているため、剰余金の分配に関しては債権者保護の観点から株式会社と同様の資本制度を採用しており、計算に関する規定や剰余金分配に関する財源は、基本的に株式会社のものと同様になっている。したがって、違法な剰余金分配があった場合には、分配した社員および分配を受けた社員はその責任を負うこととなる。
合同会社であっても、非営利・協同の理念をもった会社では、剰余金分配は原則としておこなわれないと思われるが、「社員持分変動計算書」の作成は法律上義務付けられる。
(3)社員の退社と持分払戻
株式会社では、株主に対する資本金等の払戻はおこなわれないが、合同会社にあっては退社する社員がその持分の払戻を受けることが可能である。ただし、退社する社員の持分が会社の剰余金を超えるような場合には、業務執行社員の決定(複数いる場合は過半数の同意)をもって、債権者保護の手続きの後、払戻することになる。
(4)組織変更
会社法においては、株式・合同・合名・合資の各会社は、社員または株主全員の同意により、いずれの会社形態でも組織変更することが可能となった。なお、組織変更をおこなう場合には債権者保護の手続きも必要となる。
5.おわりに
今回の会社法では、株式会社も取締役会や監査役等の設置が選択可能となるなど、株式会社の設立や機関設計が柔軟になった。しかし、いうまでもなく、非営利・協同の組織においては、どのような法人形態であっても民主的な管理・運営、透明性の確保等の追求は重要な命題であり、会社法においてこれら取締役会等の設置が義務付けられていないからといって、即それを適用しようというのでは本末転倒である。
また、合同会社については、税法上の取り扱いなど、いまだ未確定の部分があり今後の動向を注視する必要がある。ただし、合同会社では会社運営などにかかる意思決定権限が、出資金額というお金ではなく人に与えられているなどの組合的な規律が適用される点において、非営利・協同の分野でも今後大いに研究・活用していく余地がある。
当ホームページでも詳細が明らかになり次第、お伝えしていく予定である。
(千葉 啓)