医療法人制度改革(社会医療法人新設)
医療法改定案が06年度通常国会を通過し、07/4月に施行の予定となっている。特に新法の中には、医療法人制度に対する抜本改定が盛り込まれている。ここでは、改定の概要とその中での「目玉」である「社会医療法人」制度の概要を説明したい。
詳細は法律本文や解説本を参照されたい。
1.医療法人制度改悪の概要
(1) 従来の医療法人制度と改定後の取り扱い
(1) 医療法人(一般)
医療法上、病院、診療所等の医療事業施設を担う法人として厚労省、都道府県知事の認可に基づき設立される法人が医療法人である。この特別法による医療法人数としては約4万法人とされている。
ただし、そのうち、33千法人は、開業医による「節税等を目的」として設立された出資者一人の一人医療法人である。また、法人形態としては、社団、財団組織形態に分かれるが、圧倒的には一人医療法人のような「出資持分のある社団」医療法人である。
医療の非営利性に基づく「非営利法人」として、社団医療法人においての「出資配当」の実施は旧医療法で禁止されているが、脱退、解散時の残余財産の分配は認められている。
出資持分の譲渡や相続の時の評価では非営利性という観点はない。新法下の07/4月以降も、既存の医療法人はそのままの内容で継続できるが、同内容での新たな設立は認められない。
すなわち新法下では社団組織としては「出資額限度医療法人」の設立しか許されていない。
(2) 特別医療法人
医療法に定められ、医療法人の中で私的所有形式を廃止し、公益性を高めた法人が特別医療法人である。その認可要件は、財団もしくは「持分のない社団」であること(したがって、一般の医療法人のように出資社員に対する残余財産の分配はない)、同族役員やその給与が一定限度以内であること、一定の入院施設を持っていること等である。特別医療法人になることにより、医療事業以外の一定の収益事業を営むことが認められるが、実質上のメリットはあまりなく、法人数は50弱法人数にとどまっている。
07/4月以降、既存の特別医療法人は、5年間の経過措置期間を経て廃止され、また、新たな認可はない。この制度は廃止である。
(3) 特定医療法人
特定医療法人は、租税特別措置法に定められ、特別医療法人と同様に公益性を高めた法人に認められる。認可要件も、ほぼ同様である。特定医療法人になることにより、法人税率が、協同組合、公益法人等のような軽減税率の適用が可能となる。法人数は約370法人とされる。
医療法上の制度ではなく税務上の分類であり、07/4月以降も当面のところ存続すると見込まれるが、今後の法人税制改定の動きにあわせて、抜本改定もしくは廃止の可能性が高い。
(2) 新たな医療法人制度
(1) 拠出型医療法人(出資額限度法人)
改定医療法に基づき、通常の医療法人として設立が認められる法人形態である。財団だけでなく、社団としての設立も認められるが、従来の社団医療法人と異なり、出資配当の禁止と共に脱退、解散時での「残余財産の分配」は「設立時等での拠出額が限度」となる。その意味で、医療法人の「非営利」の性格を明確にしたい厚労省の企図した制度と言える。
(2) 社会医療法人
改定医療法に基づき、特別医療法人に代わり、公益性を高めた医療法人として、社会医療法人が制度化されている。詳細は次節で説明する。
2.社会医療法人の概要
(1) 認可要件(医療法42の2、1)
(1) 役員につき、同族役員等が1/3以内
(2) 社団における出資社員につき、同族関係者が1/3以内
(3) 財団における評議員につき、同族関係者が1/3以内
(4) 「救急医療等確保事業」の実施
(5) (4)の業務を担う設備、体制、実績を有すること
(6) その他公的な運営に関する要件への適合
(7) 解散時の残余財産を国等または他の社会医療法人に帰属させる定めとすること
上記のうち、従来の特別医療法人と大きく異なるのは、主に(4)(5)のような医療内容の「公益性」確保とされている。詳細は、今後の政省令、通達を待たねばならないが、自治体病院レベルの医療内容を要件とすることが予想される。よって、認可を受けるのは、簡単でなく、特定医療法人のうち50法人程度の該当ではないかとの議論もある。
(2) 認可方法(医療法42の2、2)
医療審議会での意見を聴取した上で、都道府県知事が認可する。
(3) 認可後の規制(医療法51、3)
決算書について、公認会計士または監査法人の監査が必要。
(4) 想定されているメリット
(1) 一定の収益事業や障害者施設の運営が認められる。
(2) 社会医療法人債(社債)の発行による資金調達が認められる
(3) 自治体病院の指定管理者への就任等
法的に定めれているわけではないが、厚労省の新医療計画に基づく公益性の高い医療を担うことが想定されており、自治体病院施設等の「受け皿」として有利な扱いを受けることが想定される。
(4) 法人税制の軽減化、寄付金所得税制上の優遇
今後の法人税、所得税等税制改定を待たねばならず、また、そこでは従来の租税特別措置法に基づく特定医療法人制度の動向や、それとの整合性も検討されようが、厚労省サイドとしては各種税制面での優遇適用を求めている。そうでなければ国公立病院の整理統合等が容易ではなくなるからである。
(5) 私見
基本的には、国や地方自治体の財政赤字を減らすために、公的医療福祉への財政負担を少なくするために、国公立病院施設や事業を「民営化」しまたは「市場化」するための法改定であり、厚労省なりの一つの対応策が「社会医療法人制度」の新設である、と言えよう。
したがって、この新制度の適用により、地域住民に貢献する医療供給体制の充実等が期待できるかというと、むしろ後退を少し食い止める程度としてしか期待できないものと思量される。結局、大手民間病院チェーンらの勢力拡大をもたらしたり、公的病院の「民営化」の受け皿の医療機関制度となっていくものと推察される。
また、既存の医療法人や特定医療法人について、改定医療法の下で「優遇」し続ける、あるいは「優遇策」を引き上げる発想はまったく見られず、それらの医療法人が「社会医療法人」化する「ハードル」は極めて高く、いずれ特定医療法人廃止等による、かえって現行より不利な取り扱いとなる可能性もある。
なお、医療法人形態以外の「民法公益法人」組織の営む医療事業については、既に08/4月より「非営利法人」に移行することが予定されており、社会医療法人制度の今後の動向とあわせて、こうした公益的病院が新たに制度化された公益非営利法人となるのか、あるいは社会医療法人を含めた医療法人制度に移行せざるを得ないことになるのか、明解ではなく注目される。
また同時に、生協法人形態や社会福祉法人形態も含めての医療介護福祉機関の税制改定動向も注視していく必要がある。
(注) その後新たな医療法人制度では、社団について、出資持分に応じた払い戻し等にとどまらず出資額を限度とした払い戻し等も認めないことが明らかとなった。すでに設立されている「出資額限度法人」は出資持分ある医療法人と同様「経過措置」法人として存続が認められるものの07/4月以降の設立は認められない。
(根本 守)