役員給与税制に係る税制改正の概要――平成19年4月改定
ここでは「役員給与税制」のうち、協働のクライアントの皆様に関わると思われる点につき、平成19年4月の改正を中心に概要を解説していく。
1.平成19年4月改正の経緯
会社法の公布施行のなかで、役員に対する賞与と退職金について、会計上の取り扱いが変わった。利益処分による支払が禁止され、人件費として処理することになった。
これに対応した税制改正が平成18年4月の改正で、会社法制や会計制度の変化を理由に、それまで法的安定域にあった役員給与税制を無理に改め、課税強化を図ったものと思われる。画一的で無理な制度であるため、実務界からの批判も強く、混乱も生じたため、改正直後から「手直し」の連続となり、平成19年4月改正で再改正となった経緯がある。(一定緩和されたが、「法人と役員との委任関係」という線引きによる画一的な制度であることに変わりはない。)
従って、クライアントの皆様におかれては、平成18年4月の改正に関する資料を参考にすると理解判断を誤ることがあるので注意されたい。
2.「役員給与」の税務上の取り扱い
役員に対して支払われる給与についての税務上の区分は、平成18年4月の改正前までは、報酬・賞与・退職給与だったが、平成18年4月の改正により、報酬と賞与の区分が無くなり役員給与と役員退職給与という区分になった。
その上で、確定決算主義を維持しつつ(会計上は人件費で計上することを前提にしつつ)、役員に支給される給与については、退職給与及び下記要件に該当する給与を除いて、損金不算入とすることを「別段の定め(法34条)」により規定した。
つまり、損金算入を認める給与を限定列挙して、その要件から外れる給与は全て損金不算入とするということである。
<損金不算入とされない給与>
改正税法の考え方は、給与を(1)定期性・継続性のあるものと、(2)そうでないものに大別して、それぞれのなかで損金算入を認めるものを限定している。
(1)定期同額給与
定期性・継続性のあるものの中で、損金算入が認められるもの。
基本的にはこの制度を活用することになると思われる。(後述)
(2)事前確定届出給与
定期性・継続性のないものの中で、損金算入が認められるもの。
例えば、役員に対しても職員同様に夏冬のボーナスを支給する場合や、非常勤役員に年2回の給与を支払う場合等で活用できる制度だが、決算確定日後1ヶ月以内に役員全員の給与の全額に関して届出を必要とするなど実務が煩雑であり、かつ、届出と同額を支給しなければ損金不算入とされるなど、あまり活用の必要性はないものと思われる。
(この他に、利益連動給与という制度があるが、主に上場大企業等を想定した制度なので省略する。)
3.定期同額給与の注意事項
(1)要件1 定期同額であること
定期(一ヶ月以下の期間)で同額の支給であることが要件。
基本的に、役員給与(使用人兼務役員は使用人部分を除く役員給与部分)は、年間総額を12等分して支給することが必要。
(2)要件2 3ヶ月以内の改訂であること
役員給与の改定は、事業年度開始後3ヶ月以内に行われることが要件。
例えば、期央(中間)の臨時株主総会等で役員給与の改訂を議決した場合は、この要件を欠くことになる。
※3ヶ月以内の改訂以外で損金算入が認められる役員給与の改定は、基本的には(1)役員の職制上の地位の変更に伴う改訂、(2)業績の著しい悪化による減額改定だけになる。但し、不祥事等の経営責任を取って一時的に減額した場合等は認められる。
(3)要件3 改訂直後の支給から同額であること
役員給与の改定日の直後に訪れる支給日から、その改定した給与額による支給が 行われる必要がある。
4月1日が改訂日であれば、4月分の給与から改定額で支給するということである。仮に、事情により4月分の実際支払額が3月支給額と同額である場合などでも、差額を未払経理し、支給額としては改訂額にしておく必要がある。
※給与については、後述の退職給与の規定が「支払」とされているのとは異なり、規定条文で「支給」とされている。従って、未払経理による支給も認められるところと思われる。
(4)その他の論点
(1)役員の「変動給」
役員に対しても販売高や成約数など業務実績に応じて歩合給等を支給していた法人や、理事長(医師)に当直手当等を実績に応じて支給していた法人等も多いと思われるが、給与として支給した場合、定期同額要件を欠くことになり、全額が損金不算入となる。
そのため、様々な工夫がされていると思われるが、基本的には支給基準等を見直して、定期同額要件を満たす仕組みにするしかないものと思われる。
(2)遡及支給
過年度の清算分など、事情により給与改定日前の期間について遡って役員給与を支給する場合だが、遡及支給部分については損金不算入とされる。
損金不算入となる範囲の問題だが、明確になっていないため、国税庁のQ&Aの回答から推察すると、遡及部分だけだと思われる。
遡及部分を一括して、改訂月の給与に上乗せ支給すれば、その上乗せ部分が損金不算入になるものと思われ、そのことで年間の給与の全体が定期同額要件を欠くものとして損金不算入とされることはないものと思われる。
※Q&Aの回答では、既に終了した職務に対して事後に支給したものは損金不算入とされている。
では、遡及部分を12等分して上乗せしたらどうなるか。外観は定期同額給与になるが、それでも遡及部分は損金不算入となるというのが原則となる。
やむを得ずこのような(これに外観が似た)方法をとる場合には、遡及支給ではないということを明らかにする規定等を整理しておく必要があると思われる。
(3)非常勤理事の少額な「報酬」
職制上の使用人としての地位を有しないため、全額が役員給与となる。
毎月支払われるのであれば、定期同額であることが損金算入の要件になる。
年1~2回の少額支給であれば、同族会社でなければ、事前届出をしなくても損金算入が認められる。(平成18年4月改正では事前届出の対象だったが、H19年4月改正で、同族会社以外については緩和された。)
4.役員退職給与
会社法の公布施行のなかで、役員に対する賞与と退職金について、会計上の取り扱いが変わった。利益処分による支払が禁止され、人件費として処理することになった。これに伴い、役員退職金は従来損金経理を要件としてきたが、総会決議に基づく原則的な処理を行う場合は、損金経理は不要とされた。
ただし、総会決議によらず、定年等による退任といった「例外的」な場合には、(1)損金経理が損金算入要件になっており、かつ、(2)実際に支払うことが要件になった。
前述の役員給与の規定が「支給」であるのに対して、この例外処理の規定では「支払」になっている。従って、未払経理による損金算入は認められない。従って実務上の基本は、(1)従来どおり会計伝票上で損金経理を行うことで統一しておき、(2)総会決議以外の退任は実際支払うことがポイント、ということになる。
※損金経理は会計伝票上で行えば良いこと。
決算書上の表示が退職引当戻入益と役員退職金の両建になり、経常損益が歪むことが無いように注意されたい。
<会計伝票の記載例>
退職給付引当金 / 退職給付引当金繰入 ×××
(「退職給付引当金戻入益」と会計伝票の摘要に記載)
退職給付引当金繰入 / 現預金 ×××
(「役員退職金」と会計伝票の摘要に記載)
(岡本 治好)