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押し寄せる減損会計

 皆さんは「減損会計」という言葉を知っているだろうか?知らないという人もいるかもしれないし、言葉だけは聞いたことがあるという人もいるであろう。「減損会計」は我が国において適用されるようになって まだ数年、という制度である。バブル期に膨れあがった固定資産等の貸借対照表価額が、失われた10年を経て、会計ビックバンを断行してみると、キャッシュフローの状況等に鑑みてみても巨大すぎ、財務諸表が企業の状況を適切に表示していないと考えられるようになった。そこで、「減損会計」が適用されるようになったのである。また、会計基準の国際的調和という観点からも、「減損会計」の適用は意義があるといわれている。

 本稿では、この「減損会計」について、その制度を簡単に説明し、その意義や問題点にも触れてみたいと思う。

 

 

【減損会計の制度概要】

 

 減損会計は、主に固定資産に対して行われる減損処理の制度である。固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理のことをいう。

 減損損失を認識するかどうかの判定には、将来キャッシュフローを見積もる必要がある。企業にとって資産または資産グループがどれだけの経済的な価値を有しているかの算定を行うため、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定および予測に基づいたキャッシュフローの見積もりが要求される。

 また、減損会計は、対象となるすべての固定資産について回収可能性を検討するわけではない。減損の兆候が生じている資産または資産グループについて、回収可能性を検討し、減損を認識・測定する。

 

 

【減損会計の流れ】

 

(1)資産のグルーピング

 減損会計では、減損損失の認識・測定を行う単位としての、資産グループを決定する必要がある。資産グループとは、ほかの資産グループのキャッシュフローからおおむね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位である。

 

(2)減損の兆候

  減損の兆候とは、資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象のことで、次の4つが例示されている。

 

 ・資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュフローが継続して赤字となっているか、あるいは、継続して赤字となる見込みであること。

 

 ・資産または資産グループの使用されている範囲または方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること。

 

 ・資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したかまたは悪化する見込みであること。

 

 ・資産または資産グループの市場価格の下落。

 

(3)減損損失の認識の判定

 資産グループから得られる割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識する。

 

(4)減損損失の測定

 減損損失が認識された資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額 まで減額し、当該減少額を当期の損失として減損損失を認識する。

 

 ※回収可能価額とは、資産または資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう。使用価値とは、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値。 

 

 

【適用対象範囲】

 

 いわゆる減損会計は「固定資産の減損に係る会計基準」によって規定されており、その適用対象は、有形固定資産(土地、建物、機械装置等)・無形固定資産(営業権(のれん)、特許権等)・投資その他の資産(長期前払費用(権利金)等とされている。

 

 

【減損会計の功罪】

 

 ここで、減損会計の適用によって企業はどのような利点と問題点が生ずるのか、という点について考えてみる。まず、利点としては、減損処理によって、固定資産の含み損を処理できるということが挙げられる。含み損の処理の先送り防止ともいえる。つまり、制度の趣旨でもあるところの、企業の財政状態を財務諸表に適正に表示できるようになるということである。また、固定資産の有効活用の促進といった意味でも利点を見いだすことができよう。一方で、減損損失を計上して固定資産の含み損を表に出してしまうと、利益が圧迫されることになる。これが減損会計の適用における最大の問題点であろう。また、法人税法上は、減損損失を損金に算入できないことになっており、会計と税務の乖離による影響もある。

 

(参考)

 減損会計については、我が国の会計基準と国際会計基準においていくつかの相違点があり、問題となっている。世界的な会計基準のコンバージェンスの流れの中で、日本の会計基準は様々な点で改正を迫られており、減損会計についても例外ではない。一番の大きな違いは、減損の戻入、つまり減損処理後の固定資産等を再評価して帳簿価額を増加させる処理、が認められるかどうかということである。このような点も含めて、いずれ日本の会計基準は改正するのは必然と考えられ、その成り行きを注意深く見守りたい。

 

 

【協同組合等における減損の必要性】

 

 これまでの話は、市場経済における営利企業についての話である。それでは、協同組合についてはいったいどうなのであろうか?協同組合等といっても様々な形態があり、それぞれ独自の会計基準を設定している。減損会計の企業会計への導入以来いくつかの協同組合等では会計基準を改定し、減損会計を導入している。具体的には、事業協同組合・消費生協・農協・漁協・独立行政法人・国立大学法人などはすでに減損会計を導入しているのである。加えて、公益法人会計基準においても多少の相違点はあるものの、減損会計は導入されている。

 そもそも、減損会計というものは、将来におけるキャッシュフローという概念が根底にある。しかし、上記のような組織において、収益性の低下や将来キャッシュフローといった考え方は、組織の存立理念や実態に馴染まないものではなかろうか。にもかかわらず、減損会計だけに限らず、企業会計に合わせるような政策をとるのはいかがなものであろうか。今後の推移がますます重要であり、協同組合等が市場経済に飲み込まれることの無いように願っている。

 

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