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キャッシュフローの話

 「会計の話を分かりやすくしてほしい」と言われることがある。専門的な内容を経理従事者などに話すのとはわけが違い、複式簿記や仕訳の借方・貸方もわからない人に会計の話を短時間でするのは難しい。しかし、お金(キャッシュ)の話となると会計の知識がなくとも普段の生活感覚で理解できることもあって、話が通じやすいようだ。

 会計がわかりにくいのは、ある会計事象が発生した時にその事実を数字で表現するからであり、何をもって会計事象とするのか?その会計事象をいつ、誰が、どこで、いくらで把握するのか?が、会計を学んだことがない人にはわかりにくいからである。換言すれば、一般人の常識感覚からかけ離れて会計基準が設定されているからである。余談であるが、最近の会計基準では天候デリバティブなるものも会計事象として認識する必要があるとして、天気が晴れたり曇ったり、気温が高かったり低かったりで、利益がでたり損がでたりするなんてほんと博打の世界である。

 それでは本題に入ろう。一般に財務諸表と言われるものには、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)がある。これらの財務諸表を三位一体として見ることで会計への理解が深まる。しかし、新聞紙上でも会社の業績が良いか悪いかはほとんど利益が増えたか減ったかで報じられ、資産や資金(キャッシュ)の観点から分析されることはあまりない。利益だけに目が行っていると、金融機関の貸し渋りや貸し剥がしにあった時には、ある日突然資金が枯渇して倒産ということになりかねない。利益は出ているのに資金繰りがショートしてしまったという黒字倒産も散見される世の中である。いわゆる「勘定合って銭足らず」である。

 利益と言ったときに注意しなければならないのは、資金(キャッシュ)の裏付けが確実にあるかどうかである。キャッシュを伴わない利益は架空利益といっても言い過ぎではない。とするとキャッシュの裏付けがある利益がどれだけ発生しているのかを見るためには、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローをみれば一目瞭然である。

 簡単にキャッシュフロー計算書の説明をしておこう。一会計期間における資金(キャッシュ)の増減要因を「営業(事業)活動におけるキャッシュフロー」「投資活動におけるキャッシュフロー」及び「財務活動におけるキャッシュフロー」に区分して表示している。個人の生活にあてはめてみれば、給与収入や生活費支出が「営業CF」であり、テレビ等の家電購入やマイホーム購入が「投資CF」であり、ローン返済が「財務CF」である。営業キャッシュの範囲内で投資キャッシュと財務キャッシュを賄わなければ、貯蓄を取り崩していかざるを得なくなるということである。キャッシュフロー計算書は難しいどころか、非常に単純でわかりやすく、かつ身近なものである。もうひとつ特徴があって、キャッシュフロー計算書は「お金(キャッシュ)」という誰が見ても客観的な事実に基づいて作成されるので、恣意性が全く入り込む余地がない。すなわち粉飾(ごまかし)はできないのである。

 キャッシュフロー計算書はなじみが薄いといわれることがよくあるが、実は一番わかりやすく客観的で身近に存在するものである。財務諸表を見る際に少しでもキャッシュフロー計算書を見ていただければ、会計に関するバックボーンがなくともちょっとは会計を分かってもらえるかなと思う。

公認会計士 田中淑寛

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