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自治体病院の独法化と経営論点

 自治体病院が翻弄されている。ここ数年間で相当数の自治体病院が姿を消している。実際に廃院となった病院や他の医療機関に身売りされた病院もあり、また施設は自治体所有で管理運営を他の医療機関に任せるという「指定管理者方式」も採用されている。一方で自治体から、病院施設と職員そして医療機能をそのまま新規に設立する独立行政法人に譲渡移管して再スタートを切る事例も増加中だ。本論は、自治体病院独法化に際しての経営論点を探ったものである。事例の数値は架空のものであるが、その論点は実際のものであることを念頭に入れてお読み頂きたい。

 

1 ある自治体病院の独法化時点の設立時財産等

 

承継する資産 600、負担する債務 680

負担する債務に計上されていない退職給付債務 40  

独法化時点の年間事業収益 300

 

(注)行政から設立する独法への資産等の譲渡

一定の期日に独法に移管すべき資産や負債を一括的に譲渡する。職員等の転籍、各種の契約等の承継等を含めた営業譲渡と同様。国立大学等では時価評価した土地等の金額が大きく算定された純資産額は国の出資金として評価処理されている。

 

 

2 自治体病院の病院施設と建設資金債務

 

自治体病院はいずれも立派な(立派すぎる?)病院施設を建設してきた。財政が豊かではない自治体は建設資金の一部または大半を自治体の発行する公債でまかなってきたのだ。

独法化とともに病院施設の財産評価を行い、同時に未償還の建設公債も独法に移管するのが通例のようである。

 

 

3 退職給付債務

 

独法に転籍する役職員らの退職給付債務については、全額を必要資金と共に移管することが必要と考えるが、上記事案でもスタート時から債務超過であることを考慮すると退職給付債務評価額全額が計上されていないことも想定される。独法の経営評価も不透明となりうるし、自治体の長期的負担も不明朗となりうる。そもそも、自治体の会計では、退職金に備える会計の取り組みは適正なものではなかったのだ。国も多くの自治体も決算貸借対照表はないのだから。

 

 

4 年間事業収益の二倍の資産と多額の債務

 

医療の世界では、年間事業収益の額と総資産の額が概ね均衡である場合が損益分岐点とされている。この命題から観れば、本事案の病院は事業収益を遙かに超える資産と負債であり、通常の医療経営では絶対に剰余すなわち利益を獲得することはなく、承継した債務の弁済に必要な事業キャッシュフローは生み出せないものと想定される。おそらく承継した債務の弁済の補填を自治体側が長期にわたって行っていく想定と理解されるが、これも独法独自の経営の判断が阻害されていく結果をもたらす。

 

 

5 独立行政法人を指定管理者に

 

そもそも、相当の投資設備と未返済公債を独法に移管承継するから面倒になる。新設する独法を指定管理者として選定し、公債の償還は当該賃貸料と自治体独自の財政から支出すべきではないだろうか。その方が判りやすいし、過年度の多額の設備投資負担を独法にしわ寄せしなくても良いこととなる。自治体の地域医療に対する公的責任ではないだろうか。

 

 

6 おわりに

 

自治体病院の独法化では、検討委員会のような機関に、真に医療の経営が判っている方々が相当数で配置されているのだろうか、と疑いたくなる。転籍する病院関係者には、従前よりまして、困難な経営課題が待ち受けることとなりうる点、言を待たない。

 

以上

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