協働 公認会計士共同事務所

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財務諸表監査とは?

 ひと口に「監査」といってもいろいろな意味合いがあるが、今回は当事務所がおこなう監査、すなわち公認会計士がおこなう「財務諸表監査」について書いてみたい。

※なお、「財務諸表」という用語は正確には「企業会計原則」に定める貸借対照表や損益計算書等のことを意味するが、ここでは私たち協働が関与する非営利組織・団体および労働組合等で一般的に使用する「決算書」などを含む広義のものと理解していただきたい。

 

 

(1)1つめの誤解-財務諸表監査の目的

 

 私たち公認会計士がおこなう監査は、しばしば世間の方から誤解を受けていることがあると思われる。たとえば、税務署の税務調査のようになにか会計上の誤りを発見してこれを訂正させることが目的だと思われたり、被監査会社に例えば資産の流用といった不正が存在しないかどうかを調査するのが目的だと思われたりすることがある。

確かに、会計上の誤りを訂正してもらったり、不正の存在や発生する可能性を検討したりということを財務諸表監査の一環としておこなうことがある。ただし、これはあくまで主目的ではない。私たち公認会計士は、非営利組織・団体や労働組合でいえば理事や執行役員等が、一般企業でいえば経営者が作成した財務諸表に重要な誤りが含まれておらず、全体として正しいかどうかを判断し、それを意見として表明することを業務としている。訂正や不正といった事柄は、あくまで財務諸表に重要な誤りが含まれないための副次的なものであるといえる。

 

 つまり、公認会計士がおこなう監査とは、財務諸表の適正性に関する監査であり、公認会計士は監査報告書において財務諸表が適正か否かの意見表明を求められているのである。極端なことをいえば、仮に不正があったとしてもそれが財務諸表に表現されていたとすれば、私たち公認会計士は適正意見を表明することとなる。もっとも、不正が堂々と記載されている財務諸表など、とてもこわくてお目にかかりたいものではないが・・・。

 また逆に、財務諸表が適切でなく、それが修正されないのであれば不適正意見を表明するし、適正なのか不適正なのか心証を得られない場合は意見を表明しないこと(意見拒否)も認められている。

 

 こうした監査の目的に対する誤解から、私たちが監査においてヒアリングなどを実施すると、「なにか間違いを指摘されるのではないか?」「不正があると疑っているのではないだろうか?」と表情をこわばらせてみたり、警戒されてみたりといったことがある。監査に「職業的懐疑心」という用語があるが、もちろん公認会計士として必要な懐疑心は保持している必要があるし、その意味ではすべての事項を鵜呑みにするわけにはいかないことも事実である。

しかし、私たちは基本的に財務諸表が適正であることを証明するために監査を実施しているのであり、そのためには被監査側との協力が必要不可欠なのである。

 

 私どもが関与させていただいている非営利組織・団体や労働組合の方々には日頃から監査にご協力いただいているが、こうした双方の協力により、財務諸表利用者に正しい財務諸表が提供されるのである。

 

 

(2)2つめの誤解-監査の限界

 

 次の誤解が、「公認会計士が適正意見を出しているのだからその財務諸表は絶対に間違っていないだろう」というものである。

 

 公認会計士が財務諸表監査をおこなうにあたっては試査が基本となっている。試査とは、簡単にいえば項目の一部を抽出して監査をおこなうことであり、サンプリングなどがそれに該当する。一方で、すべての項目に対して監査手続をおこなうことを精査というが、精査を基本とすると監査時間が膨大にかかってしまい、被監査会社の経済的・時間的負担が多大になってしまうことから、試査を原則とするものとされている。

 私たちが監査意見を表明するにあたっては、こうした試査を基本とした手続による心証の積み上げで財務諸表の適否を判断しているのであって、財務諸表に関するすべての項目をみているわけではない。したがって、抽出されなかった一部の項目において財務諸表に誤りが含まれてしまう可能性もあるということなのである。

また、たとえば引当金の計上のように、財務諸表には見積りや判断を要するものが多く含まれている。これらはあくまで見積りなので、監査時点では適正と判断されても、その後大きな状況の変化により結果的に誤りだったとなることもある。

 これらのことから、いかに公認会計士により適正意見が表明されたといえども、財務諸表に軽微な不正や誤謬等を含むすべての誤りがないとは言い切れないというわけである。

 

 なにやら公認会計士の言いわけのようにもきこえるし、「それなら公認会計士の監査なんていらないじゃないか」とツッコミが入りそうだが、そこは試査といっても、統計学的な根拠にもとづいてサンプリングを実施したり、財務諸表に誤りの起こるリスクが高い項目について重点的に監査手続を実施したり、公認会計士としての長年の経験や勘(?)をフル活用したりと、財務諸表に対して職業的専門家として求められる水準の保証は確保しているのである。

 

 

(3)非営利組織・団体および労働組合における監査の意義

 

 市場経済においては、公認会計士による財務諸表監査は主に投資家のためにあるといえる。つまり、投資家が株式やその他金融商品に投資する際に、適正な情報がなければ投資活動が成り立たず、そのために財務諸表という企業の財務情報を、独立した第三者である公認会計士によって信頼性を担保しようというのである。

 

 では、投資家の存在しない非営利組織等では財務諸表の作成やこれに対する監査は必要ないのかといえば、私はそうは考えない。

非営利組織等がその社会的意義のある事業を継続的に続けていくためにはより適切な財務状況の把握が必要であるし、時として債権者として支えてくれる地域の支援者といった人びとにも(開示するどうかはともかくとして)適正な財務諸表を提供することは重要な取り組みである。また、協同の観点からいえば、株主という所有者のいない非営利組織等はそこではたらく職員らのものでもあり、職員らに正しい財務情報を提供することは理事や執行役員の役割である。

 

 市場経済における財務諸表利用者と非営利・協同における財務諸表利用者はまったく異なるが、ある意味では後者における財務諸表の役割の方がより重要性・存在意義が高いものと私は考えるのである。私たち協働も監査や会計指導等をつうじて、その一助を担うことができれば幸いである。

 

千葉啓

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