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「キャッシュフロー計算書」と「資金繰り表」

 資金の状況を表す諸表として、「キャッシュフロー計算書」と「資金繰り表」なるものがある。財務諸表のひとつに位置付けられているのは「キャッシュフロー計算書」であり、「資金繰り表」は財務諸表という扱いはなされていない。では、何が違うのだろうか?

 キャッシュフロー計算書は、事業体が資金を獲得する能力、債務の支払能力及び資金調達の必要性等に関して評価・検討するための情報を事業を取り巻く利害関係者に提供することを目的としており、一会計期間における事業体のキャッシュフローに関する情報について一定の活動区分別に要約して表示した計算書である。他方、資金繰り表は、収入総額(資金の源泉)と支出総額(資金の使途)を表示し、その結果としての収支尻を報告する計算書である。日常的に各法人で「資金繰り表」として作成されているものであるが、特に作成要項等はないため、各自独自に作成されているものである。

 旧証券取引法に基づく決算報告では、長らく「資金繰り表」が有価証券報告書に開示されていたが、経営活動の態様毎の区分表示がなされておらずキャッシュフローの的確な把握が困難であり、明確な作成指針が示されていなかったため比較可能性が十分に確保されていなかったことなど問題点が指摘されていた。そこで、1998年に企業会計審議会から「キャッシュフロー計算書作成基準」が公表され、キャッシュフロー計算書が導入された。ちなみに非営利である民医連統一会計基準においても2000年改正にて、キャッシュフロー計算書が導入されている。

 歴史的な経過からみれば、「資金繰り表」から「キャッシュフロー計算書」であるが、それでは、「資金繰り表」の役目は終わったのであろうか?私はそうは思わない。

 要は、資金情報として何に焦点を当てるのか、すなわち、資金情報としての作成・開示の目的は何かということに尽きる。短期的な資金繰りに窮するような経営では、収支尻が合うか(マイナスにならないか)が最重要課題であり、どこから資金が生まれどこに使われたかよりは、資金が回るのかが重要であるため「資金繰り表」が必要なのである。他方、資金的には余裕があり、中長期的な視野で経営判断をする場合には、資金を獲得する能力がどれくらいなのか(事業キャッシュフロー)、設備投資(投資キャッシュフロー)及び借入の返済額(財務キャッシュフロー)がどの水準なのかが重要な指標となってくるのであり、収支尻が合うかどうかは眼中にはないのである。

 このように目的に応じて違ってくるのであるが、「キャッシュフロー計算書」を作成していれば当然ながら収支尻はわかり、読み取れる情報量が多いため、「キャッシュフロー計算書」の方が財務諸表としての扱いがなされているのである。実務上は「資金繰り表」も「キャッシュフロー計算書」も作成されている場合もあるが、それは使用目的が異なるためであり両者は似て非なるものであるといえる。なお、当然ながら両者とも同一の会計情報から作成されるものであるから、資金残高の結果は誤差を除いて一致していなければならない。

 しかし、現在一般的に作成されているキャッシュフロー計算書は間接法で作成されており、有用な情報提供という意味からすると難点がある。間接法とは、事業活動によるキャッシュフローの算定を、当期純利益に必要な調整項目を加減して間接的に行う方法であり、個々の項目は調整内容が表示され、取引毎に資金の流出入状況がわかるわけではない。すなわち、事業活動から創出された資金総額は把握できるが、その内訳を個別に集計・把握することはできないのである。この点をみれば、「資金繰り表」における経常収支は項目別に把握されているであろうから一定の優位性があるといえる。

 そこで、クローズアップされているのが直接法によるキャッシュフロー計算書の作成である。直接法によれば、事業活動によるキャッシュフローの算定を主要な取引毎の収入総額と支出総額で行うことができ、事業収入、材料仕入れによる支出、人件費支出、その他の事業支出等を明示することが可能となるのである。直接法は、作成に実務上の困難性が伴うことから作成されている法人はわずかであるが、最も有用な情報を提供できるものであるといえる。

 

公認会計士 田中淑寛

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