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大災害の中での円高-市場経済万能論批判-

 岩手、宮城、福島等東日本大震災の被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げます。原発事故をはじめ予断を許さぬ状況が続いていますが、気持ちを強く持っていただくよう願っております。

 

 さて、日本が大災害に見舞われている中、経済面では円高の急激な進行が報じられている。1ドル82円台から震災直後で76円台へ跳ね上がった。新聞報道によると、阪神大震災の時にも同様の事態が生じており、その学習効果によるとのことである。G7各国の協調介入により81円台に戻したが、円高圧力は続いている。

 本来、為替相場の水準はその国の経済力を反映する。すなわち経済力が強くなればその国の通貨は強くなり、経済力が弱くなれば通貨も弱くなる。日本の場合、大震災により建物等施設が損傷し、工場の生産が止まり、計画節電により東京等の経済活動も停滞せざるを得ない。したがって、日本の現状は円安に進むのが常識である。

 しかし、現実に起きていることは円高である。この円高により輸出産業は打撃を受け、震災被害に加えて為替差損を被ることになる。災害復興どころか工場を海外に移転する動きを促進しかねない。保険会社が保有する海外債権(米国債等)も保険金支払のために売却する際に為替差損を被り、災害保険金の支払に支障が生じうる。一方で円高により輸入品は安くなるはずであるが、ガソリン等は原油相場の高騰によりむしろ高くなっている。

 

 いったいどうしてこんなことが起こるのであろうか。円高によって利益を得るものはいったい誰なのか。

 

 円高の発生要因としては、次のように報道されている。いわく「日本企業が自社工場等の復旧や災害復興需要に対応するため、海外資産を売却し日本国内に持ち込むので、円の需要が増加する。」この点はある程度事実だろうし、保険会社が被災者への保険金支払のために海外債権を売却し円資金にすることも想定される。しかし、こうした事実が発生するのは現時点ではない。震災からある程度(数ヶ月)期間がたって、震災復興が本格化する時期である。緊急の被災者の救出、避難所への誘導、原発事故への対処等にある程度の目処が立ったところで発生する事象である。急激に円を買う動きが、本当に災害復興需要のための必要に応じたものとは思われない。

 私にはもう一つ要因があると思われる。日本の株式市場に投資してきた者が、今回の大災害を受けて株下落を逃避するために所有株式を売却し、逃げ道としてその資金を為替市場の円買いに振り向けたのではないかということである。株式市場はこの間暴落し一挙に日経平均で20%近く下落した。マネーゲームの一環として今回の円高が演出され、そのシナリオが「日本企業の海外資産の売却」であったのではないかということである。そして、日本の株式市場の60%は海外投資家であるといわれている。

 

 このように見ると、円高を仕掛けたものの姿が見えてくる。円高を誘導したのは国際的な投資ファンド等の金融資本ではないか。当初の投資ファンド等のシナリオは、日本株式の売却資金を海外に持ち去る(ドル等に転換する)前に、為替相場に投入し、円高を演出したということではないだろうか。

新聞報道では大震災後外人が日本株を購入している旨の話が喧伝されているが、これはいったん株を売却し売却資金を為替市場の円買いに振り向けたが、G7の介入で再び日本株に買い向かっているだけではないか。

 こうした推定が事実であるとした場合、上記の経済行為は果たして妥当なものであろうか。こうした状況を放置して、市場による見えざる手が、経済資源の適切な配分と富の増進に役立つといえるのであろうか。今回の外国為替市場の動向は、大震災の被災者への支援、被災企業の復興にとってマイナスにしかならないと思われる。

 

 「市場経済万能論」の問題は、以上の点からいっても明らかだと思われる。この問題は、外国為替市場のみならず、食物取引市場、原油等エネルギー市場等でも見られる。根本的な解決の方向はこうした「市場の横暴」を抑えるために、基本的に投機的取引を市場から排除することと考える。すなわち、実際の需要に基づく取引に市場参加の対象を限定し、それ以外の売買は規制するということである。

規制反対論者は、これによって自由な経済活動が阻害され経済成長にマイナスとなるというが、「百害あって一利なし」の経済活動などない方がよいのではないかと思われる。

以上

 

(2011年3月 根本 守)

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