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災害損失計上の考え方について

災害損失計上の考え方について

 2011年3月11日に発生した東日本大震災の犠牲になられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 

 東日本大震災の発生により、日本経済に甚大な影響が生じていますが、各法人においては、決算を行う上でその損失額を会計上確定させ、あるいは確定していないものについては損失額を見積もらなければなりません。法人の保有する資産に生じた損失(滅失)額や災害関連費用の発生額等を総合的に確認していく必要があります。

 その際、引当金の要件に該当するものについては、決算上、「災害損失引当金」等として引当金に計上する必要があります。引当金の計上4要件とは、(1)将来の特定の費用または損失であること、(2)その発生が当期以前の事象に起因していること、(3)発生の可能性が高いこと、(4)その金額を合理的に見積もることができることです。

 したがって、3月決算法人を前提にすれば、3月11日に発生した東日本大震災による災害関連費用は、将来における特定の費用または損失であり当期以前の事象に起因していますので、その発生が高く金額が合理的に見積もることが可能なものについては、決算上、引当金に計上しなければなりません。他方、金額が合理的に見積もることができないものについては、少なくとも注記にて状況等を開示、説明するのが望ましいといえるでしょう。

 

 また、3月30日に日本公認会計士協会から公表された「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」において、会計上の災害損失の範囲について、以下の通り、直接及び間接の損失の例示が挙げられています。

 

(1)固定資産や棚卸資産の滅失損失

(2)災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等

(3)災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等

(4)災害による工場・店舗等(病院・事業所等)の移転費用等

(5)災害による操業・営業停止(休業)期間中の固定費

(6)被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用

(7)被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用

 

 (1)について、大震災により滅失損失した固定資産や棚卸資産の被災前の帳簿価額相当額が災害損失となります。

 

 (2)~(4)について、決算日以降に実施が予定されているものについては、上記の通り、引当金計上の要件に該当するか否かによります。

 

 (5)について、営業停止、休業期間中(東京電力が行った計画停電によるものも含む)で決算日までに発生した固定費は、原価性(費用性)が認められない場合もありうるので、それが明らかであるならば災害損失として計上することも可能であります。

 

 (6)について、見舞金、復旧支援費用は交際費または寄付金に準じた会計処理になりますが、これらの費用については決算日までの既発生額が対象であり、未発生額については引当金の計上要件を満たさないと思われます。

 

 (7)について、職員等に対する復旧支援費用は福利厚生費に準じた会計処理になりますが、(6)同様に既発生額が対象となります。

 

 以上、会計上、災害損失を計上する際の要点を簡単にまとめましたが、実務的には、(1)~(7)に該当するような項目を列挙していき、決算日以降に発生が見込まれる災害関連費用については、引当金の要件(その中でも合理的に金額が見積もれるか)を満たすか否かの検討をすることになります。

 

 税務上の取り扱いですが、固定資産等で損壊したもの、損傷したものについての除却損、廃棄損の計上、費用でも債務が確定しているようなものについての損金算入などは、原則どおり当然に認められると考えられます。詳しくは国税庁HP「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFQA」を参照してください。

 なお、過去に、阪神・淡路大震災のときに被災した法人について、1995年2月27日付で課法2-1他「阪神・淡路大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」という個別通達が公表されましたが、被災事業年度において、震災のあった日から1年以内に支出することが見込まれる被災資産に係る修繕費用等をあらかじめ見積もり、災害損失特別勘定として経理し、損金に算入することを認めるとともに、その金額を災害損失金に含めるものとされていました。東日本大震災についても、何らかの特例的な取扱いが今後出される可能性が高いと思われますので、今後の動向に留意してください。

 

(公認会計士 田中淑寛)

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