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非営利・協同事業体と内部統制

 2008年4月から金融商品取引法にもとづき内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXが開始された。この制度は財務報告の信頼性を担保するために、経営者自らが企業の内部統制を評価し、その有効性などについて報告する制度である。アメリカでエンロンやワールドコム等の粉飾決算が相次いだ際、その対策として2002年にSOX法が誕生したが、これをモデルにして日本でも導入された制度である。

 この制度自体については導入前や導入後にも賛否両論があり、私自身も基本的には否定的な見方をしている。というのも、当該制度は非常に形式的であり、財務諸表の信頼性担保という主要命題に対する実効性についてどこまで得られるかという点について疑問がある。一方で、「内部統制」そのものについては必要であると考えるし、単にトップダウンや形式主義的ではない「内部統制」制度のあり方を構築・運用することは非営利・協同の事業体における民主的な管理運営には重要な取り組みであると考えるものである。

 今回は、一般的にいわれる内部統制の意義や目的を述べつつ、非営利・協同事業体における内部統制のあり方について意見を提起してみたい。

 

1.非営利・協同組織における内部統制の現状

 

 非営利・協同の事業体では内部統制についての意識が低いように感じられるケースがまれに見受けられ、それが重大な影響を及ぼす場合がある。

これは、非営利・協同組織は基本的に非営利・協同の理念をめざす人びとで構成・運営されているし、相互信頼によっているところが大きく影響しているように思われる。その点についてはまったく否定するものではないが、やはり組織として一定の業務の「標準化」やチェック体制の整備といった組織的な管理体制の確立は必要であると考える。

 こうしたチェック体制の甘さや担当者任せの業務は、時として不正や重大な過失などの不幸な結果をもたらすことがある。組織が人を殺さないためにも、組織において適切な内部統制を整備・運用することが、むしろ「善意」の結集である非営利・協同組織においてこそ求められていると思うのである。

 

2.内部統制の意義と目的 -一般的な定義から-

 

 一般的に、内部統制とは企業目的を達成するために欠かせない仕組みであり、経営者は内部統制を構築するとともに、その有効性を保持する責任を負っているとされる。そして、内部統制は以下の4つの目的を達成するために、業務内に組み込まれ、組織内におけるすべての者が遂行すべきプロセスといわれている。

 

 (1)業務の有効性・効率性

 (2)財務報告の信頼性

 (3)事業活動に関わる法令等の遵守

 (4)資産の保全

 

 それぞれについての詳細な解説はここでは避けるが、項目でおおよその内容はご理解いただけるものと思われる。統制環境や情報伝達、モニタリングなどの要素を業務のなかに具体的に反映し、内部統制を構築・運用することにより、上記4つの目的が達成される。

ちなみにJ-SOXで求められるのは上記のうち「財務報告の信頼性」に関わる内部統制の評価報告となっている。

 

3.非営利事業体にあるべき内部統制制度とは

 

 上記の4つの目的を見ていただくとわかるとおり、これらは非営利・協同事業体においても達成されるべきものであり、その意味では非営利・協同の事業体においても内部統制は重要な仕組みであるといえる。

確かに内部統制報告制度は市場経済において主として投資家のための情報提供を目的として導入されたものである。しかし、企業目的達成の仕組みとしての内部統制といった場合、営利企業の企業目的が基本的に営利の追求であるのに対して、非営利・協同の事業体は営利追求ではなくその組織の社会的使命にある。つまり、そもそもの事業目的や存在意義の違いに決定的な区別があるため、その点であるべき内部統制のすがたもかわってくると思うのである。

 例えば、非営利・協同事業体において全構成員参加の経営を実践するための事業所独立会計という会計管理方法がある。これは法人・経営陣によるトップダウンではなく、職員の働く現場である事業所等を基礎に会計管理を進めるというものであり、職員の経営参加意識の向上や会計力量のアップ、これをつうじた経営改善等といった役割を発揮している。しかし一方で、事業所においても法人本部においてもほとんどチェック等がなされておらず、結果的に誰もよくわからないといった状況が生じているケースもまれに見受けられる。こうした事業所独立会計も事業所および法人本部における内部統制がしっかりと整備・運用されてこそ有効に活用できるものである。

 もちろん、単に「管理者の承認印が押してある」だとか、「資料間に照合したチェックマークがある」といった形式的なだけの内部統制では本末転倒であり、論外である。業務に携わる構成員すべてがこれらの意味を適切に理解し、時には民主的議論を重ねながら、実質的な内部統制のあり方を工夫・検討していくことが、非営利・協同事業体において必要ではないだろうか。

 非営利・協同の事業組織における内部統制のあり方はまだ研究されていないといえ、そこに市場経済の「内部統制」や「管理会計」が巧妙に入り込んできている。我々の事務所を含め、非営利・協同組織のなかから、構成員の自主的な管理と組織としての内部統制のあるべきすがたを、模索していきたいと考える。

 

(千葉 啓)

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