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マンション管理組合の決算

 先日、私が会計士事務所に勤めているからと友人から個人的な相談があった。それは彼の住んでいる分譲マンションの管理組合の決算についてだった。

 マンションの管理組合の決算は年度末ということで3月末が多い。それでだいたい総会が5月末から6月の頭となる。だから、今の時期に友人が相談してきたわけだ。

マンションの管理組合というものは、居住者が自分たちによって、自分たちのためにマンションの管理運営を行う組織であり、規模にもよるとは思うが、実質的に町内会のような地域コミュニティを成しているものだ。私としては、利益を追求しない、相互扶助的な役割というところから、これもまた非営利・協同的な組織ではないかと考えている。

 そんなマンション管理組合について、友人と議論・検討した中から、他の管理組合にも共通しそうな、点を簡単にではあるが記載したい。

 

1.収入

 基本的には、居住者から徴収するものであり、居住者からみて管理費や共益費等と言われる部分だ。ポイントとなるのは、居住者から適切に回収できているかどうかが、まず一番ではないかと思う。だいたいは、預金口座からの自動引き落とし等で適切に回収できるようになっていると思うが、それでも未収が発生することはある。それは、決算時点で支払っていない居住者がいるということだ。各居住者の事情はあるのだろうが、少なくとも管理組合としては、その回収見込や回収不能の場合の処置方法について居住者全体の共通理解が必要だろう。そのために毎期、管理費等の未収の報告は総会での外せない事項であると思う。

 

2.支出

 収入もそうであるが、まずは前年比を、予算があれば予算比も、決算書に掲載することが居住者への明解な報告に重要な点であると思う。マンション管理組合の収支に毎期極端な変動をする項目は多くないはずだ。なぜなら、収入のほとんどは居住者から定額を徴収するし、支出の大半を占めるだろう管理費用自体は大抵管理会社に年度契約等定額で委託している。また、同じことしている限りは光熱費等他の費用も前年からの極端な差額は発生しないからである。だからこそ、前年比や予算比あるいは差額を記載すれば、前年もしくは予算とは異なる収支がはっきり目に見え、理解しやすいのだ。大抵の組合では行われているのだろうと思っているが、あえて書いたのは、相談者が確認した初期の決算報告書には前年比や予算比の記載がなかったと聞いたからである。

 

3.次期繰越金

 次の修繕積立にもかかってくるところがあるが、この次期繰越金の金額をいくらとして規定するかで、相談者の総会で議論になったことがあるそうだ。多額に残るのなら居住者から徴収する管理費を下げられる、という論旨である。

 個人的には、次期繰越金は最低限収入の1ヶ月分くらいはあった方が良いのではないかと思っている。マンションの規模にもよると思うが、何か突発的な費用が起こった場合に組合からの出費が必要なら、後日別途徴収等をするかどうかはともかくとして、とりあえず払う必要はある。そのための余裕が必要なのだ。

 それに、管理費等は一旦下げると、以後まず上げることはできない。居住者がそう簡単には同意しないからだ。自分が分譲マンションに住んでいるとして考えてみれば、管理費が下がるのは諸手をあげて歓迎するが、上がると言われれば具体的な理由をしつこく追求するだろうし、無駄な出費がないか目を皿にして調査するだろう。賃貸物件のように借り換えると言うわけにはいかないのだから、なおさらのことであると思う。また、突発的な事象でなくとも将来的に契約変更や居住者からのサービスの増加要望等で管理組合の支出が増える可能性はある。各種料金の値上げ等も可能性としてはある。その点で一定の余裕が必要なのだ。一居住者としては、徴収される管理費は安い方がいいに決まっているのだが、安くてもマンションの管理・運営がおろそかになると本末転倒でもある。それに次の修繕積立金のこともある。

 

4.修繕積立金

 少なくとも相談者ところのマンション管理組合では、今まで記載してきた経常的な管理費等の収支とは別に修繕積立金の収支として決算書等に記載されているとのことだった。それは、基本的に1年で支出する管理費とは異なり、大規模修繕のために何十年単位で計画的に積み増ししていくものであるからだ。

 経常的な管理費収支差額で一定以上余剰が出た場合は、この修繕積立に振り替えて積み増すのが一般的であるように思う。単純に言えば、積立金が多い方が安心であるからだ。近々では東日本震災が顕著な例だろう。相談者のマンションも被害があったそうだ。幸いにも些少の被害で住んだため実際には経常的な管理費収支内での支出ですませることとなったが、これが大規模修繕の必要なレベルの被害であったら、修繕積立金の取り崩しが必要となっただろう。修繕積立金の積立計画には、大抵このような突発的な事象にかかる修繕費は見積もられてなどいない。経年劣化による修繕費用が主である。震災等の災害に関しては保険にも入っているだろうが、修繕費用が満額でるとは限らない。また、経済状況によって実際に支払う修繕費が良くも悪くも計画通りと行かないことは間違いないだろう。積み立て過ぎとならないよう、何期かに一度の修繕計画の見直しは必要としても、積極的な積み増しは修繕費が足りないという事態を防ぐためにも必要なことだと思うのだ。

 

5.資金運用

 主には修繕積立金だが、修繕費用等を捻出するために資金運用を行っている組合も多いようである。しかし、極端な例ではあるが、AIJ投資顧問の事件があったように、基本的に資金、資産の運用にはリスクがある。特に管理組合のような互助会的な組織の場合、損失が出た場合、基本的に外部から補填できない。居住者から徴収する以外に損失を埋めることはできないのだ。そのため、管理組合においても非営利・協同の事業組織によく言われるように「良手を選ぶのではなく、悪手を消していく」ことが重要となってくるのではないだろうか。

 

 マンションの管理組合は居住者全員の自分たちのための組織である。そのため、全員が明解に理解できる決算報告をしなければならないし、全員で支えていくためにも資金運用をするにしても損をしないことを前提とした共通理解を持たなければならない。そして何より居住者自身が管理組合のあり方について理解するよう努め、積極的に関わっていかなければならない。それが適切な管理・運営の第一歩目なのではないだろうか。

 

(濱谷 学)

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