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消費税率引上げに伴う「経過措置」~「経過措置の対象となる取引~

 2012年8月10日に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」が成立し、2012年8月22日に公布され、2014年4月1日から消費税と地方消費税を合わせた消費税率が8%となり、2015年10月1日から10%になることが既定路線になってきている。しかし、この増税が国民生活と日本経済に大打撃を与えることは明瞭であり、増税の実施を阻止するために国民的な議論が必要と考える。消費税増税についての論評は別の機会に譲るとして、ここでは、消費税増税が強行された場合の取扱いについて述べることにする。

 消費税増税の移行期においては実務的な混乱が生じるため、契約の実態等を踏まえて引上げ前の税率を適用することが妥当と認められる取引等については、施行日以後に行われる課税資産の譲渡等についても引上げ前の税率を適用することとする「税率に関する経過措置」が設けられている。

 また、国税庁は2013年3月25日付で「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて」(法令解釈通達)を公表している。前回1997年の税率引上げに際して公表された通達とほぼ同様の内容となっており、経過措置の適用関係について対象取引の意義や範囲などの取扱いが掲げられている。

 以下、経過措置の対象となる取引について解説する。

 

1.税率の適用関係(原則)

 消費税法の改正に伴う税率の適用は、施行日(2014年4月1日)以後に国内において事業者が行う課税資産の譲渡等について8%の税率を適用し、施行日前のものについては5%の税率を適用する。8%の税率が適用されるのは、契約日基準ではなく、あくまでも課税資産の譲渡等の日である。

 但し、下記に示す経過措置の対象となる取引については、旧税率が適用されるため、経過措置に該当する取引についての理解が必要となる。

 

2.「経過措置」の対象となる取引

(1)旅客運賃等に関する経過措置(改正法附則5-1)

 施行日前に前売りに係る料金等を領収している課税資産の譲渡等については、これらの前売りに係る課税資産の譲渡等を施行日以後に行う場合においても旧税率を適用する。

 具体的には、概ね次のような場合がこれに該当すると考えられる。

  ・前売乗車券(例 2014年3月15日に4月10日乗車分を販売した場合)

  ・回数券(例 2014年3月15日に使用期限3ヶ月の回数券を販売した場合)

  ・定期券(例 2014年3月15日に6ヶ月定期券を販売した場合)

  ・競技場の年間予約席(例 2014年3月15日に年間予約席を販売した場合)

 

(2)電気・ガス・水道水等の供給に関する経過措置(改正法附則5-2)

 施行日から2014年4月30日までに検針等を行って料金の支払いを受ける権利が確定するものについては、旧税率を適用する。

 但し、その役務提供に係る料金が一定期間の使用量に応じて変動しないものは、適用除外とされていることに留意が必要である。例えば、電話やインターネット接続に係る役務提供で定額料金となっているものがこれに該当すると考えられる。

 

(3)工事の請負等に関する経過措置(改正法附則5-3)

 事業者が指定日(2013年10月1日)の前日(2013年9月30日)までに締結した工事の請負(ソフトウェアの開発等、これに類する一定の契約も含まれる)に係る契約に基づき、施行日以後にその契約に係る課税資産の譲渡等を行う場合には、旧税率を適用する。

 なお、期間を定めて契約される保守、管理業務等は請負に該当するが、契約期間中に継続して役務提供を行うものであり、目的物の引渡しが一括して行われるものでないため、経過措置の対象にはならない。

 

(4)資産の貸付けに関する経過措置(改正法附則5-4)

 事業者が指定日(2013年10月1日)の前日(2013年9月30日)までに締結した資産の貸付けに係る契約(いわゆる賃貸借契約)に基づき、施行日前から施行日以後引き続きその契約に係る資産の貸付けを行っている場合、契約内容が一定の要件を満たしていれば、施行日以後に行うその資産の貸付けに係る消費税については、旧税率を適用する。

 なお、オペレーティングリースについては、資産の貸付けに係る契約に該当するので、カーリース等オペレーティングリースとなっているものについては、留意が必要である。

 

(5)売買とされるリース取引(所有権移転外ファイナンスリース取引等)の取扱い

 上述(4)の適用を受けるのは、資産の貸付け取引であり、資産の譲渡として消費税が課されるものは対象とはならない。すなわち、所有権移転外ファイナンスリース取引等は、所得税法及び法人税法においては売買取引とされ、消費税法においても資産の貸付けではなく、資産の譲渡として取扱われており、売買とされるリース取引には、経過措置は適用されない。したがって、現行の消費税法において資産の譲渡に該当する所有権移転外ファイナンスリース取引等は、前回の税率引上げ時には、リース取引として経過措置の対象とされたが、今回の税率引上げにおいては、資産の貸付けとしての経過措置の対象とはならないことに留意が必要である。

 要するに、リース資産の引渡しを行った日が施行日前である場合は、リース資産の譲渡対価の全額に対して5%が適用され、施行日以後であれば8%が適用されることから、リース資産については区分管理する必要がある。なお、賃借人が、所有権移転外リース取引について会計上賃貸借処理(支払時にリース料として費用計上)している場合に、支払時に控除対象仕入税額を認識する(分割控除する)ことを容認する特例は継続すると思われる。この場合の毎月のリース料に係る適用税率も引渡時点の税率と思われる。

 

(6)役務の提供に関する経過措置(改正法附則5-5)

 一定の日より前に契約が成立し、その対価の額も定められている役務の提供については、契約の日の消費税率が前提となっているものとして、旧税率が適用される。

 しかし、これが適用されるのは、事業者が指定日(2013年10月1日)の前日(2013年9月30日)までに締結した役務提供に係る契約で、その契約の性質上役務の提供の時期を予め定めることができないものとされている。具体的には、冠婚葬祭のための施設の提供その他の便宜の提供等に係るものが該当し、一般的な役務の提供に係る契約は含まれない。

 

(7)長期割賦販売等に関する経過措置(改正法附則6-1)

 事業者が施行日前に行った長期割賦販売等に係る資産の譲渡等について、その長期割賦販売等に係る賦払金の額で施行日以後にその支払期日が到来するものは、その賦払金に係る部分の消費税は旧税率が適用される。

 

(公認会計士 田中 淑寛)

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