消費税法別表第三に掲げる法人及び人格のない社団等に対する消費税の特例
今回紹介する消費税の計算の特例については直近の改正等で新たに設定されたものではありません。しかし、我々が関与する非営利団体の法人については適用が必要となる場合があります。地方公共団体などは法人税法上法人税を免除され納税義務者となりませんが、消費税法上では課税資産の譲渡等をおこなう限りにおいては当然に消費税の納税義務者となり得ます。このような地方公共団体などにも一定要件を満たせば適用することとなる特例なので、計算方法も特殊であります。該当法人の方以外には受け付けにくいものかもしれません。こんな規定もあるのかといった気持ちで見ていただければと思います。
1.適用対象事業者
消費税法別表第三に掲げる法人及び人格のない社団等が対象となります。社会福祉法人やNPO法人は対象となり、株式会社などには適用されません。
2.適用対象事業者であっても計算の特例を行う必要がない場合
・消費税の免税事業者である場合
・簡易課税制度の適用を受けている場合
・特定収入割合が5%以下である場合
3.特定収入とは
特定収入とは、資産の譲渡等の対価に該当しない収入のうち、特定収入以外の収入(出資金や貸付金の回収による収入など)に掲げる収入以外の収入をいいます。例示を以下に掲げます。
・租税
・補助金
・寄附金
・対価性のない負担金
・出資に対する配当金
・保険金
・損害賠償金
・対価性のない会費等
・その他一定のもの
以上のようなものが特定収入に該当しますが、人件費補助金、利子補給金、土地購入のための補助金など特定支出(課税仕入れ等以外)のためのみに使用される収入は特定収入に含まれないので、注意が必要です。
4.特定収入割合
特定収入の合計額÷(資産の譲渡等の対価の額の合計額+特定収入の合計額)
上記算式により算出した割合が5%超となった場合に、適用対象事業者はその課税期間の仕入控除税額に調整を行い消費税の計算をすることになります。
5.特定収入に係る課税仕入等の消費税額の計算方法
納付税額=その課税期間中の課税標準額に対する消費税額 -その課税期間中の( 調整前の仕入控除税額-特定収入に係る課税 )仕入等の税額
要するに補助金や寄附金等といった特定収入によって賄われる課税仕入れ等の税額は仕入控除税額として認めないということになります。
6.特定収入に係る課税仕入れ等の税額の算出方法
課税仕入れ等に係る特定収入(課税仕入等の取引のみに使用するとされている使途が明らかな特定収入)に4/105を乗じた金額すべてが特定収入に係る課税仕入等を構成することになります。
課税仕入れ等に係る特定収入以外の特定収入(使途が不特定の特定収入)は、調整前の仕入控除税額から課税仕入れ等に係る特定収入に4/105を乗じた金額を控除した金額に調整割合を乗じて計算したものが特定収入に係る課税仕入れ等を構成することになります。
一般的には補助金などは使途が特定され、寄附金などは使途の特定が困難といえるでしょう。
なお、調整割合とは以下の算式により算出される割合のことをいいます。
使途が不特定の特定収入の合計額÷(資産の譲渡等の対価の額の合計額+使途が不特定の特定収入の合計額)
大まかですが、以上が消費税法別表第三に掲げる法人及び人格のない社団等に対する消費税の適用の特例規定となります。文章では分かりにくい部分も多々あると思われます。参考までに事例を以下に掲載しておきます。
【事例】
前提:すべて税込の金額であり、一括比例配分方式を採用しているものとします。中間納付税額はなかったものとします。
(1)課税売上: 105,000,000円
(2)非課税売上: 50,000,000円
(3)補助金収入: 30,000,000円(使途が課税仕入れのみ)
(4)補助金収入: 10,000,000円(使途が人件費のみ)
(5)寄附金収入: 20,000,000円(使途が不特定)
(6)課税仕入れ: 84,000,000円
(1)課税標準額
105,000,000円×100/105=100,000,000円
(2)課税標準額に対する消費税額
100,000,000円×4%=4,000,000円
(3)調整前の仕入控除税額の計算
※一括比例配分方式を採用した場合の調整前の仕入控除税額
調整前の仕入控除税額=課税仕入れ等の税額×課税売上割合
・課税売上割合
100,000,000円/100,000,000円+50,000,000円=66.66….%
・調整前の仕入控除税額
84,000,000円×4/105=3,200,000円
3,200,000円×66.66….%=2,133,333円
(4)特定収入に係る課税仕入れ等の税額(調整税額)の計算
・特定収入割合
50,000,000円/150,000,000円+30,000,000円+20,000,000円=25% > 5% ∴特定収入に係る調整計算を行う
※補助金収入のうち人件費に充てることとされているものは、特定収入に含まれないので、注意が必要です。
・調整後税額の計算
ア)課税仕入れ等の取引のみに使途が特定されている特定収入に係る税額
30,000,000円×4/105×66.66…%=761,904円
イ)使途不特定の特定収入に係る税額
調整割合=20,000,000円/150,000,000円+20,000,000円=11.76…%
(2,133,333円-761,904円)×11.76…%=161,344円
ウ)特定収入に係る課税仕入れ等の税額(調整税額)
761,904円+161,344円=923,248円
エ)控除対象仕入税額
調整前の税額-調整税額=控除対象仕入税額
2,133,333円-923,248円=1,210,085円
(5)納付税額の計算
・差引税額(納付税額)
4,000,000円-1,210,085円=2,789,915円→2,789,900円(百円未満切り捨て)
・地方消費税の納税額
2,789,900円×25%=697,475円→697,400円(百円未満切り捨て)
・合計額
2,789,900円+697,400円=3,487,300円
(久保田 寛)